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ARCSモデルとは

年の瀬も迫り、来年度の新人教育を考え始めているご担当者様も多いのではないでしょうか。そんな新人社員の「教育係」や部下の育成の責任のある上司の方から、「なかなか興味を持ってもらえない」「社員の研修へのモチベーションが上がらない」という悩みを耳にします。


一般的に未経験者を、専門知識や高度な教育に積極的かつ継続的取り組ませるのは、なかなかハードルが高いことだと思います。


今回はこの「学習へのモチベーションを上げる方法」として、数々の教育の現場で取り入れられている、「ARCSモデル」について簡単にご説明します。



目次



ARCSモデルとは

ARCS(アークス)モデル」と呼ばれるこの学習モデルは、アメリカの教育工学者、ジョン・M・ケラー(John M. Keller)が1983年に提唱しました。


学習者の「動機づけを高める」方法をモデル化したもので、「やる気を引き出す」ための四つの要素を定義し、その頭文字を繋げたのがARCSです。 四つの要素とは、「Attention(注意喚起)」「Relevance(関連性)」「Confidence(自信)」「Satisfaction(満足)」です。


ARCSモデルは、インストラクショナルデザイナーたる人物が学習システムを組む際に、学習意欲の問題に取り組む際に役に立つシステムモデルです。 始まりは大学などの教育機関で、学生に学習へのモチベーションを維持させるための方法として広く使われるようになりました。

そして今では教育現場だけでなく、職場での指導のシーンでも応用できるとして、企業の研修設計や教材開発などにも活用されています。


それでは、まず学習モデルの要素となる4つの要素についてみていきたいと思います。




「Attention(注意喚起)」


研修やおすすめの講座を受けさせたくするにはどうしたら良いでしょうか? まずはそれについて「Attention(注意喚起)」させることからスタートするかと思います。


本屋に行って本を選ぶとき、定番の堅めの内容の本より、一風変わったタイトルの本に興味を持つことは多いと思います。 例えば、「経営学の基礎」という本より、「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」というタイトルのほうが手に取られる機会は多いのではないかと思います。こういうフレーズは本を買わせためにつけられてますが、原理としては「おもしろそうだ」「何かありそうだ」という学習者の興味・関心を誘い、注意を獲得する目的でつけているのです。


こうした興味を引く方法として「知覚的喚起」「探求心喚起」「変化性」などを行うのが「Attention(注意喚起)」のステップです。


「知覚的喚起」は研修などにキャッチーナキーワードを入れて興味を持たせる手法です。学習者に面白そうだなと思わせるために、映像を使って説明するようにしたり、年代にはまる有名人や好きそうな人の事例を取り上げたりするのも効果があります。


「探求心喚起」は不思議さや驚きのあるテーマを取り上げ、探究心を刺激するやり方です。先ほどの「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」も探求心を擽ぐります。


「変化性」は注意の持続に欠かせない要素です。工夫して引き付けた注意も、退屈な座学だと飽きてしまうので、実際にその場でやってみたり、ディスカッションを入れたり変化を与えることによって注意を持続させます。 実際問題として、注意喚起して引き付けても、それを持続させることは難しいでしょう。なので、学習者のモチベーションを持続させるには、強固な動機づけとして、次の「Relevance(関連性)」を与えることが大切になってきます。



「Relevance(関連性)」

この場合の「関連性」とは、「目標に対して意義や親しみを持たせること」を指しています。具体的には学習者自身が「これを学ぶことで自分の業務に役立てられる」と思わせることです。


学習者が持つ目標に対して、その学習が如何にプラスに働くかを過去の経験や興味をもとに関連付けます。こうした個人的ニーズを満たし、学習者が「自分ごと」として捉えることができるように導きます。こうした「これをやることにより、目標に近づける」とイメージできる人は「目的志向性型」の思考が芽生え、意識高く取り組む傾向にあります。


学習課題が何であるかを知り、やりがいがあると思えれば、学習活動の関連性が高まりますが、反対に、「何のためにこんな勉強をするのか」と疑問を持ってしまうと、関連性の欠如を起こします。したがって、関連性を感じることで、学習者は課題を受動的にこなすのではなく、主体的に関わってくれるはずです。 その自主的・主体的な関わりを強化してくれるのが「Confidence(自信)」です。



「Confidence(自信)」


「やればできるんだ」と自信を持って学習の目標を達成できそうだと思わせることが「Confidence(自信)」要素です。 ゴールを明確に示してあげて、自分の努力次第で成功できるという自信を持たせることが大切です。


Confidenceの実装は、「成功の機会」を用意してあげることから始まります。人は小さな成功を繰り返すことで、自信を身に付けていくので、例えば研修の中に成功を経験する機会を作ってあげます。


「学習しても修得・達成の可能性が低い」と思うとやる気が起きないので、近い目標を順番にクリアして自信をつけるなどの工夫をする必要があります。例えば、学習する内容に関連した資格取得を目標として設定したり、研修の内容に合わせて徐々に難易度の高い小問題を与えたりします。その成功を積み重ねることで、「やればできそうだ」という自信につなげていくことができるのです。これが「成功への自信」となります。 言われたことだけでなく、自ら計画・工夫して、試行錯誤の結果成功すると自信は高まりやすくなり、自己管理が持続して行われるようになります。


最後の「Satisfaction(満足)」は、目標をクリアした後に、新しい挑戦へのモチベーションの原動力となる要素です。



「Satisfaction(満足)」

目標に到達したことを認めて褒めることで「満足感」が生まれ、学びを次の行動につなげることができます。「満足感」を得て、学習意欲を高めるには、「内発的な強化」と「外発的な強化」があります。


「内発的な強化」は、自らの努力が実を結び「やってよかった」と思えることにより、次の学習意欲へつながる満足感が得られます。


「外発的な強化」は、講師や上司、同僚から、実力を認知されたり、何かしらの賞賛を得ることにより満足が得られます。外発的な強化は周りの協力が必要なので、上司や同僚から「君がこの知識を知ってたから助かったよ」と声かけが自然と出てくるような職場の雰囲気作りが大切です。


もう1点、「公平さ(Equity)」という要素もあります。 公平さは努力を無駄にさせない首尾一貫した学習環境や公平な評価システムなどです。職場では学習したレベルに合わせて職位を上げたり、給与に反映させたりといった工夫が挙げられます。



自発的に学びたくなる仕組みがARCSモデル

ARCSモデルは、最初に「面白そうだ、何かありそうだ」という「Attention(注意喚起)」によって引き寄せられ、次に、学習課題が何であるかを知り、「やりがいがありそうだ、役に立ちそうだ」という自分の価値との「Relevance(関連性)」に気づきます。課題の将来的価値のみならず、プロセスを楽しむという意義も関連性にあたります。


学習に意味を見いだしても、達成への可能性が低いと思えば意欲を失ってしますので、初期に成功の体験を重ね、それが自分の努力に帰属できれば「やればできる」という「Confidence(自信)」が次の学習への興味となってくれます。最後に 学習努力が実を結び「やってよかった」との「Satisfaction(満足)」が得られれば、次への新たな学習意欲につながっていくのです。


自分がトレーナーとして何か教えるのであれば、教える人が自発的に「学ぼう」と思えるしかけを仕込むのが大切です。トレーナーがインストラクショナルデザインのプロセスに携わるのであれば、授業の「魅力」を高めることを目的とした「動機づけ設計」の過程を組み込みましょう。


 

“インストラクショナルデザインとインストラクショナルデザイナーの役割”

「インストラクショナルデザイン」は、学校教育だけでなく、社会や企業など、教育が行われているあらゆる現場で使われる手法です。

インストラクショナルデザインは、「ニーズの評価と分析」「デザイン」「開発」「実装」「導入後の評価」の、5つの手順をサイクルとして設計します。インストラクショナルデザイナーは、上記のサイクルで使われる教材の開発を行う役割を担います。具体的には、受講者の分析や課題や目的、既存のシステムを分析し、新たな教育システムをデザインします。

デザインする要素としては下記の内容を決めていきます。

  • 教材の構成

  • 教材に統一感を持たせるためのルール

  • インターフェースデザイン

  • 制作チーム

  • スケジュール

  • 学習結果の評価法

インストラクショナルデザインは興味深い内容が多く、また別の機会にご紹介したいと思います。

 

最後に

ARCSモデルは社内教育だけでなく、面談や普段の会話を通して部下に業務に関するスキルを学んでもらえるようなメッセージを伝えていくのにも効果があります。知識やスキルの習得には、本人のやる気を持って取り組めるかどうかがカギだからです。


学習塾のCMに、「やる気スイッチを見つけてONにする!」というのを目にした方も多いかと思います。学習塾の詳しい施策は知りませんが、ARCSモデルはまさに、この学習者のやる気スイッチを探して、ONにする学習モデルだと言えるかと思います。


教える立場の人間として、ただやれと教えるだけでなく、本人自身が「学ぼう」という気持ちになれるような環境づくりが要求される時代です。ぜひARCSモデルを参考にして、やる気スイッチをONにする教育システムを作っていただければと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。



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