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- EQとは
IQ(Intelligence Quotient)については、もはや説明を必要としないほど定着した言葉と思いますが、最近注目されている「EQ」についてはみなさんどうでしょうか? 関係者間で話題として挙がっても、「なんとなく知ってる」「意味は知ってる」「IQと違うのはわかる」と言った感じの方が多いように思えます。 今回はこの「EQ:Emotional Quatient」について、IQとの違いも含め、簡単に説明していきたいと思います。 目次 IQとは何だったか? IQが高いことは知能が高いのか? 社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか? EQとは EQの測り方 EQを高める教育 EQの高い人材のメリット 最後に IQとは何だったか? EQの説明の前に、おなじみのIQ(Intelligence Quotient)についておさらいさせていただきます。 IQは「知能検査(IQテスト)」の結果を数字であらわしてます。テストによって人の知能の基準を数値化したものなので、値が高いほど知能が高くなります。 算出方法にはいくつかありますが、長いこと主流で使われていたのが、「生活年齢(実年齢)と精神年齢(知能)の比」を基準として、テストの結果を割り振って算出される知能指数です。具体的な式は「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」となり、100に近いほど出現率が高くなります(つまり人数が多い)。 最近は「同年齢集団内での位置」を基準とした「偏差IQ(Deviation IQ, DIQ,偏差知能指数、偏差値知能指数)」というものがメインで使われています。 「同年齢の集団においてどの程度の発達レベルなのか」を把握するために、年齢別の平均値を基準として知能指数を算出します。テストの結果を「同年齢集団内での位置」から算出するので、中央値が100として、100に近いほど出現率が高く、100から上下に離れるに従って出現率が減っていくことになります。 ※偏差IQが主流になった経緯としては、「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」の式では、年齢が高くなるにつれて値が低く算出されるという問題が発見されたためです。 では、やはり気になるのは数値ですよね。世界保健機関(WHO)の基準では下記のようにランク付けされています。ご自身の数値を覚えている方は当てはめてみて下さい。 130以上:きわめて優秀 120~129:優秀 110~119:平均の上 90~109:平均 80~89:平均の下 70~79:境界線級/ ボーダーライン 70未満:知的障害 IQが高いことは知能が高いのか? さて、このIQですが、「IQが高い=知能が高い(頭が良い)」ということになるのでしょうか? 「知能」の定義を心理学の視点で見ると、果たしてこのIQがどれだけ生活するうえでメリットがあるのか、ちょっと疑問に思えるかもしれません。 「知能の定義」については時代や学者によっても諸説ありますが、代表的な例として下記の3つの定義があります。 “ルイス・L・サーストンの知能の定義” 言語、数、空間、記憶、推論、語の流暢さ、知覚 “ハワード・ガードナーの知能の定義” 言語的知能、論理的数学的知能、空間的知能、音楽的知能、身体運動的知能、対人低知能、博物的知能、内省的知能 “デイヴィッド・ウェクスラーの知能の定義” 目的別に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する個人の総体的能力 上記3名はともにアメリカの心理学者で、発表が古い年代から順番に記載してます。同じ「知能」を定義しても、いろいろな能力を含んでいることがわかると思います。 狭義のIQの場合は、サーストン教授の定義で当てはまりそうですが、人材教育などでもよく目にするガードナー博士による定義には「対人低知能」「内省的知能」と言った狭義のIQでも偏差IQでも測れそうにない内容となってます。 こうしてみると、既存の知能検査で測定できるのは、知能の定義のうち、主に「言語的機能」や「論理数学的機能」と定義される能力に限られているんですね。 つまり、知能検査で計ることができる能力は知能の一部なので、知能指数が高いと「頭が良い」とは単純に言い切ることはできず、「言語的・論理数学的機能において優れている」ということなります。 社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか? では、「賢い人」と考えるとどうなのでしょうか? これまたいろいろな解釈があると思いますが、ここでは「仕事などの社会生活をするうえで知能が優秀な人」という観点で考えてみます。 そこで「社会生活をする上での知能を測るにはどうすればよいのか?」という観点から新たに作られた指標が「EQ:Emotional Quatient(心の知能指数)」になります。 以前コンピテンシーの用語説明で、ハーパード大のデイヴィッド・マクレランド教授の「学歴や知能レベルが同等の外交官が、駐在期間に業績格差が付く理由はなぜか」という調査の話を書かせていただいたかと思います。成績優秀・IQの申し子と言うべき外交官職でも、「学力よりコミュニケーション力や人間性が、外交官の適性においては重要である」という結果が出ていました。正確にはIQではなく、学力なのですが、たとえIQやDIQが高くても、同様のことが言えると思います。 では、いよいよ本題の「EQ:Emotional Quatient(心の知能指数)」について、詳しく見て行こうかと思います。 EQとは EQ(Emotional quotient または Emotional Intelligence Quotient)は、日本語に訳せば「感情知能指数」といった感じになるかと思います。 定義的には「自己の感情を自己管理するとともに、他人の感情を適切に理解・共感する能力を測定する指数」となります。感情の働きを踏まえて、自分や相手の感情をうまくコントロールする能力なので、知能指数を指すIQに対比して、「こころの知能指数」とも呼ばれています。 歴史的には、ピーター・サロベイ博士とジョン・メイヤー博士によって1990年に提唱されたました。二人は、学歴や知能などではなく心理学の立場から、ビジネス社会における成功の要因とは何かを探り、「感情をうまく管理し、利用できることは、ひとつの能力である」としてEQの考え方を示しました。 論理的ではあるが、言い方が悪いため、相手から反抗されてしまったり、博学で優秀だが、場の空気を読めず、余計なことを言って雰囲気を悪くしたりするのはEQが低い結果ととらえます。 EQは先天的なものではないので、トレーニングで能力を上げていくことができます。EQでは、感情を扱う知能を「識別」「調整」「理解」「利用」の4つに大別し、おのおのの使い方を習得したり、弱いエリアを強化することで、人間関係を円滑に運用できるようになるのです。 やがてEQは、対人関係スキルを重視するアメリカのビジネスの現場で注目されるようになりました。日本でも企業や研修だけでなく、教育現場における人材育成などにおいて各自治体などでも広く取り入れられるようになってきています。特に新人研修だけでなく、マネージャーなど管理職など、ベテランに効果があると言われています。 EQの測り方 EQについては研究が進められているため、様々な測定方法がありますが、もっともメジャーな心理学者のダニエル・ゴールマンの開発した「ミックス・モデル」で説明させていただきます。ミックス・モデルには5つの重要な要素があります。 自己認識力 自分の感情がわかっているということ指します。 自己制御力 自分の感情が爆発しそうになった時に抑制できる力です。反対意見の人と落ち着いて議論をできたり、感情が溢れだすのをコントロールする力、自己憐憫(じこれんびん)やパニックなどの自分を弱める行為を避けることができることも含まれます。 意欲 お金や地位のような報酬が動機になるのではなく、個人の喜び、好奇心、生産的であることに対する満足感のために生まれる意欲が出せる力です。 共感力 他人の気持ちをくみ取る能力や行為で、それに対して適切な反応をすることです。 社会的能力 他人に共感するだけでなく、自分と他人のニーズを交渉する能力のことです。他人との合意点や着地点を見つけたり、仕事で他人を管理したり、説得力があることも含みます。 上記の5つの項目を、「EQ行動特性検査」などのテストで分析し、数値化します。 「EQ行動特性検査」の結果を項目化したものの例としては、下記のような分類分けをよく見ます。 心内知性(セルフ・コンセプト) 自分の心理状況を捉え、コントロールする知性 自己認識力やストレス耐性、気力創出力など 項目:私的自己意識、社会的自己意識、抑鬱性、特性不安、自己コントロール、ストレス対処、精神安定性、セルフ・エフィカシー、達成動機、気力充実度、楽観性など 対人関係知性(ソーシャル・スキル) 自分の考えや気持ちを適切かつ有効に相手に伝え、相手に働きかける能力 自己表現力やアサーション、対人関係力など 項目:情緒的表現性、ノンバーバル・スキル、自主独立性、柔軟性、自己主張性、対人問題解決力、人間関係度 状況判断知性(モニタリング能力) 相手の様子や立場を理化し、自分との様子を客観的に観察する能力 対人受容力、共感力など 項目:オープンネス、情緒的感受性、状況モニタリング、感情的温かさ、感情的被影響性、共感的理解 聞きなれない項目も多いので、いくつかご説明します。 社会的自己意識 他人が自分のことをどう思っているかを気にすることで、強いことにより、周囲の期待に沿って行動するので、ルールを守ったりする傾向が出てきます。 特性不安 何か始める前に不安が先行しがちな人です。初対面の人と打ち解けるのに時間がかかる傾向があります。 セルフ・エフィカシー 自分の能力に自信がある人が高いです。自信があるので、何事も挑戦する傾向があります。 情緒的表現性 自分気持ちを素直に伝えられる人です。喜怒哀楽がストレートな傾向があります。 ノンバーバル・スキル ジェスチャーなどの言葉以外の表現力です。プレゼンなどで力を発揮します。 オープンネス 心を開いて、分け隔てなく接することができる人です。相手の話をよく聞く傾向にあり、信頼されます。 情緒的感受性 相手の言葉のニュアンスや表情などを読み取り、相手の気持ちや真意をつかむ能力です。 状況モニタリング 置かれている状況や人の動きを客観的に観察する力で、それを使って臨機応変な態度ができる人です。 感情的被影響性 他人の感情に引きずられやすい性格です。自分も冷静な判断ができなくなってしまうケースがあります。 EQを高める教育 EQを高めるための研修は、管理職に特に効果が大きいと言われてます。 管理職は部下の育成が命題ですが、管理職のEQスキルが低いと部下の成長を妨げてしまう場合もあります。部下の感情の動きを読み取りながら、対応の仕方を工夫するという柔軟な対応ができるようになれば、部下のやる気を醸成し、職場の活性化にもつながります。また管理職がEQを高めて、感情コントロールができるようになれば、トラブルや困難な課題に対しても自分を鼓舞し、高いモチベーションを維持することができます。 効果的なEQ研修を行うため、まず事前にEQ検査(EQ行動特性検査)を受検する研修プランがほとんどです。 事前にEQ行動特性検査を受けることにより、自分のEQの発揮度合いと他者・職場への影響を自己理解できます。 また、組織(受講者全員)のEQ平均と自分のEQを比較することにより、今の自分の状況との突き合わせ(強みと課題)の発見することができます。 後はEQを伸ばすために、専門講師によるレクチャーやワークショップを行います。 具体的には、EQについての理解を深めるレクチャーを受け、事前の診断結果を参考にアイスブレイク、自己プロファイリングを行い、二人一組による相互分析とフィードバック、フィードバックで自己理解を深め、自分の「強み」「弱み」の整理し、最後にはEQを踏まえて具体的な能力開発の行動計画を策定したりします。 EQ研修は、自己のEQを認識するとっかかりとしては効果的だと思いますが、実際は日々のトレーニングが大切だと思います。毎日の仕事などの社会生活の中でしかEQを鍛えることはできないからです。 また、EQは遺伝などの先天的要素が少なく、教育や学習、訓練を通して高めることができる能力です。つまり適切に訓練・努力すれば、その発揮能力を高めることができるのです。「EQというのは能力であり、EQを発揮することは自分の能力を発揮することだ」という意識を持つことは、EQを高める第一歩です。 EQの高い人材のメリット EQがビジネスを遂行する上で大切な能力であることは明白かと思います。会社としてEQ教育を行うことは、「人に強い人材」を見つけ、育てることになります。 社員のEQが上がることにより、個人の業績のアップや、チームワークの高まり、育成などマネージメント力アップ、取引先との良好な関係などが期待できます。また、個人のストレス耐性があがりますので、メンタルヘルス不調による休職・退職を減らせるといった効果も報告されています。 こうした企業にとって有益な人材ですから、もちろん採用時に獲得できるのにこしたことはないのですが、前出の通り先天的要素が少ないので、入社後でも十分伸ばすことができます。ぜひ企業として積極的に取り組んでいただきたいと思います。 最後に IQが「記憶し、知識として生かすことで問題解決を行う能力」とするなら、EQは「感情を管理・利用することで、問題解決のための適切な思考や行動に導く能力」です。業務をこなすのに、IQは欠かせませんが、その時々の感情の状態によって発揮度は差が出ます。感情をコントロールできるEQを発揮することで、IQを十分に発揮することができるようになるのです。 また、EQをどう活用させれば結果を得られるかと考え、結論を出すのはIQとも言えます。 どちらか一方だけでなく、両方を上手く活用することが大切なんですね。 最後までお読みいただきありがとうございました。
- コンプライアンス教育とは(その2)
前回(その1)では、コンプライアンスが必要とされるに至った過程や違反の例などを紹介しました。そして、コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題であり、企業や団体がコンプライアンスを徹底するためには、「組織全員へのコンプライアンス教育」が必須であることもご説明しました。 その2の今回は、そのコンプライアンス教育の進め方や教育の手法についてご説明いたします。 目次 コンプライアンス教育とは「コンプライアンス意識を高めること」である コンプライアンス体制の準備と教育の流れ まずはドキュメントの用意から ~企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化~ 体制構築・整備がコンプライアンス教育の基礎 どうやってコンプライアンス教育に取り組ませるか? コンプライアンス教育は階層別に内容を変える コンプライアンス教育とは「コンプライアンス意識を高めること」である 前回の最後にも少し述べましたが、社員へのコンプライアンス教育とは、「社員全員のコンプライアンス意識を高めること」にほかなりません。 「コンプライアンス意識」とは、「問題に対してどう行動するのが正しいのかを意識しながら、常に行動する」という意味になります。 「コンプライアンス意識」が向上すれば、企業の持つ社会的責任に対する意識も自然と向上するので、社員に対するコンプライアンス教育は、企業の経営に対しても非常に意味があります。 「コンプライアンス意識を高めること」には、当然コンプライアンスの教育をする必要がありますが、その第一歩は、就業規則や規定の内容とそれらが持つ意味を社員にアナウンスすることから始まります。もちろん、就業規則や規定の整備を行っただけではあまり意味がなく、それらが必要な時に「すぐ」閲覧できるようにしなくてはいけません。 次に、どういうことをすると良くないのか?コンプライアンス違反とは何なのか?それをすると企業がどうなってしまうのか?こうしたことを具体的に事例を使いながら理解させます。ケースワークや行動における基準などを説明し、理解・浸透させてください 忘れてはいけないのが、社内における情報伝達や相談窓口といった制度に関しても、しっかり周知して、いざという時に利用できる状態にします。個人で問題を抱えてしまわず、リスクの芽を積極的に積むためには、活発な情報発信と、日常的なチェックの制度が必要です。問題が起こりかけたら、コンプライアンス委員や上司や同僚を通して「指摘」「改善」を促すことを習慣化します。 コンプライアンス体制の準備と教育の流れ 組織としてコンプランアンス体制を整え、その教育を進める場合の第一段階は、プロジェクトとして企業理念や企業倫理を話し合い、文書化して、制定するところから始まります。 次に、企業コンプライアンスを浸透させる為の整備計画を立案します。コンプライアンス教育のプログラムを作成し、管理するシステムを考えます。 これらを立案すると同時に、整備計画を推進させ、定着させる為の組織の結成・整備も必要になってきます。コンプライアンスマニュアルも大事ですが、マニュアルに沿って経営活動に対するチェックを行う組織の整備が、企業コンプライアンスの肝になります。 そのため、人事部や管理部内で組織され、通常業務と兼任するなると、負荷がかかりすぎて機能しなくなることもあります。企業規模にもよりますが、外部の専門家(コンサルタントなど)と相談しながら、ちゃんと機能するチェック体制を整えると良いでしょう。 これらを整備したうえで、全社員レベルのコンプライアンス教育を進めていきます。コンプライアンス教育は研修などの「学習」だけでなく、日常的なモニタリング活動も重要な要素です。講義だけでコンプライアンス意識を根付かせることは難しいので、モニタリングや監査を通して、意識付けをしていくことが必要です。 そして、社会状況などの変化に合わせて追加・改変していきながら運用していきます。 次はこれらを詳しく見ていきたいと思います。 まずはドキュメントの用意から ~企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化~ コンプライアンス教育の前段階として、コンプライアンス関連文書の整備があります。コンプライアンス関連文書には、「倫理方針」「行動指針」「コンプライアンス・マニュアル」「内部規程」などがありますが、それらがどこにあるのか、その所在をしっかり決めて社内に周知する必要があります。またこれらがいつでも必要なときに閲覧できるようになっていなくてはいけません。 そして、これらのドキュメントは作りっきりではなく、業務拡大などでのアップデートや社会変化に応じてバージョンアップもきちっとしなくてはいけませんので、運用体制の整備も必須です。 「企業理念・倫理・行動規範の制定と文書化」 ドキュメントの所在をしっかり決めて、漏れなく社内に周知する 必要なときにいつでも閲覧できるような仕組みを作る ドキュメントの頻繁なアップデートを考慮した運用体制を作る 体制構築・整備がコンプライアンス教育の基礎 コンプライアンス教育を行うには、行動規範と社内規定の意味をきちんと理解させる事が大切です。 まずコンプライアンス推進室といった組織を社内に立ち上げるなどの体制構築が欠かせません。体制を構築することにより、声高らかに社員に対して会社の本気度を明示することができるようになります。これは遊びではなく、会社も本気で考えているという一種のポーズは、社員の危機意識を高めることに繋がります。 コンプライアンス推進室などが具体的に目標を設定してアナウンスすることにより、社員に対してコンプライアンスをわかりやすくする効果が期待できます。対外的に、つまり顧客や株主、投資家にも、コンプライアンス推進室や相談窓口があることで、コンプライアンス教育に力を入れているという企業というアピールになり、企業のイメージやブランド力の向上にも一役買っています。 社員のコンプライアンス教育には、行動規範を徹底させる事が重要です。では、行動規範とは一体どのような内容なのでしょうか。 行動規範とは何かを理解する 行動規範を制定した意味や目的、義務を知る 地域社会、国際社会、地球環境への貢献や配慮を理解する 顧客、取引先、他社、株主、投資家との適切な関係やルール、モラルを守る 役員や社員同士の組織としての健全性の維持 会社や会社の財産の適正な管理と保持 コンプライアンスの運用と維持 「行動規範通りに行動する」ということはシンプルですが、そこにはいろいろな状況や利害が発生します。大切なのは「企業利益と倫理が相反する場合には、必ず倫理を優先させる」という基本原則を全員が徹底的に理解し納得することです。 企業の活動には上下関係や利害の問題が発生ますので、行動規範をわかっていても、その通りに行動することが難しいケースがあります。しかし、そういったケースを例外として見逃し続けると、コンプライアンス体制は形骸化してしまし、結果として深刻な問題を生み出すことになりかねません。 「悩んだときは行動規範を第一に考える」ことが社員のコンプライアンス教育の大原則になります。 そして、推進計画を立案・管理し、設定した目標に近い値が出ているかどうかを計測して、PDCAを回しながら修正を加え、継続的に運用し、定期的なチェック体制を作ります。 例えば、現場の各部署に「コンプライアンス推進委員」を置くようにしましょう。推進委員を身近に置くことによって、社員が気軽に相談できる窓口ができたことになります。これだけでも社員のコンプライアンス教育は、グッと前進します。そしてそのためには、まず推進委員となった社員が、アドバイスを行うといった行動が取れるように、他の社員よりも積極的に知識を身につける必要があります。社員全員の教育の前に、推進委員のための研修や勉強会を行う必要があります。 ドキュメントや閲覧システム、そして、運用体制ができたら、いよいよ社員全員に対する「コンプライアンス教育」を始めます。 どうやってコンプライアンス教育に取り組ませるか? コンプライアンス教育というと、「あれだめ」「こうしなければいけない」という話になりがちで、参加者がうんざりしがちかもしれません。 関連する法律の勉強も、コンプライアンスの担当者や、法務の業務に就いている社員にとっては、なじみなる意味のある勉強ですが、それ以外の社員にはとっつきにくいもの。誰だって余計な勉強はしたくないものです。 一般的に、法律関連の勉強は聞きなれない言葉も多く、そのままだと慣れていない学習者の意欲を削いでしまいます。したがって、「法律をそのまま読ませる」ような退屈な学習方法はなるべく避けたいところです。 そこで、コンプライアンス教育には、自分の業務に近い話で、積極的に勉強を行いたくなるような「ネタ」を用意するのが効果的です。 コンプライアンス教育でよく行われる手法が、同業界トラブルの事例を集め、その背景を分析し、自社に当てはめて予防策を考える、といった参加型のケーススタディが有効とされています。こうした事例を集めるには、普段から新聞、ネットニュースなどにアンテナを張る必要があるため、社員の意識が自然と上がります。 また、これらを部署ごとに競わせるといった手法も、1つの方法です。 それぞれの部署にあった身近な事例を映像などでわからせることにより、危機感が伝わります。 全社的に行えるのであれば、パネルディスカッション形式の研修も有効です。講師が一方的に話す講習会よりも、報告者のレポートに対して、各部署や階層を代表するパネラーがそれぞれの意見を述べるパネルディスカッション形式を採用することで、聴き手の参加意識を高めることができます。 パネラーは、各部門・各階層の社員だけでなく、アルバイトやパート、派遣スタッフ、さらには協力会社の社員などにも参加してもらうことで、議論がより立体的になります。 そして何よりも、コンプライアンス教育は諦めないことが何より大切です。根気よく組織が続く限り、何度も繰り返して行い続ける仕事と認識してください。 コンプライアンス教育は階層別に内容を変える コンプライアンス教育は、立場によっては、教育・監督する義務が生じますので、階層別に重点内容を変化させる必要もあります。 例えば、新人や一般職員にはコンプライアンスの基礎知識習得を目的として、「就業規則の理解」「従業員の心構え」「自社でコンプライアンス違反があったら場合のリスク」「行動規範遵守の重要性」などを中心とします。 そして、身近な管理職の主任・係長クラスには、「コンプライアンス対処法」を行うべく、「部下の行動見本となるためにはどうすべきか?」「報告フロー」「対処法の理解」などを教育します。 さらに上位の課長・部門長クラスには「コンプライアンスに対する組織的な問題解決策」を実践すべく、「組織的なコンプライアンス機能強化」「コンプライアンス機能を有効に働かせるための管理職の役割」などを考えさせます。 最後に組織トップ、つまり経営者・取締役クラスに対する教育内容は「社員をリードする経営者のコンプライアンスにおける役割」を学ばせます。「法人の社会的使命と経営者の責任」「社内コンプライアンス体制の構築法」について理解し、トップが「本気」なことをアピールする活動の大切さを教育します。 トップたちの意識を手本に、社員全員がコンプライアンス教育に取り組むようにするというのは非常に大切です。会社として「本気」で取り組むという姿勢を見せなければいけません。キャリアが長い上位職ほど、コンプライアンスについて認識の弱い時代を過ごしているので、有用な人材がいるとはいえ、なかなかこのクラスを教育することは骨が折れます。(笑) また、近年は「アルバイトやパート、派遣スタッフ」などのテンポラリスタッフのコンプライアンス教育が急務となっています。 アルバイトスタッフなどが個人のSNSで顧客情報を漏らしたケースや、飲食店で不衛生な作業態度を撮影し、ブログで公開するなどの行為は、雇用している企業に非難が向けられます。もはや「社員でもないのに、バイトにコンプライアンス教育を強いるのは難しい」などとは言ってられず、この階層への教育は重点課題となっています。テンポラリスタッフといえど、新人や一般社員と同様の内容を教育する必要があります。 少し長くなってしまいましたので、急遽(その3)に続かせていただきます。次回はより具体的な教育方法についてご説明いたします。 ここまでお読みいただきありがとうございました。
- コンプライアンス教育とは(その1)
「コンプライアンス」についての社会的認識は、年々高まっています。そのため多くの企業や団体で、就業規則や規定などの整備が急ピッチで行われました。しかし、就業規則や規定の整備を行っただけでは意味がないのがコンプライアンスの難しいところです。 コンプライアンスを徹底するために必要なのは、「コンプライアンス教育」です。しかしコンプライアンス教育のシステムについては、なかなか軌道に乗っていないというのが現状のようです。予算も限界がありますし、管理部署も仕事がいっぱいで全社員に徹底した教育ができません。今回は当社でも引き合いの多い、コンプライアンス教育の方法について取り上げてみたいと思います。 「コンプライアンス教育」は「コンプライアンス意識」を高めるための教育と言えます。「コンプライアンス意識」とは、問題に対してどのような事を行うべきかを意識し、行動することになります。したがって、「コンプライアンス意識」が向上すれば、企業の持つ社会的責任に対する意識も自然と向上するはずです。 社員に対する「コンプライアンス教育」を徹底するには、まず企業(特に経営陣や管理者)がコンプライアンスを守るために、省くことのできない必須の教育であるという意識を強く持っていただくことが大切です。 今回は第一弾段階として、まずコンプライアンスを知るために、コンプライアンスの重要性と実例について説明し、次回その2ではコンプライアンス教育の具体的な進め方について詳しくご説明させていただこうかと思います。 目次 コンプライアンスってそもそも何? コンプライアンス違反の例 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 コンプライアンスってそもそも何? 英語の「Compliance」を直訳すると、「従う事、従順、遵守、準拠」といった意味になります。日本のビジネスシーンで使われると「法令遵守」と訳されています。 「コンプライアンス」とは、元々は「何かを遵守する」という事を指しています。 1960年代のアメリカでは、高い経済成長の裏で、企業、団体、組織が独占禁止法の違反など様々な法令違反を犯していました。つまり「つかまらなければ利益のためにズルをする」という風潮です。その時代の国(政府)もそれを取り締まるだけのパワーはありませんでした。 こうした氾濫する法令違反への、社会規範上の対策として生まれたのが、コンプライアンスの概念です。法令違反を良しとしないまともな企業、団体、組織は、独自に対策プログラムを作成し、実践するようになりました。こうした健全化の動きは、国民に支持され、徐々に法令順守の動きは広がり始めます。 しかし、遵守する対象を法令だけにすると、法律を守れば何をやっても構わない、法律を守る事が全てという事になりかねません。もっと言えば、出し抜きたければ法律の隙間を探せば問題ないという解釈をされるかもしれないのです。 そこで、法令の遵守だけでなく、社会や顧客の信頼に応える企業になろうという風潮が高まり、現代では、世の中の常識や良識といった社会的な規範も守る事が含まれるようになりました。 具体的には、下記のような項目が企業コンプライアンスの内容になります。 企業倫理 社内規定の整備(マニュアル化)、運用 企業の社会貢献 企業のグローバル化による世界基準の対応 リスクマネジメント(ルールの設定や運用、環境整備) このように、現在のコンプライアンスには、法律を越えた高い企業理念や、厳しい倫理規定の実践が求められています。また、企業の社会的責任も、企業コンプライアンスの重要な要素となっています。社会的責任を果たし、社会的に企業が高評価であればあるほど、企業のブランド力を向上させ、企業を拡大させる助力となるのです。 コンプライアンス違反の例 「コンプライアンス」の言葉の意味するところはなんとなくわかっていただけたかと思いますが、実際にどんなことがコンプライアンス的にアウトなのかを、事例を絡めて簡単に上げてみたいと思います。 顧客から集めたアンケート情報の取り扱い アンケート情報の取り扱いはコンプライアンス違反として問題に上がりやす事例です。 目的を明示して、顧客の了解の上アンケートを取ること自体は問題ありません。しかし、後日別件でそのアンケート情報を他の部署で利用するとなると話がことなります。同じ社内で利用するのであれば、問題はないと考える人は多いようですが、事前に説明した目的以外のケースでの利用に関しては「承諾していない」とみなされ、コンプライアンス違反となります。 下請法に抵触する問題 取引の一環とは言え、仕事の委託先に対してコストダウンを強要したり、スケジュール的に無理な作業の依頼などは下請法に抵触するコンプライアンス違反になります。それがもとで品質低下や事故なども起こりうるので、しっかり考えるべきことです。 有給休暇の取得拒否 有給休暇は、法律で認められている権利なので、取得を上司が拒否することはコンプライアンス違反となります。ただし、業務の状況によっては、管理者が変更を求める事が可能であると法律上定められています。つまり、業務上、休まれると支障が出るようなケースでは、上司が拒否をしてもコンプライアンス違反にはなりません。 勝手に残業するとコンプライアンス違反 知らないと、意外なことでコンプライアンス違反となります。その顕著な例が、日々の残業です。 忙しいとき、残業するのは当たり前と思っている社員の方も多いかと思います。各企業とも就業規則によって、残業に関して定めているはずですが、法的には残業は上司の命令によって行うものと決められています。その為、上司の了承を得ずに行うと就業規則を守っていない事となり、コンプライアンス違反となってしまいます。 この場合の違反者は、勝手に残業を行った本人だけでなく、監督できなかった上司も違反となります。日々の残業ですらこうなので、休日出勤も同様になります。 残業や休日出勤などの、不当な長時間労働やサービス残業は、労働基準法に違反する行為ですので、たびたび問題になります。企業はコンプライアンス制度に関する窓口を設けておく必要があります。 昼休みを多く取ったので、その分サービス残業を行うと2つの点で法令違反 昼休みを多くとってしまった場合、その分の差をサービス残業で埋めると、実質的な労働時間に変わりは無いので問題ないように思えるかもしれませんが、これは2つの点でコンプライアンス違反になります。 一つ目は、「昼休みの取り方が就業規則通りでない」という点で違反。 もう一つは労働に専念するという義務を意味する、「労働契約」に対する違反。つまり、専念していませんし、上司から指示されるべき残業を勝手に決めたという点でも違反です。 お中元やお歳暮にも気をつける 取引先から物品を渡される場合は、コンプライアンスに違反しないような対応をする必要があります。就業規則によって、贈答が禁止されている場合は、理由を話して丁寧にお断りします。就業規則で禁止されていない場合は、上司に報告し、管理部などで処理してもらい、自分で全部着服しないようにします。逆に取引先に対して贈答を求めるような行為もコンプライアンスに違反してます。 副業のコンプライアンス違反は就業規則による 就業時間外は、その名の通り就業規則の枠組みの外という意味なので、企業が行動を制限する事はなく、自由に行動して構わないはずです。 しかし、就業時間外であっても副業については注意すべき問題がいくつかあります。例えば、公務員の場合は、副業は公務員の法律で禁止されているので、完全に違反です。 では、民間企業の場合はどうなるかというと、就業規則によります。就業規則で制限されているのに副業を行うと、コンプライアンス違反になります。副業禁止については、就業契約の問題になります。なので、契約時の合意があれば制限されることは違法ではありません。 社員の住所を勝手に教える 社員名簿には、名前、住所、生年月日などの個人情報が多数掲載されています。社員は、これらの個人情報を企業に提供しています。これらを社外に口外したり、社員名簿を業者に渡すことは、個人情報保護法に違反した行為として、コンプライアンス違反になります。クレジット会社などを名乗る会社宛の電話に、うっかり教えてしまわないように注意しましょう。 退職先企業の機密情報の漏洩 転職理由が、退職先企業に対する不満の場合、腹いせに機密情報を漏洩させる事件は後を絶ちません。転職先の企業で早く成果を上げたいと思う気持ちもあるかもしれませんが、機密情報は、その企業が持つ資産や財産なので、完全にアウトです。つまり退職先企業から契約違反、著作権の侵害、営業機密の不正使用などで訴えられます。 転職先で自分自身が持つスキルや経験、ノウハウを生かすことは何ら問題はありません。なので、この手の訴訟では「機密情報であるかどうか?」が争点となります。 インサイダー取引 例えば友人からの情報によって、値上がりの予想される株式を購入すると、インサイダー取引になります。インサイダー取引は、重要な情報を公開する前に、社員や関係者がその会社の株式の売買取引を行うという事を禁止した金融商品取引法上で禁止された行為です。つまり、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反実例となります。 友人なので、社員でも関係者でも無いからセーフとはなりません。重要な情報を公開前に知らされた時点で、社員や関係者と同等の立場として考えられるからです。家族や出入りの関係者なども同様です。 ソフトウエアの使いまわし ソフトウエアのライセンス形態はさまざまですが、中には1本だけ購入して複製し、社内で使いまわしてコストを節約しようとする企業があります。例え最初の1本分の代金を払っていてもライセンス条項にそぐわないソフトウエアの社内流用は、著作権侵害なので、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反しています。実際に、企業が損害賠償請求を受けるケースが多いです。 選挙に関することは企業内に持ち込まないことが基本 就業規則では、勤務時間中の政治活動や宗教活動を禁止しているケースがほとんどです。一般的にも、日本の企業風土として定着しているので、OKと書かれていなければ、アウトと判断されます。知人からポスターを貼らせて欲しいといった選挙活動は断りましょう。企業全体で選挙活動を後押しするのも公職選挙法や憲法違反として、コンプライアンス違反です。 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 このようにコンプライアンスは、経営者のみが意識すれば良いルールではなく、働く社員全てが、その意識を持ち合わせる必要があります。なぜなら一人の社員が、上記のようなコンプライアンス違反を起こすだけで、企業全体の信用を失墜してしまうことは少なくありません。信用低下の度合いによっては、倒産という事態を招くこともあります。 雇用形態も関係ありません、アルバイト、パート、誰であっても、コンプライアンスは遵守しなければならないのです。最近では、派遣やアルバイトといった、「人材の流動化」がもたらすコンプライアンス問題が発生しております。 かつて終身雇用が中心の時代では、「会社 = 自分の人生の一部」という意識が強かったので、会社に対する高い忠誠心を社員が持ち合わせていました。そのため、社内情報も漏れる事はあまり無かったので、企業コンプライアンスを整備する必要が無かったとも言えます。人材の流動化が進行が、会社に対する責任感や忠誠心の薄れにつながり、社員同士の仲間意識も薄れてきたので、ルール違反があればすぐに表面化するようになりました。 さらに、TwitterやFacebookなどのSNSが、個人のコンプライアンスを簡単に世間に広めてしまうという要因も大きいです。このように雇用形態の変化や、ネット社会の進行が企業コンプライアンスに強い影響を与え、企業コンプライアンスの整備は急務となっています。 次回その2では、コンプライアンス教育について、そのやり方についてご説明する予定です。 最後までお読みいただきありがとうございました。
- 反転授業とは
最近はデジタル教材やツールの進化により、自己学習の効率が上がりました。その影響からか、日本でも反転授業に重きを置く学校が増えています。そしてビジネス教育の現場でも反転授業形式のプログラムを組む企業が増えています。 今回は「反転授業」についてご紹介します。 目次 自己学習を先に、授業は後に 動画による事前授業のメリット 反転授業の効果 今後の授業の中心となる反転授業 人材教育における反転授業 自己学習を先に、授業は後に 学校の授業や企業研修は、「授業(講義)」を受けることが学習の中心です。つまり、講義を受けて、家に帰って復習や宿題で知識と理解を確実なものとするという流れです。 これに対して、『講義を宿題としてオンラインで視聴させ、教室では演習を行う授業をする』のが反転授業です。『教室で講義し、演習を宿題にする』という従来の授業形態を『反転』させたので、「反転授業」と言われます。 反転授業では、講師が予め自分の講義を動画として用意し、それを宿題として生徒側に予め見せておきます。つまり「講義を受けること」は「宿題」となるのです。 そして、集まって行われる講義(演習)では、討論したり、わからない点を質問したり、プレゼンテーション、グループワークなどその場で問題を解いて理解を深めたりします。この「同じ時間、同じ空間」に集う教室に生徒の表現活動を集約し、学習意欲を高めるのが狙いです。 このように、限りがあった授業時間から、講師が一方的にしゃべっていた説明時間を取り除いて、授業時間をフルに使って、知識を実際に自分の力で活用することを学び、より生徒に対して深く教えることができるのが「反転授業(反転学習)」の最大のメリットです。 反転授業のメインは実際の授業(演習)中の内容ですが、その前の動画による「事前授業」だけを見ても、生徒にとってメリットが大きいと言えます。 動画による事前授業のメリット 授業ビデオによる事前学習のメリットとデメリットを上げてみたいと思います。 メリット 1度きりの講義と異なり、何度でも繰り返し見れるので理解が深まる 席などの不利な条件での聞き漏らしがない 時間的な制約が緩和されるので、欠席などによる、機会ロスがない 講師もリハーサルができるので、伝え忘れがなく、正しい順序で説明できる デメリット 質問できない 動画配信システムや再生ハードウェアが必要 飽きとの戦い(集中力の問題) メリットについては動画教材のメリットとしては定番のものが並びますが、実際の「授業」と比較して、「講師側のメリット」もあります。 デメリットですが、「質問できない」というのは、反転授業の場合、実際の授業時間中に質問ができるので、反転授業が動画教材のデメリットをカバーしていると言えます。 「動画配信システム」はYouTubeなど、無料の動画配信サービスにより、解決されています。「再生ハードウェア」の問題は、コストは致し方ありませんが、学校側のタブレットの配布などが進んでいるので、今後は問題とならなくなると思います。 「飽き」については、生徒の問題でもありますが、先生の動画作成時の工夫などでいくぶんカバーできるかもしれません。まあ、生の授業でも寝る人は寝ますし。同じカットが続くと空きやすくなるので、板書のアップと切り替えたりできると多少改善されます。 反転授業の効果 反転授業の有効な効果として、『相乗的な学習の動機づけ』が注目されています。今までは、授業の主役は「先生(講師)」でした。しかし、授業の中心を「演習」に置く反転授業では、ハイパフォーマンスの生徒が活躍し、他の生徒を教える側に回ったりすることで、刺激され全体の学力向上に貢献する効果があります。 また、演習授業にはコミュニケーションが存在するので、学習がコミュニケーションの中心になります。このコミュニケーション能力の育成が、社会に出てから役に立ちます。 今後の授業の中心となる反転授業 反転授業は米国では「Flipped Classroom」と呼ばれています。「貴重な教室での授業時間を、説明だけに費やすのはもったいない。もっと知識を実際に自分の力で活用する手法を学ぶべき」というのが、アメリカで反転授業を奨励している教師たちの発想です。実際にアメリカの高校では、反転授業の導入が急ピッチで行われています。これは安価な動画再生ツールとなったタブレットの普及によるところが多いと言われています。反転授業は、10年後は主流となるとアメリカでは言われてます。 日本ではもともと演習部分のメソッドが不得意なこともあり、中々教員側も苦労しているようですが、文部科学省も「教育の情報ビジョン化」の中で、ICTを使った反転授業を含むBlended Learningを進めると言っています。 人材教育における反転授業 最後に、企業における反転授業の導入ですが、企業研修にも反転授業のメソッドが取り入れられてきています。例えば研修の大部分が講義形式で行われている場合、それが研修日程の長期化の原因だったりします。そこで、講義部分は予め録画したものを事前に各自見ておき、研修日程中は、質問やグループ討議、事前課題のプレゼンテーションなどに多くの時間を割くのです。 実際に反転授業を取り入れている弊社のお客様からは、「映像だと繰り返し見れるので、講義部分の理解度が高くなっている」とか「アンケートを取るとグループワークの方が好評」「研修日程が短くなって、参加しやすくなった」など、おおむね肯定意見が多かったようです。 教える側の講師派遣会社の方も、「講義部分は毎度の内容なので、講師としても割愛できると助かる」「説明忘れがなくて良い」などの意見があるようです。 弊社でも企業教育における反転授業の導入には注目しており、昨年末に、反転授業などを収録するのに適したバーチャルスタジオが完成しました。稼働率は中々好調で、ほぼ毎日収録が行われています。 このように、反転授業の普及には「講義の映像化」が欠かせません。自社で反転授導入をご予定でしたら、ぜひお声をおかけください(笑)。 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
- エルダー制度とは
前回はOJTについてご説明しましたが、今回は関連のキーワードとして、「エルダー制度」について少し説明させていただきます。 私見ですが、最近は先輩が後輩の面倒を見るのは当たり前だという「慣習」が薄れつつあるように思えます。この「先輩・後輩」の師弟関係を、教育システム化したのがエルダー制度です。 最近では販売や介護などの「新人の離職率の高い現場」で、高い効果があると見直されてきています。 目次 エルダー制度とは エルダー制度のメリット エルダー制度のデメリット エルダー制度を活用するポイント エルダー制度とは エルダーとは英語で「先輩」や「年長者」を意味します。 エルダー制度とは、OJT型教育制度の1タイプで、新入社員ひとりひとりに、先輩社員を教育担当としてつけ、業務や社内ルールなどを担当者制度のもとで面倒をみる制度のことです。 他にも「OJTリーダー制度」「ブラザー制度」「シスター制度」など現場によりいろいろ呼び方があり、「エルダー(先輩)」を「バディ(仲間)」と呼びかえることもあります。 一般的なOJTと違うところは、通常のOJTトレーナーが業務中心の指導を行うのに対し、エルダーは、実務の指導を始め、職場生活上の相談役も担う点にあります。 エルダー制度のメリット もともと所属長が特定の社員(新人)にかかりきりになる状態を回避する意味で、若手に指導を指せることはよくありました。エルダー制度としては、さらに、中堅クラスの社員に指導経験を積ませることで成長を促すことなども目的とされています。 指導をする側のエルダーも、指導してスタッフ同士の仲間意識を向上することが出来ますし、指導の際に疑問に思ったり、問題になったことを共有し合うと問題解決能力の向上が見込めます。 何よりも、「新入社員に教えることで(エルダー自身の)技能の定着を図る」、「管理職になる前に管理業務を学べる」といったメリットがあります。 また、エルダーが職場生活上の相談役も担う点は、年齢が近い人が指導することで相談しやすい環境を作り、新入社員や転属などで業務が変わってストレスにさらされる社員を安定させる効果を期待しています。 特に、新人の離職を防ぐのに企業として取り組んでいるところが多く、これを実施することで会社への定着率を上げる効果があると言われています。 エルダー制度のデメリット デメリットとして問題になっているのが「エルダーが燃え尽きてしまう」という問題です。新人は辞めなくなったが、エルダーとなる中堅が業務過多で退職してしまう例があります。 また、当然ですが、エルダーと新人の相性が悪いと上手くいきません。 エルダー同士でも問題は発生します。教え方の違いによる衝突や、エルダー同士の指導の温度差などがあります。こういった場合、トレーナー研修などを導入して、エルダー同士のスキルと意識を統一する必要があります。 エルダー制度を活用するポイント エルダー制度は、業務時間の全てにおいて、「人の面倒を見る」ことを明文化した教育システムです。なので、普通のOJTより、トレーナー(エルダー)への負荷は高いと言えます。 正常な運用のポイントは、全員で新人を育てるんだと意識づけることと、的確な評価・アドバイスを管理者が行うことで、エルダーの育成を同時に行うということです。 エルダー制度は、エルダーも新人も参加しているスタッフ全員が成長していくシステムなのです。 お読みいただきありがとうございました。
- 経験学習モデルとは
今回のキーワードは「経験学習モデル」です。 人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという学習法を、人材育成の領域では「経験学習」と呼びます。 経験学習モデルは、この経験学習をモデル化したもので、日本企業の研修などでもよく取り入れられる学習フレームワークで、1度はやったことがあるという方も多いのではないでしょうか。 この経験学習モデルについて、簡単ではありますが説明していきたいと思います。 目次 経験学習モデルとは 1.経験 2.省察 3.概念化 4.試行 振り返りシートを使った経験学習の実践 最後に 経験学習モデルとは よく「経験学習モデル」と言いますが、正しくは「コルブの経験学習モデル」で、アメリカの組織行動学者デービッド・コルブ氏が提唱した、経験を活かした学習モデルのことを指します。 コルブは、一般的な学習モデルが、既に体系化・汎用化された知識を”受動的”に習い覚える「知識付与型」の学習やトレーニングであるのに対し、「経験学習モデル」は、学習者が自らの「経験」から「学び(気づき)」を獲得していくという「プロセス」を体系化した学習モデルとしています。 「コルブの経験学習モデル」では、4つのサイクルを使って、経験を単なる経験に終わらすことなく、自身の学びへと昇華させ、次のアクションへと繋げ、自身で概念化するところまでを定義しています。 以下の4つのサイクルを回すことによって、学習の深化をはかります。 Step1: 経験(Concrete Experience) Step2: 省察(Reflective Observation) Step3: 概念化(Abstract Conceptualization) Step4: 実践(Active Experimentation) まずは、各サイクルの意味を1つづつ見ていきましょう。 1.経験 「経験」のステップは、「Concrete Experienc(具体的経験)」が原文通りです。 学習者である社員の方が、業務や活動の中で具体的な経験をする段階です。 問題などにぶつかると、都度自分で考え、自分で対処し、結果を受け入れます。するとその中で自分で「気づく」ことが多くなるはずです。 その経験した内容を、どんな経験をしたのか、具体的に何を体験したのかを書き出して整理するのが大切なポイントです。 些細なことでもしっかり記録し、次の省察や概念化のヒントになるようにします。 2.省察 「省察」は、「Reflective observation(省察的観察)」が原文通りです。 経験をしたら、多様な観点から自身の行動を「振り返り」、その内容について「質問」しながら、原因を見つけます。振り返るときに、いつもと同じ視点、価値観で考えては、新しい「気づき」は生まれません。いつもは気にしないような多様な観点で振り返ってみることがポイントです。 具体的には、経験した内容を振り返り、良かったこと・悪かったこと、その時々に感じたこと、狙いとのギャップなどについて書き出して整理していきます。そして書き出した内容に対して、何故なのか?とその背景にある原因や理由を探っていきます。 3.概念化 「概念化」ステップは他にも、「持論化」とか「セオリー化」とか訳されますが、原文では「Abstract Conceptualization(抽象概念化)」と書かれています。 前のステップの「省察」で得られた成功・失敗の分析を、自分や自分以外でも、また他の似た状況でも応用できるように、持論化(マイセオリー化)します。良かったポイントや改善が必要な項目を一度抽象化し、その上で他の場面でも、もしくは他の人も活用できるように文言化、体系的に整えます。 概念化化とはいわば「教訓」のような形にすることです。そうはいっても、この「概念化」は研修でも一番の難関で、参加者がみんな悩むポイントでもあります。まずは、書き方にこだわらないことが大切です。概念化とは、本質的な要素を抽出することなので、本質が捕まえられていれば書き方にこだわる必要はありません。 また、他の人の概念化したものを参考に、自身の視点を加える形で整えてもいいです。体系的に整理された既存理論と、経験から気づいた自分の考えとを照らし合わせ、自分の状況に当てはめ、個別具体的に解釈し、発展させ、自分の新しい理論を構築します。 参考例を探しているうちに、新たな視点に気づくこともあります。 4.試行 「試行」ステップは、他にも「アクション」とか「行動」という置き換えをされている場合があります。原文は「Active Experimentation」で、訳としては「能動的実験」です。 「(抽象的)概念化」によって導き出した持論(マイセオリー)を、新しい場面で実際に試してみるステップです。 能動的という言葉が付いているように、自ら仮説を持って試行することが大切です。本格導入は、その結果を踏まえてということですね。 全てにあてはまる完全なセオリーでなくてもいいし、問題を完全解決しなくてはいけないというわけでもないのです。パナソニックの故 松下幸之助氏は、「持論が6割ぐらいいける」と思ったら決定していたそうです。 この能動的実験によって、次なる具体的経験が得られるため、また最初の「経験」へと戻ってサイクルを繰り返されます。 振り返りシートを使った経験学習の実践 研修では、ワークシートを使ってこの学習モデルを習得します。このシートを「振り返りシート」と呼びます。 振り返りシートは、経験学習モデルの4ステップで記入できるようになっています。 「経験:具体的経験の書き出す」⇒「省察:経験の振り返り」⇒「概念化:セオリー化する」⇒「試行:新しく試すことを決める」といった感じです。 各項目のポイントを下記に補足しておきます。 1.経験ステップ:具体的経験のを書き出す POINT:経験した内容を具体的に書き出していく いつどこでどのような経験をしたか? 自身の役割は何だったか? その結果どういった結果を得たか? 2.省察:経験の振り返り POINT:経験を多様な視点から振り返り、新しい発見や意味を見つけ出す なにが印象に残ったか? 良いと思ったことは? 悪い(改善が必要だと)思ったことは? 経験を通して何を感じたか?どんな気持ちになったか? それぞれの経験にはどのような意味があったか? 結果として分かったことは何か? 3.概念化:セオリー化する POINT:学びや気づきをその他の場面でも応用可能なように自論化する ポイントをまとめる 今回の中で最も重要な教訓は何か? 方程式化・定理化するとどうなるか? マニュアル化するとどうなるか? 他の場面でも応用できるようにするにはどうしたらいいか? 4.試行:新しく試すことを決める POINT:考え出した持論を活かし、次にどのような実験・検証を行うかを考えてみる 今回の活動を通して新たに得られた選択肢はあるか? 次回、より良い結果を出すにはどうしたら良いと思うか? 次はどんなことに挑戦するか? その際に、どのような指標を重視するつもりか? 経験学習モデルの研修で行われる際は、ワークシートの記入の仕方を学び、「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」を書いてみて、それをもとに参加者同士でディスカッションします。 自身の経験を紹介したり、他の人からの省察を参考にしたりして、多様な視点を持つヒントを得るのが目的です。 また、一番難しいステップ3:概念化についても、「それで本当に解決できるのか?」「イレギュラーケースの時はどうするか?」など話し合います。 研修によっては、1か月くらい経って、日を改めて「ステップ4:試行」の結果を振り返る研修を行うのも良いでしょう。 また最近では、この「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」をケース映像を使って行うeラーニング型研修も好評です。研修ですと参加者のスケジュール調整に手間取り、コンスタントに行うことができません。eラーニングの映像を使って経験学習モデルのプロセスを学び、オンラインでワークシートを提出するスタイルが、経験学習のとっかかりには便利なのかもしれません。 最後に 「経験から学ぶ」と言うことは、私たちが人生の中でたくさん経験してきたはずです。しかしながら、その「学び方」について気にしてきた方は少ないのではないでしょうか? 実際職場では、「同じ失敗が繰り返される」「プロジェクトがいつもトラブルに見舞われる」「場当たり的な問題解決しかできない」と言った、経験から学んでいれば陥らないはずの問題が繰り返されているのではないでしょうか。 ビジネスの世界では、効率が重視されるため、上記のような問題が起こると上司は、「マニュアル化」「システム化」といった「誰でもできるように手順化する」という処置が取りがちです。しかしそれでは「誰かに教えてもらわないとできない」「誰かに指示されないと動かない」といった問題を引き起こします。 部下が自身で考えて対処し、自身の成長を実感することなく、仕事の手順を覚えるだけになってしまうのです。指導者として必要なのは、部下が自身の判断や仕事の成果について、自ら考え、自ら振り返る機会をいかに与えるかということです。それは「経験から学ぶ」という昔から行われていた学び方を疎かにしないことを含んでいます。 「経験から学ぶ」、この学び方ができる人は同じ失敗を繰り返しませんが、できない人は何度も同じ失敗を繰り返します。 周りにいる「仕事のできる人」を観察すれば、その人が仕事の中で「経験学習」を実行している振る舞いを見るはずです。その人は「同じ失敗を繰り返さない」「トラブルを予見でき回避する」「改善のアイディアを実行している」「失敗しても成功を諦めない」と言ったコンピテンシーが育っているはずです。 誰でも失敗はします。しかし、「転んでもただでは起きない」つまり「失敗から学びとる」ということを行うことで、自身の価値をアップさせてきたのです。 「経験学習モデル」はこうした学びのプロセスを覚えるためのフォーマットの1つなんですね。 最後まで読んでいただきありがとうございます。
- レジリエンスとは
新型コロナの大流行を受けて、注目されている心理学の言葉に「レジリエンス」があります この言葉が急に使われるようになってきた背景には、企業が今回の新型コロナ禍で、人と会社の両面で大きな逆境に立たされている状況が垣間見えます。 今回は、この「レジリエンス」について、簡単ではありますが説明したいと思います。 目次 レジリエンスの意味 レジリエンスの研究 レジリエンスという人の能力 レジリエンスがある人の特徴 組織レジリエンス レジリエンスの向上 最後に レジリエンスの意味 もとは心理学用語である「レジリエンス(resilience)」の意味は、困難や障害に直面している人が、それを「上手に適応して乗り越える能力」を意味します。 日本語訳で端的に言うのであれば、「逆境力」「耐久力」「折れない心」「精神的回復力」などと訳されているようです。 似たような言葉が並びますが、私が一番しっくりくるのは「(逆境にあっても)折れない心」でしょうか。ちなみに反対の概念は「脆弱性(vulnerability)」です。 レジリエンス研究の第一人者である米ペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しています。 実際の意味合いとしては、「折れない心」プラス「それをバネにして成長」がセットで考えられているようです。 レジリエンスの研究 「レジリエンス」という能力が研究されだしたのは、1970年代です。きっかけは、第二次世界大戦下でナチスドイツがユダヤ人を捕まえて、強制収容・処刑した「ホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)」の孤児に対する追跡調査からでした。 孤児達は親や周りの同胞が殺されるのを目にし、その後強烈なトラウマを植え付けられます。孤児の中には、そのトラウマに苛まれて生きる気力を持てない孤児がいる一方、トラウマを克服し、その後仕事に前向きに取り組み、成功して幸せな家庭を築き、人生を成功させる孤児もいました。 追跡研究では、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向がある事が分かりました。前向きに生きて成功した人達は、その後の人生において、厳しい状況でもネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見いだす事ができる思考の柔軟性が見られたのです。 彼らはそうした思考を残りの人生に活かすことに成功しました。その後ユダヤ人は学術研究やビジネスで成功を収めていきます。 ユダヤの格言・教え(タルムード学) ビジネス関連書では、ユダヤ人に成功者が多いのは「タルムード」の教えがあったからという内容の記事を目にしたことがあります。 ユダヤ人はアメリカの人口の2パーセント程度ですが、その中の成功者にはそうそうたる顔ぶれが並びます。※亡命者含む。 相対性理論で世界一の頭脳と言わしめたアインシュタインはユダヤ人でした。 実にアメリカのノーベル賞受賞者のなかにユダヤ人が占めている比率は25%です。世界で見ても、歴代ノーベル賞受賞者の約20パーセントは、ユダヤ人です。 Facebookのマーク・ザッカーバーグをはじめ、フォーブスの世界長者番付にはユダヤ人が並びます。スターバックス、リーバイス、フランスの自動車会社「シトロエン」の創立者はユダヤ人です。 メディア界では、音と電波の帝王「RCA」の創立者デイヴィッド・サーノフ、英「ロイター社」創業者T・J・バロン・ロイター、「ニューヨークタイムズ」のザルツバーガー家、映画の巨匠スピルバーグもですね。 私の大好きなアメリカのロックバンド「KISS」のフロントマンのポール・スタンレーとジーン・シモンズは二人ともユダヤ人です。 このように、世界から見れば少数派のユダヤ人が成功している秘訣は、今回のレジリエンスに関わる大きなカギとなる宗教上の教えがあります。 ユダヤ人のほとんどの人が信仰しているユダヤ教には、「タルムード」と呼ばれる聖典(聖書)があります。タルムードとは旧約聖書に出てくるモーゼが伝えたもう一つの律法とされる「口伝律法」を収めた6部構成、63編から成る文書群です。 この文書には、ユダヤ人の僧がまとめた1万数千ページに及ぶユダヤ教5000年のあらゆる知恵が凝縮されていて信仰の基となっています。この中にユダヤ人成功の秘密があるそうです。 タルムードには、ビジネスで成功した人の名言にも酷似した教えがたくさん書いてあります。 “タルムードに書かれている教え” 金は道具であり、道具に支配される者などいない。 だから、道具はできるだけ多く持っている方がいい」 「耳と耳の間に、最大の資産(知識)がある」 「失敗したことよりも、やってみなかったことのほうが後悔は大きいものである」 「あなたが既に持っているものを、必要としている人に売るのはビジネスではない。あなたが持っていないものを、それを必要としない人に売るのがビジネスなのだ」 「成功の半分は忍耐からなる」 「人生にとってもっとも大切なものは、金ではなく時間である」 「あなたが知識を増やさないということは、実は知識を減らしていることになる」 「学んだことを復習するのは、覚えるためではない。何回も復習するうちに、新しい発見があるからだ」 もともとユダヤ人は、ヨーロッパで圧倒的に少数派なので、キリスト教徒でない彼らは歴史的にずっと差別されていました。その為、政治家や官僚などになる道は少なく、成功するためにはビジネスや金融、科学や芸術など自らの才覚で人生を切り拓くしかなかったといわれています。 そうした状況下で、タルムードの格言は、親から子へ、社会を通じて、人間観、社会観、ビジネス観を見つめ直す機会を与え、困難を乗り越えながら彼らに強いレジリエンスを備えさせたと考えられます。 レジリエンスという人の能力 「レジリエンス力」の本質となる能力は大きく2つ、「適応力」と「復活力」と言われています。 レジリエンスの英単語としての一般的な意味は、「復元力」「弾力」、転じて「回復力」です。 では何からの回復というかというと、物理学用語では、「ストレス(stress:外力による歪み)」が一定以上かかることにより、反発してその歪みを撥ね返す力がレジリエンスということになっています。これは人間の置かれる状況に置き換えても同様の作用がイメージできますね。 こう考えると、レジリエンスという言葉が、心理学の言葉としてあてがわれた意味が分かってくるかと思います。 レジリエンスは、ストレスのある状況や逆境でも、うまく適応し、精神的健康を維持し、回復へと導くものですが、「導くもの」としては、「心理的な特性」「能力」「プロセス」など、いろいろな側面が考えられています。 レジリエンスの一部の能力として「ストレス耐性(stress tolerance)」があります。ストレス与えられた人間が耐えられる程度を意味する概念です。また「ハーディネス(hardiness:頑健性)」という言葉は、ストレスを自らの力で撥ね返す精神力特性を示す言葉です。この2つはレジリエンスという能力を強く下支えする役割を持っています。 ストレスから逃れることが不可能である現代社会では、ストレスがかかる状況に正面から向き合い、対処し、乗り越えていくことが成長や成功の鍵となります。自身の特性や問題解決能力だけではなく、何かあったときに支えてくれる人がいるか(ソーシャル・サポート)などの「環境要因」も重要です。 レジリエンスがある人の特徴 レジリエンスがある人の特徴を考える前に、「心が折れやすい人の特性」を考えて見ましょう。 「心が折れやすい人」は感情による波が激しいという特徴があります。 自分が置かれている状況や出来事に一喜一憂しやすく、そこから生じる結果にだけ目を奪われがちなので、「なぜ自分がそのような状況にいるのか」「本来、自分は何をするべきなのか」といった物事の本質を考えない傾向にあります。 周囲の反応や自分の感情、物事の結果に振り回されて、無駄にエネルギーを消耗してしまうのです。 「諦めが早い」のも心が折れやすい人の大きな特徴です。目標があっても、ちょっとした失敗や気分の落ち込み、周囲からの冷ややかな反応などさまざまな理由をつけて早々に諦めてしまいがちです。またそのことに対する自己評価が「やっぱり僕にはできなかった」といったマイナス思考に陥りやすい特徴もあります。こういうことが重なってくると、心はより折れやすくなってしまうでしょう。 「心が折れやすい人」の特徴を考えると、その逆のレジリエンスがある人の特徴がはっきりしてきます。以下はレジリエンスがある人の特徴と捉えられている点です。 思考に柔軟性がある(精神的敏捷性:Mental Agility) 大ピンチな状況下でも、思考の柔軟性があれば、ネガティブな状況の中にもポジティブな側面を見つけ、発想の転換でわずかな光を見出して乗り越えることができます。 感情をコントロールできる(自制心:Self-Regulation) 物事の本質と向き合うことができる人は、いちいち目の前の状況に一喜一憂しません。喜怒哀楽の感情の起伏が激しいと、自らの感情に振り回され、それ自体が大きなストレスとなってパフォーマンスを落とします。 自尊感情が養われている(自己認識(Self-Awareness)と自己効力感(Self-Efficacy)) 自尊感情とは、「自分の力を自分自身が過小評価しない」ということです。自尊感情がしっかりある人は、困難に直面しても、最初から「無理だ」とあきらめず、乗り越えるための手段を考えるステップに入ります。この自尊感情の醸成は、レジリエンスを高める上で非常に大切なポイントです。 楽観的(Optimism)である 過度な不安を持つ人は、それに振り回されてしまいがちです。逆に楽観的過ぎても危険です。ただ、この状態は長く続くものではなく、「そのうちきっと解決できるだろう」と、さまざまな困難を前向きに捉え、不安感に打ち勝って物事を解決していくことができます。 組織レジリエンス 個人がレジリエンスを身に付けると同時に、企業などの組織自体がレジリエンスの考え方を積極的に取り入れようという動きが活発化しています。これは新型コロナウイルスの流行前から活発になっていたのですが、ここにきてビジネス誌の中心記事になるほど盛り上がりを見せています。 ここでの「組織レジリエンス」とは、企業のビジネス環境の変化への適応能力や耐久力、逆境力を意味しています。 21世紀になると、ITOなどのイノベーションにより、従来の産業や企業が陳腐化し、経営危機に立たされることも頻繁に目にするようになりました。そのため、近年投資家が企業に投資する判断基準として、注目しているポイントとなったのが「組織レジリエンス」です。 イノベーションなどでビジネス環境の変化による経営危機が訪れた場合、いかに企業の存在価値を示し、新たな価値を創出できるかをビジョンを持って説明することは、投資家との信頼関係構築にも多大に影響します。組織レジリエンスの強化は投資家の企業評価指標に直結しやすく、企業としても企業価値を示す根拠として活用することができます。 また、BCP(事業継続計画)の面でも組織レジリエンスは非常に大切です。 BCPでは、企業の危機管理のテーマにも「レジリエンス」という言葉を使うことがあります。リスクマネジメントの一種でもあり、危機により業績や企業自体がゼロからマイナスになってしまった場合、どのようにして元通りにいかに戻すかという計画を前もって立てておくのです。 マイナスから回復するだけではなく、以前よりもプラスの高みへと進化するような「超回復力」につなげるという考え方も含みます。 日本政府の政策に「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」という取り組みがあります。国家のリスクマネジメントであり、強くてしなやかな国をつくることです。これもコロナ禍以前から政策として活発に協議されていました。 日本はリスクの多い国家と言えます。関東大震災(1924年)以降、日本で100人以上の死者が出た地震は15回起こっており、その発生確率は9年に一度ということになります。 国土交通省は「日本の人口の73.7%が、洪水、土砂災害、地震、液状化、津波のいずれかで大きな被害を受ける危険のある地域に住んでいる」と報告、日本国民はほぼすべての人が、人生の中で大災害に遭遇することが宿命づけられています。 さらに自然災害以外にも、今回の新型コロナのような感染症災害(バイオハザード)、地政学的脅威、テロや紛争の飛び火と言った武力衝突の脅威も、以前より身近に感じられるようになってきました。 こうした自然災害や様々なハザードに対するレジリエンスとは、たとえ被災しても、個人や家庭、企業や組織、地域などが折れてしまうことなく、被災前の状態に戻れる力を意味します。日本人は古来より、このレジリエンスの力が試されてきているといえます。 レジリエンスの向上 レジリエンスには、特別な精神状態に追い込むパワーがあり、「集中力」「パフォーマンス」「創造力」「問題解決力」「対応力」などを高める効果があります。そうした理由からも企業も関心が高いレジリエンスですが、どういった人材教育が行われているかというと、企業向け研修や自己啓発的に行われるトレーニングが主たる施策のようです。 研修のカリキュラムを見ると、「感情のコントロール方法」や「自尊感情、自己効力感の取得方法」に関して、時間を割いている傾向があります。具体的には、仕事でストレスを受けた時の受けとめ方や捉え方、さらにネガティブになった時の切り替え方といった感情のコントロール方法を学びます。そして、自分の強みや弱み、自分はできるという効力感を得る方法などもです。 メンタルケア研修と似てますが、レジリエンス研修の場合は感情の癖や対処法の習得に重きを置く内容です。 また、一部は代理体験ができるのもレジリエンス教育の特徴です。成功体験のエピソードビデオやリアルトークを聴講するという啓発活動も自主的に行うと良いかと思います。 一番大事なのは、こうして学んだことを恐れずに、仕事に使うことです。つまり、ハードルが高そうな仕事も「いっちょやってみるか!きっとできるさ」と思ってチャレンジし、躓きながらも成功させるというその体験が一番成長を促します。 レジリエンスを高めるには 目標に向かえば向かうほど、困難な状況は現れるものです。レジリエンスを高めるには、こうした困難を乗り越えていくという積み重ねが非常に大事です。 アメリカ心理学会は、以下の「レジリエンスを築く10の方法」を提唱しています。 親戚や友人らと良好な関係を維持する 危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする 変えられない状況を受容する 現実的な目標を立て、それに向かって進む 不利な状況であっても、決断し行動する 損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す 自信を深める 長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する 希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する 心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う 最後に 新型コロナウィルス流行の影響は、当初の予想をはるかに超える変化を作り出しました。コロナがこれからの経済に与えた影響はまだ全貌を表さず、かつての金融危機・経済危機以上の規模で大混乱が発生する恐れがあるといわれます。 コロナ以外でも世界では異常気象が続き、日本でも今まで早々お目にかからなかった規模の台風や集中豪雨が頻発しています。世界はますます不安定になり、かつ不確実性が高まってきています。 このような不確実で不安定な今後の世界に生きていく上で、個人の生き方だけでなく、企業、そして社会にとっても、「レジリエンスを高める」ことに取り組んでいくことが大変重要になると思います。 ストレス社会と言われて久しい今日、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。その中で、生産性を上げて持続的成長を遂げるといった難題に取り組みつつ、心身ともに健康で幸せな人生を歩んでいくには、レジリエンスをいかに高めるかが社会人生命を左右する重要なテーマです。 最後まで読んでいただきありがとうございました。






