2019.12.24

ピープルアナリティクスとは

IT業界は、時代の先端分野で華やかに見られますが、ストレスや自律管理の風潮が強いため、人材マネジメントの課題はたくさんあるようです。その中で、成功している組織では、従来の指示・命令を中心とした「管理型のマネジメント」ではなく、人の意欲と能力を引き出す「ピープルマネジメント」が積極的に取り入れられています。

ピープルマネジメントは、タレントマネジメントの延長線上にある存在で、社員が意欲を高め、主体的に判断し、各自の強みを発揮することを促すために、パフォーマンスだけではなくエンゲージメントの向上を重要視したマネジメント手法です。そこでそのマネジメント支えるのが「データ」です。ビックデータやAIを活用した事例が話題ですが、HR領域でも「ピープルアナリティクス」を利用して、データを活用する手法が注目を集めています。

今回はこの「ピープルアナリティクス」の意味や事例などを、簡単ではありますがご説明させていただきます。

ピープルアナリティクスとは

ピープルアナリティクス(People-Analytics)」とは、「HR Tech(人事領域でのテクノロジー)」技術の1つです。

企業に蓄積された「人(人事・HR)」の領域に関連する情報や数字などのデータを、「収集・分析(アナリティクス)」して、採用、教育、評価といった人事業務の意思決定や効率化に役立てることを意味します。他にも、「タレント(人材)・アナリティクス」とか「HRアナリティクス」などと呼んでるものもあります。

今までの人事領域にける意思決定には、人事部門の社員の経験と勘に頼ってきたと言えると思います。
面接にしても、面接官が「ピンときた」という判断のもと、1次、2次と段階的な勘に絞り込まれて、最終的に決まってました。これが悪いというわけではありませんが、客観性が担保できなくても、採用者が決まるということは全く問題がないというわけでもないと思います。

採用だけでなく人材の流出というケースでも、勤怠情報などから「Aさんの様子がおかしいな」と担当者が気にして、面談したら転職を考えていたなんてケースがあります。ここにも担当者がAさんの様子に気が付かなければ、むざむざ人材を流出させていたかもしれません。

面接にしても退職傾向の発見にしても、人事担当者の主観に頼ることは、その判断に結構なリスクがあります。まして、これが昇進・昇格といった働きぶりの評価になると、意思決定に対して従業員の納得が得られません。
ピープルアナリティクスは、参考になる社員の行動データの収集と分析によって、こうした主観的ではないデータに基づいた判断材料を使うことで、意思決定の透明性や公正さを保ち、精度の高い人事戦略を実現し、最終的に企業のパフォーマンスを大きく上げるツールなのです。

面接

ピープルアナリティクスの仕組み

ピープルアナリティクスの目的が分かったところで、その仕組みについて、簡単に触れておきたいと思います。

多くのピープルアナリティクス手法は、大体大きく分けての3ステップに沿って実行されます。

  • Step1: データ収集の仕組みを作り、蓄積する
  • Step2: 収集・蓄積したデータをモニタリングし、分析する
  • Step3: 分析を元に仮説を立て、施策を実行する(分析モデルを構築する)

 

解析に使われるデータには、性別・年齢といった基本的な情報から、「IQ、EQ」「資格」「技術」などの「能力データ(能力特性)」、「適性試験結果」「面接結果」「評価結果」などの「性格データ(性格特性)」、「勤怠情報」や最近ではスマホやウェアラブルデバイスのセンサーなどから取得した「行動情報」などの「行動データ(行動特性)」があります。

これらのデータを様々な分析手法、例えば機械学習やAI(人工知能)を使って解析することにより、「人の採用・配置・登用」や「従業員業績・満足度の向上」、また「人材育成」や「離職の予防」などに対し、改善施策を生み出していきます。

(参考)分析方法

  • 集計 …有意差や相関などの傾向を見る
  • 分類 …カテゴリ(クラスター)によって傾向をみる
  • 比較 …類似性によって傾向をみる
  • 予測 …モデルを構築し、未来を予測する

 

また「発見し、改善する」という意味だけでなく、AIを活用することで、これまで人間が行っていた業務を自動化することで、「生産性を向上させる」という意味においても、ピープルアナリティクスはメリットがあります。

AIで分析

利用ケースとメリット

ピープルアナリティクスを用いることで、様々なメリットがあることは説明しましたが、ここでは具体的に上げてみたいと思います。

採用・退職面でのメリット

採用でのテーマは「自社に合った人材を効率的に獲得する」ことだと思います。
ピープルアナリティクスを使って、採用に関するデータを分析すれば、人による無意識のバイアスを排除して、効率的な採用を行うことができます。

この時に分析対象となるデータとして、「求人公開から採用までにかかっている時間」「採用した人の属性」「リファラル採用の割合」「1名あたりの採用コスト」「ステップごとの選考通過率」「内定承諾率」などがあります。

例えば、採用決定率が下がっていた場合、原因と考えられるものに「自社のブランド力や魅力度の低下」があります。改善には、様々なデータを分析してその原因を突き止めないと、下がり始めた採用決定率を留めることはできないのです。

ピープルアナリティクスは、退職防止にも貢献します。例えば、過去の退職者情報を分析することで、退職リスクを事前に減らすことができます。
具体的には、ある部署に配属されると離職率が相対的に高まることがデータからわかったとします。業務上の理由から、どうしてもその部署に配属しなければならなくなった場合、配属先との相性が高い従業員を選んで配置したり、配属前に十分な説明をして納得してもらい、配属後にも気をつけてフォローすることで、退職を防ぐことができるかもしれません。

また、勤務状態や面談記録データをAIで分析すると、ある特性の従業員が退職を検討している状態であることを予測したりできます。

人材リソースに関わるメリット

  • 組織特性に合った人材を採用することができる(会社と人材の適合度予測)
  • 人材の評価(書類面接の評価・面接時の評価・入社後の評価予測)がスピーディにできる
  • 社内に埋もれた人材を発掘することができる
  • アラートを上げ、素早く対処することにより離職率を下げられる

 

組織づくりやパフォーマンス面でのメリット

従業員のパフォーマンスアップやエンゲージメントに貢献する概念として、従業員体験を意味する「Employee Experience(EX)のアップ」があります。これにおいてもピープルアナリティクスによるデータ分析は不可欠です。

この場合、最初にデータやアンケートを使って組織の状態を可視化し、そこにある課題を特定します。それを組織編成や施策を講じて解決し、より良いEXを実現することで、ES(従業員満足度)を高め、離職率を下げることができます。

この時に使うデータは、アンケートや面接から取得した「ES(従業員の満足度)」「従業員の幸福度」「eNPS(従業員ロイヤリティ)」、勤怠等から取得した「新入社員の早期退職率」「優秀層の離職率」「マネージャー、メンバーの欠勤率」などがあります。

組織づくりやパフォーマンス面でのメリット

  • 従業員のポテンシャルを発揮させる効率的な配置ができる
  • データに基づいた公正な報酬体系を作ることができる
  • 従主観のみで時間ばかり使うムダな議論を避け、人事業務の生産性を高めることができる
  • 様々な意思決定に対する説明責任を果たすことができる
  • 従業員満足度が上がり、定着率が上がる
  • 担当者が代わっても判断基準がブレにくい人事業務が行える

 

教育・育成面でのメリット

育成に関するデータは、他の分野より比較的取得しやすいので、ぜひ活用してもらいたいと思います。
例えば、「研修参加率」「資格・試験の受講率」「育成やトレーニングに対する社員満足度」「従業員の昇格・昇給率」などです。

ピープルアナリティクスは、従業員の育成や、キャリア形成のサポートのためにもデータを活用できます。従業員がこの会社で成長していくイメージを持ってもらえるかがパフォーマンスやエンゲージメントに大きく影響してきます。

教育・育成面でのメリット

  • データーからハイパフォーマーを生み出す要素を解明できる(ハイパフォーマーの特徴抽出)
  • ハイパフォーマーの分析を通じて、次世代リーダーを発掘できる
  • 若手のポテンシャルを引き出し、育成する
  • 研修内容・方法の最適化ができる
  • 後継者育成計画(サクセッション・プランニング)の立案ができる

 

現状はデータの収集面での障害が多く、まとまってデータが取りやすい採用面での活用が目立ちます。
採用面での活用例では、まず既存社員の分析を行い、これからどのような人を採用するべきなのか、具体的な検討がしやすくなります。社内の弱点を補う人材を採るのか、強みをさらに伸ばせるような人材を採るのか、組織を活性化するために若手を採るのかといった判断をします。

そして、採用面接時には、応募者が入社後に活躍するのかどうか、あるいは、短期間に離職するのかどうか、データ活用によって予測が可能になります。

これだけでも、ピープルアナリティクスを採用領域に活用することで、組織全体の生産性を高め、離職率を下げる効果が得られることになります。

特に、「従業員のポテンシャルを発揮させる効率的な配置ができる」という点では、海外赴任における「人」と「場所」のマッチングで、ピープルアナリティクスに注目が集まってます。
科学的・客観的なデータを収集し、社員のパフォーマンス・行動・コンピテンシーの特性を分析します。そして「場所」と「人」をベストマッチングできるスキームを構築するのです。こうして各メンバーが最適な環境で、本来の実力を発揮することにより、「パフォーマンスの向上」と「リテンションの向上」が期待されます。

こうして考えて見ると、ピープルアナリティクスは、「ピープルマネジメント」をする上で欠かせないツールということがわかります。

事例

ピープルアナリティクスは、Googleなど海外のIT関連企業での先進的な取り組みが公開されることによって、まず海外で注目を集め始めました。「ピープルアナリティクス」という言葉自体が、Googleにある「People Analytics」という名称の組織名が基になっているとも言われています。

では、日本はどうかというと、日本の人事部はまだまだ主観的・属人的な判断が多く、導入スピードは海外ほど早くないようです。

それでも、注目を集めるIT企業では、積極的に導入が始まりつつあります。特に、機械学習(AI)を用いて、「予測モデル構築」し「未来を予測できる」というメリットが注目されています。「人材の発掘」という面では、FaceBook社が実施しているインターネット上の広範なデータから探し出すなんてプランもあるようです。

具体的に見て見ましょう。

Google

ピープルアナリティクスについては、Googleは先頭を走る企業です。社員の採用から育成、さらに退職の防止まで、ピープルアナリティクスをその基礎として捉えています。

  • 面接官によるブレをなくし、採用面接手法の効率化・高度化を行う
  • 解析により、有名な「マネージャーに求められる8つ要素」の発見ができた
  • チームの生産性を高めるための「心理的安全性」の発見した

など、数多くの取り組みと功績があります。

かつてはGoogleも、感情や直感がベースの「終わりのない議論」を行っていたようですが、現在では、事実と科学に基づく分析を行い、より効率的に、公正な意思決定を行えるようになったとコメントしています。

Googleのピープルアナリティクス担当副社長は 「Googleではデータと分析にもとづいて、すべての人事に関する意思決定を行われるべきだ」 と説明しています。

例えば、Googleの「re:Work」サイトでは、データと分析にもとづいてアプローチすることにより、人事面の新しい洞察を得たり、人事問題の解決に役立て、Googleらしい社員(グーグラー)を発掘、育成、定着させる用としています。

こうしたGoogleの取り組みの成果が「re:Work」サイトで公開されています。

▶ re:Work

Microsoft

Microsoftも、従業員のキャリア・プログラムの中で幅広くピープルアナリティクスを用いてきた実績があります。新興ITベンチャーが続々と立ち上がり、業界の雄Microsoftも人材の確保が困難になってきました。
そこでMicrosoftは、様々手を出した事業の整理を進めると同時に、人材の配置・教育・採用の効率化について取り組みを強化しました。

Microsoftのピープルアナリティクスへの意気込みが感じられる出来事が、VoloMetrix社の買収です。VoloMetrixは企業内でデータを収集し、従業員がどのように働いており、どうすればよりよく働けるかを明らかにする、「ピープルアナリティクス」のリーディングカンパニーです。VoloMetrixが開発したテクノロジは、エンタープライズ向けのOffice 365に組み込まれる、組織アナリティクスツールに統合されと予想されています。

Microsoftは、自社内での人事戦略だけでなく、ピープルアナリティクスを使ったビジネスにも取り組んでいるのです。

ソフトバンク

国内事例として、ソフトバンクのピープルアナリティクス事例をご紹介します。同社では、新卒採用選考において、IBM社のWatsonを使ってAIによる、エントリーシート選考の合否を判断する取り組みが行われています。

これまで人事担当者が行っていた選考作業を、WatosonのAIが行うことで、属人的な「主観」の判断から、「公平」な選考を行えるようになりました。ついでに、その選考作業に関わっていた人の、75%の工数削減にも成功しました。

日本の新卒採用では、伝統的に大量応募・大量選考が行われているため、ピープルアナリティクス(AI)を、業務効率化に用いる事例は今後も増えてくるのではないかと期待されています。

ピープルアナリティクスの運用について

ピープルアナリティクスで、データをどのように使うかは人事次第です。つまり、どんなデータを取るか?どのように解釈して、どのように改善や改革につなげるかは人間が考えることです。つまり、ピープルアナリティクスの担当者のアイディアにかかっています。

また、データが必ずしも正確ではない場合もありますし、データや評価に現れない(測れない)部分もあるので、「人」の判断を全く排除するのも良くないかと思います。したがって、初めての導入に際しては、ピープルアナリティクスは「人の意思決定の支援」をする感じでスタートしてみるのが良いかと思います。

人の意思決定の支援

データの取得・活用・取り扱いに注意

ピープルアナリティクスでデータを取り扱う上で、「改正個人情報保護法」はしっかりと意識すべきルールです。

2017年の改正個人情報保護法では、個人を特定できる情報を取り扱う事業者すべてに対して、その管理の徹底と、ルールの適用が義務づけられました。

例えば、外部のコンサルに支援してもらう場合など、ピープルアナリティクスで使う人事情報を「第三者に委託する」のであれば、その「個人情報の取り扱い」ルールに注意しなければなりません。この場合のデータは、「氏名」「生年月日」「住所」「社員IDと所属部署」など、他の情報と併せることで個人を識別できるすべての情報になります。

また、自社でピープルアナリティクスを導入する場合も、個人情報について意識する必要があります。つまり、採用活動や異動・配属、評価にデータを活用する場合、それが個人情報の利用目的の範囲内に収まっているのかです。また取得時にしっかり分析に使うことを明示していないと、最初の利用目的の範囲を超えているため、新たに本人の同意が必要となります。

自社内の情報とは言え、無条件に人事データを利用することは倫理的にも問題があり、個人情報の取得や活用、取り扱いに関する法令やガイドラインに従うことは企業の義務なので、しっかり説明し、厳重に管理していただければと思います。

最後に

ピープルアナリティクスを導入しても、データの収集・集計に奔走し、「傾向をなんとなく掴む」だけで終わってしまうことがよくあります。

人事分野は、マーケティングなどの分野と比べると、利用できるデータの数が少ないので、目的をはっきりし、適切にデータを収集・分析しないと、ちゃんとした成果につながりません。
また分析が適切でないと、誤った意思決定を下して、効果がないばかりか、逆の結果を生み出してしまうことがあるのが人事戦略の怖いところです。つまりデータ分析やAIを勉強して、ピープルアナリティクスを正しく使える人材が自社にいないと、運用は難しいかもしれません。

しかし、ピープルアナリティクスを使った人事戦略の流れは、今後どんどん主流となり、避けることはできない戦略投資になるかと思われます。
なるべく早く取り掛かり、メリット・デメリットを実感しながら、その分析精度を上げていけば、必ず大きな成果を出してくれると思います。

2019年度最後のコラムになりました。最後まで読んでいただきありがとうございます。2020年度も引き続きご覧いただけると嬉しいです。

それでは、少し早いですが、良いお年を。

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