ビックデータが近年のネットワークシーンのキーワードとなっていますが、今後もますます利用可能なデータは増え続け、その形態も多様化しています。また、コンピューターの処理能力も高性能かつ安価になり、クラウドなどのデータストレージも低コスト化が進んでいます。 そんな中、様々な形で手に入れた「ビックデータ」をビジネスに賢く利用しようという動きは活発化しており、その1つの解が「機械学習」という技術です。
今回はその「機械学習」のざっくりとした理解と、その技術を人事や教育システムに活かした場合のお話です。
目次
機械学習とは?
機械学習は英語でもそのままズバリ「Machine learning」と呼ばれています。 1960年あたりから人工知能の一分野として研究が始まりました。その名のとおり、機械が経験から学習することで自動的に判断し、行動していく仕組みを実現させようというものでした。
最近の研究では、コンピュータに、膨大なデータを見せて、その中から見えていないものを予測するという分野が盛んにおこなわれています。特に、コンピュータの処理速度の向上したうえ、インターネットで大量のデータが発生したことにより、統計的機械学習と呼ばれる、統計的な手法を基礎とするアプローチが、ビジネス分野において大きな成功を収めており、もっぱら機械学習というと、統計的機械学習のことを指すことが多い状況です。 以前の統計的機械学習は、自然言語処理やバイオインフォマティクスなど学術用途が中心でしたが、現在はマーケティングや信用リスク予測などのビジネス用途での応用分野において目覚ましい発展をしています。
昔の機械学習の手法では、人が教師となり、訓練データを入力し、それを参考にしてコンピューターは学習していました。 今の機械学習では、さまざまなアルゴリズムを用いてビックデータから反復的に「学習」するため、人間が教師とならなくても、コンピューターが自律的にデータから洞察を導き出せるようになりました。 人が見てもとても見切れないような、大量のデータに埋もれて見えないものを「見えるようにしてくれる」、この「コンピューターならではの洞察」が人には考え付かないマジックを生み出すのです。
我々がすでに体験している機械学習
1. 株式取引における予測モデリング
過去の膨大なデータに現在の株式の値動きをぶつけて、その株式の売買判断をしてくれるソフトが、企業・専門家向けのものから、個人投資家向けのものまで、たくさん出ています。ネットトレーディングが中心になったこの分野は、機械学習にとても適しています。
また、いままで人では気づかない知見がたくさんみつかっているのも注目です。
AI界の第一人者ベン・ゲーツェルと彼の率いるAidyia社は、すべての株式取引を、人間の介入なしに人工知能(AI)によって行うヘッジファンドを始めました。
2. Amazonなどオンラインショップの商品レコメンド機能
顧客の購買履歴から、その顧客が興味を持って購入しそうなものを識別します。
一度見た商品を推薦する従来型の「リマーケティング」に対して、「まだ見たことのない商品」でも、推薦対象としてふさわしい可能性がある物を薦めるのが「レコメンデーション」です。この「推薦対象」を決めるのに使われるのが、「協調フィルタリング」などのアルゴリズムを使った機械学習です。
今やECサイトや検索エンジンで欠かせない要素となったレコメンデーションは、マーケティング理論と組み合わさり、Webの進化の一端を担っています。
3. SNSの投稿項目の分析
Twitterで何をつぶやいているかの把握することで、顧客が自社(や製品)についてどういう評価をしているかを探ったりしてます。自動で生の声を収集して整理してくれるので、非常に助かります。
また、資生堂の「uno SOCIAL BARBER」では、SNSアカウントに接続して、過去の投稿を分析、性格傾向診断をしたうえで、一歩大人に近づくためのアドバイスとヘアスタイルの提案をしてくれるというサービスを行いました(現在は終了)。ここでも機械学習が活躍しています。
4. スパム検知・処理
メールのメッセージのうち、どれがスパムでどれがそうでないかを文章を解析し、識別します。
一日に全世界で飛び交っている電子メールは大量すぎますので、全部チェックしてデータを取るのは不可能です。そこで、Gmailでは「迷惑メールを報告」というボタンがあり、スパムであることをGoogleに伝えることができ、そういった機能を使い、まず大量の「スパムメール」と「スパムでないメール」を集め、「スパムを判定できるモデル」を選びます。
大量のメールでモデルにどのようなメールがスパムかそうでないかを学習させることで、スパムフィルタのモデルを構築します。そのスマムフィルタのモデルに「未知の新しいメール」をいれると、モデルが「スパムかどうか」を判定してくれます。
5. クレジットカード不正検知
ある顧客のカード取引履歴を分析して、その顧客が買わなそうなものが買われた場合にアラートを上げます。
具体的には、ECサイト内での画面遷移や各画面の滞在時間といった購入者の行動ログ、クレジットカード情報、購入者のアクセス元などからモデルを学習させ、クレジットカードの不正検知を行っています。
6. サイバー監視機能
既にわかっている攻撃パターンだけでなく、通信のやり取りを見て、不正の兆候を感じ取り、アラートを上げてくれたり、防御のため遮断したりします。
7. 会話理解
iPhoneのSiriなどの音声認識で有名ですね。かなり柔軟に話し相手になってくれるようになりました。SoftbankのCMで有名な「Pepper」も、さながらロボット執事のようで、未来的でワクワクします。
ロボットがスムーズに会話し、必要な情報を提供し、最適なアドバイスを行うためには高度な自然会話エンジンや人工知能が不可欠です。Pepperとの会話はIBMのWatsonといった機械学習(ディープラーニング)のテクノロジーが生かされています。
8. 形態検出(顔検出や車の自動運転)
IDカードの写真と、人とのチェックや、たくさんの写真アーカイブから、人を抜き出して表示させるなんてことも可能です。 同様の技術でGoogleのロボットカー(自動運転車両)で、センターラインや道路形状、対向車、歩行者などを検知するシステムです。
このように、パッと上げただけでもこれだけの分野で機械学習が利用されています。便利ですし、イノベーションを感じる技術ばかりです。注目されるわけですよね。
人材開発や人事面での機械学習のアイディア
ここ数年で、弊社にも「人事や社員教育などで機械学習を使えないか?」という案件がちらほら来ております。取り掛かるとなるとなかなか時間がかかるのですが、既に出ているアイディアや実際の事例として、いくつかご紹介したいと思います。
退職しそうな従業員を早期に突き止め、慰留させる
退職に伴うコストのロスは、一般的に年収が500万円の中途社員1人当たり250万円になるそうです。ハイパフォーマーでしたらなおさらですね。そうした退職に関しても機械学習が活躍しています。
機械学習は、消費者の行動を分析し、消費者本人も気づいていないような嗜好を見つけ出したりするのですが、これを消費者を従業員に起き換えます。具体的には、従業員自身も意識していないような仕事や活動のデータから検知し、過去の従業員のデータから、現状在籍している貢献度の高い従業員の離職リスクを測定し、離職の確率や金銭的な被害額などをはじき出すというものです。まあ、売り上げなどの成績が悪くなっているのにもかかわらず、残業をしないで帰ったり、有給を消化しているなど。まあ、接していればわかることもあるかと思いますが、そうした顕著な傾向だけでなく、機会学習ならではの洞察があるようです。
さらに、その従業員を引き留めるために実施するべき対策まで感がてくれます。まさにデータサイエンスと機械学習を使ったアプリケーションですね。
退職予測では、ファーストリテイリングが採用したSaaS型人事・財務アプリ「Workday」が有名です。 株式会社SUSQUEのクラウド型人事・労務分析ツール「サブロク」では退職予測だけでなく、「精神疾患(うつ病)発症者予測サービス」なんてのもあります。面白いのは、ゲームアプリ開発会社・コロプラでゲームユーザの離脱傾向分析をしていた折に、その分析手法を企業の従業員の退職確率に応用できると考えて作ったそうです。
人事採用で機械学習が活躍
米国では、採用時に責任者が応募者の中から選ぶと、多くのケースで先入観や偏見が紛れ込んでしまうので、人間だと公平な人事採用が難しいと言われ、人工知能による評価手法に注目が集まっています。
確かに採用時における機械学習のメリットはたくさんありそうです。
履歴書の段階でランキング
機械学習で、履歴書の段階で自社基準を設けて分析しておけばある程度、自社基準を満たした人だけ審査すればよくなります。この段階で正確なフィルタリングができれば、面接の負荷も下がり、社員のクオリティアップ、採用コストの削減が可能です。
担当者によるばらつきをなくす
例えば、同じ高校や大学だったり、田舎が同じだったりして、ついバイアスをかけてしまったりすることを事前に防ぎます。
テストの結果やSNSでの活動などを総合的に判断
性格テストやスキルテスト、さらには、SNSなどでのコメントなどのデータをあつめて総合的に判断します。面接時だけいい子にしていても、SNSを分析して普段の行いがさらけ出されてしまうんですね。。。学生さんは特に気を付けましょう。
機械学習を使ったハンティング
応募者としてだけではなく、ソーシャルサイトなどから集めたデータを基に、優秀な人材を探すサービスが既にあります。
自社のカルチャーに合った人材を見つけ出す
ソーシャルの話が出ましたが、一般的な評価軸だけではなく、自社でのハイパフォーマー(成功者、貢献者)のデータを分析し、「ある会社で最も活躍してくれる人材」を見つけ出します。
自己学習を最適化する機械学習
仕事の成績や、人事の評価などパフォーマンスのデータと研修や自己学習のポートフォリオのデータを分析し、個人の性格に応じた勉強方法をレコメンドしたり、本人は意識していないけど、データを細かく分析するとわかる「足りてない能力」などをアドバイスしてくれます。
データから分析するので、人の目からではなかなかわからないような細かい指導が可能です。
また、本来必要なのに学べていないような内容を見つけ、カリキュラムの穴を指摘してくれたりします。
さらに、その企業でのハイパフォーマーの分析をすることにより、自分に何が欠けているのかがわかるようになります。
細かいことですが、教材などのコンテンツのレベルにも機械学習により、間違えた問題の傾向や、弱点を集中的に表示したり、テストしたりすることもすでに実装されています。
今後の機械学習の進化に期待
機械学習はまだまだ進化しそうです。採用だけでなく、業務の評価面でも人間の感情が入ると、バイアスがかかって不公平な結果になることがあるでしょう。機械学習は今後の人事や社員教育に大きな利益をもたらしてくれると思います。ただ、その洞察を正しく判断して運用していただきたいと思います。機械に評価されるより、尊敬する上司に評価されたされたほうが、頑張れるような気がします。
機械学習は今後のコンピューティングテクノロジーの中心に位置する技術だと思いますが、映画『ターミネーター』の「スカイネット」のように、人間と対立する意志を持った自律型のコンピュータにならないようにしていただきたいと思います。
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