人材ポートフォリオとは?作り方や活用事例、よくある課題と解決策を解説
- nanaekunai
- 9月24日
- 読了時間: 26分

企業の成長を支えるのは、まさに「人材」です。
しかし、人材のスキルや経験、潜在能力を把握せずに採用や配置、育成を行うと、適材適所の実現や人材リスクの把握は難しくなります。
そこで注目されているのが 「人材ポートフォリオ」 です。
人材ポートフォリオとは、社員一人ひとりのスキルや経験、キャリアの可能性を整理・可視化し、経営戦略と人材戦略を連動させ、人的資本を最大化する手法です。
人的資本経営コンソーシアムの「人的資本経営に関する調査 ※1」 では、約4割の企業が経営戦略の達成に必要な人材ポートフォリオを定義しています。
本記事では、人材ポートフォリオの基本概念からメリット、作り方、チェックリストや活用事例まで幅広く解説します。
これを読むことで、
・社員のスキルや潜在力を整理して適材適所を実現する方法
・採用・育成・配置に役立つデータの活用ポイント
・実際の企業事例のご紹介や、課題への対応方法
など、人材ポートフォリオを “実務で活かすための具体的なヒント” が手に入ります。
多機能型LMS「SmartSkill Campus」やタレントマネジメントシステム「SmartSkill HCE」を活用すれば、人材ポートフォリオに使用する「社員のスキル」「学習履歴」等のデータ収集が簡単に行えます。
実際に企業がどのように人財育成を進めているのかは、「事例紹介(オリックス株式会社、明治安田生命保険相互会社、ワタミ株式会社他)」で詳しくご紹介しています。
※1 出典:人的資本経営コンソーシアム、「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」
目次
人材ポートフォリオとは?
人材ポートフォリオとは、社員一人ひとりのスキルや経験、潜在能力を整理・可視化し、組織全体の人材構成を戦略的に把握し最適化するための仕組みです。
金融における投資ポートフォリオの考え方を応用し、個人ではなく「人材の組み合わせ」に注目するのが特徴です。
例えば、将来の成長分野に必要なスキルを持つ人材がどの程度いるのか、管理職候補がどの部門に偏っているのか、といった情報を明確にできます。
人材ポートフォリオを作成することで、経営戦略に沿った採用・配置・育成をデータに基づいて行えるようになります。
従来の感覚的な人事判断から脱却し、人的資本経営やリスキリングといった新しい潮流にも対応できる「戦略的人材マネジメント」の基盤として、多くの企業で導入が進んでいます。
経営戦略と人材戦略をつなぐ橋渡し
人材ポートフォリオの大きな役割は、経営戦略と人材戦略をつなぐ「橋渡し」です。
企業が中期的な成長戦略を描く際には、新規事業の立ち上げや海外進出、デジタル化の推進など、様々な方向性が検討されます。
しかし、どれほど優れた戦略を描いても、それを実行できる人材が社内に不足していれば実現は困難です。
人材ポートフォリオは、必要なスキルや人材タイプを戦略に基づいて定義し、現状の社員情報と照らし合わせて「どこにギャップがあるのか」を明らかにします。
理想と現状のギャップを明らかにすることにより、採用や育成の優先順位を明確化でき、経営層が打ち出すビジョンを現実的に裏付けることが可能になります。
つまり、人材ポートフォリオは単なる人事ツールではなく、経営戦略を実現するための実務的な「羅針盤」となるのです。
従来の人材管理との違い
従来の人材管理は、勤怠や評価、給与といった人事情報を管理することが中心でした。
個々の社員の情報は把握できても、組織全体で「どのスキルが足りないのか」「誰を次世代リーダーに育てるべきか」といった視点で活用されることは少なかったのが実情です。
一方、人材ポートフォリオは個人単位の情報を組み合わせ、“組織全体の構造を俯瞰して捉える点”に大きな違いがあります。
例えば、単なる人事評価データでは見えにくい「潜在力の高い若手人材」や「特定スキルに偏りがある部署」などを浮き彫りにできるのです。
また、従来の管理が「過去や現在の記録」を重視していたのに対し、人材ポートフォリオは「未来の組織像」を前提に設計される点も特徴です。
つまり、記録から活用へ、管理から戦略へと発展したアプローチが、人材ポートフォリオといえます。
人材ポートフォリオが注目される理由
人材ポートフォリオが注目される理由を解説します。
人材版伊藤レポート「人的資本経営」
2020年に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」は、日本企業の人材戦略を大きく変える契機となりました。
このレポートでは、人材を単なる「コスト」ではなく「資本」と捉え、企業価値の向上に直結する経営テーマとして扱うべきだと提言しています。
単なる労務管理ではなく、企業の成長戦略と一体化した人材マネジメントの必要性が強調されました。
その中で人材ポートフォリオは、企業がどのような人材を抱えているのか、どの分野に強みや弱みがあるのかを明確にし、経営と人材をつなぐ実践的なツールとして注目されています。
人材ポートフォリオは、まさに人的資本経営を推進するための基盤と言えるツールです。
[参考]人材版伊藤レポート2.0、経済産業省、https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
人的資本に関する情報開示の義務化
2023年度以降、日本の上場企業には有価証券報告書での「人的資本に関する情報開示」が義務化されました。
これは、投資家やステークホルダーに対し、企業がどのように人材を育成・活用しているかを透明性高く示すことを求めるものです。
具体的には、スキル研修やリスキリングの取り組み、ダイバーシティの推進状況、エンゲージメント指標などが開示対象となりました。
背景には、国際標準化機構(ISO)が2018年に策定した「ISO30414」というガイドラインの存在があります。
ISO30414では、人材に関する11の領域・58の指標が定められ、グローバルに統一された情報開示の枠組みとして注目されています。
日本における開示義務化も、この国際的な流れと連動しているといえるでしょう。
こうした情報を正確に整理し、客観的に示すには、データに基づく人材ポートフォリオの作成が欠かせません。
人材の現状を体系的に可視化することで、単なる数値報告にとどまらず、企業の「人への投資」が戦略的であることを裏付けることができます。
[参考]「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について、金融庁、https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20221107/20221107.html
人材不足とスキルの多様化
少子高齢化による労働人口の減少は深刻化しており、多くの企業で人材不足が経営課題となっています。
同時に、デジタル技術の進化やグローバル化などの変革によって、求められるスキルも年々多様化しています。
特定分野の専門人材だけでなく、複数のスキルを組み合わせて活躍できる人材への需要も高まっています。
しかし、現場感覚だけに頼って必要人材を把握することは難しく、属人的な判断では偏りや抜け漏れが生じがちです。
人材ポートフォリオを導入すれば、組織全体のスキル構成を俯瞰的に把握でき、不足する領域や強化すべきスキルを明確にできます。
これは、限られたリソースを最大限活用するうえで欠かせない仕組みです。
データで「見える化」
従来の人材管理は、年齢や勤続年数、職位といった属性情報が中心でした。
しかし、それだけでは個人の能力や可能性を十分に把握することはできません。
現代の人材マネジメントでは、スキルや経験、キャリア志向、エンゲージメントなど、多面的なデータを収集・分析し、組織全体を「見える化」することが求められています。
人材ポートフォリオは、この「見える化」を実現するための枠組みであり、スキルマップやマトリクス図などを活用して直感的に理解できる形で人材情報を整理できます。
データに基づく可視化は、経営層への説明や現場での意思決定をスムーズにし、人事施策の精度向上にも直結します。
人材ポートフォリオを作成する7つのメリット
人材ポートフォリオを導入することで、人事戦略や組織運営にさまざまな効果が生まれます。
適材適所の配置や育成方針の明確化、キャリア支援の強化など、企業にとって実践的なメリットは少なくありません。
ここでは、その代表的な7つのメリットを解説します。
1.適材適所の人材配置ができる
人材ポートフォリオの大きな価値は、従業員のスキルや経験、志向性を整理・可視化することで、適材適所の配置が可能になる点です。
従来の人事配置は、上司の印象や定性的な評価に依存する傾向がありました。しかし、ポートフォリオを活用すれば、誰がどのスキルを持ち、どの業務で最大の成果を発揮できるかをデータで判断できます。
データに基づいた人材配置は、組織の生産性向上や社員のエンゲージメント強化につながります。
また、スキルが不足している部門に人材を補充するなど、戦略的な組織再編にも役立ちます。
人材ポートフォリオを作成することにより、「人材を最適に動かす」ことが実現できます。
2.自社の人材構成が一目で分かる
人材ポートフォリオは、個々の社員情報を集めるだけでなく、組織全体の視点から人材を整理・分析することで、自社がどのような人材をどれだけ抱えているかを明確にします。
これにより、現在不足しているスキルや経験、将来的に必要となる人材像が具体的に見えてきます。
社員一人ひとりのスキルや適性をアセスメントやジョブローテーションで把握することで、従来見落としていた能力や特性にも気づくことができます。
こうして可視化されたデータは、採用や配置、育成の判断材料として活用でき、無駄を省きつつ必要な部分にリソースを集中する戦略的人材マネジメントを可能にします。
自社の人材の棚卸としても効果的な手法です。
3.人材育成・採用の方針が明確になる
人材ポートフォリオを作成することで、自社に不足しているスキルが明確になり、人材育成や採用の方針を具体化できます。
必要なスキルや経験を持つ人材像を定義することで、「新たに採用すべきか」「既存社員を育成すべきか」といった判断がスムーズになります。
例えば、DX推進を目指す企業がITスキル不足を把握できれば、社内研修の優先順位を決めたり、中途採用で即戦力を確保する戦略を立てやすくなります。
人材開発と採用戦略を別々に考えるのではなく、一体的に検討できる点が、人材ポートフォリオ導入の大きな強みです。
限られたリソースを効率的に活用し、企業全体の成長をより加速させることが可能になります。
4.キャリア開発を効果的に支援できる
人材ポートフォリオを活用すれば、従業員一人ひとりの能力や志向を把握し、それぞれに適したキャリア開発を支援できます。
強みを発揮できるポジションや希望するキャリアパスに沿った業務を提示できるため、具体的な成長イメージを描けるようになります。
例えば「このスキルを高めれば次のポジションを目指せる」「この経験を積めば管理職候補になれる」といった道筋を示すことが可能です。
こうした取り組みは社員のモチベーションを高め、エンゲージメントや定着率の向上にもつながります。
人材ポートフォリオは単なる配置や評価のツールにとどまらず、社員の成長を後押しする仕組みとして機能する点が大きな特徴です。
5.後継者育成に活かせる
人材ポートフォリオは、後継者育成を計画的かつ効率的に進めるための有力なツールです。
社員一人ひとりのスキル、経験、適性、キャリア志向を整理することで、将来の管理職やリーダー候補を明確に把握できます。
現状と理想のポジションに必要な能力の差を可視化できるため、育成や研修、OJT、ジョブローテーションの優先順位を戦略的に設定可能です。
また、候補者の強み・弱みを分析し、必要なスキル習得の計画を立てることで、組織の中核人材を確実に育てられます。
さらに、データを根拠に経営層への説明や承認もスムーズに進められるため、後継者育成の透明性と説得力が高まります。
これにより、誰をいつどのように育成すべきかが明確になり、組織の持続的な成長を支える基盤となります。
6.人材リスクを早めに把握できる
人材ポートフォリオを導入すると、特定スキルの人材不足や部署ごとの人材偏在、後継者不足といった潜在的なリスクを早期に把握できます。
問題が顕在化する前に、採用や育成、配置転換といった対策を検討できるため、事業への影響を最小限に抑えることが可能です。
例えば、重要ポジションの候補者不足が分かれば、早期に育成計画や外部採用に着手できます。
また、退職率が高い層やスキル分布の偏りを可視化することで、組織の弱点をいち早く改善できます。
人材ポートフォリオを活用することで、人材リスクを早期に把握し、業務の継続性を確保するとともに、企業経営の安定性を高められます。
7.経営層や現場への説明資料として活用できる
人材ポートフォリオは、組織の現状と将来像を「見える化」できるため、経営層への報告や現場への説明に有効な資料となります。
経営会議で「この部門はデジタル人材が不足している」と示せば、投資判断やリソース配分の意思決定がスムーズになります。
現場マネージャーにとっても、部署の人材構成や課題を理解しやすく、育成や配置の方針を具体的に検討する助けとなります。
図表やマップで直感的に伝えられる点が大きな強みであり、共通認識を持つことで全社的な人材戦略を円滑に実行できるようになります。
人材ポートフォリオの作り方
人材ポートフォリオの作り方を、ステップ別に解説します。
STEP1. ビジョンや事業戦略を明確化
人材ポートフォリオ作成の第一歩は、企業のビジョンや事業戦略を明確にすることです。
将来どの市場で勝負するのか、どの領域に注力するのかといった方向性を定めなければ、必要な人材像を描くことはできません。
例えば、新規事業の立ち上げを計画している企業であれば、起業家精神や柔軟な発想を持つ人材が求められます。
逆に、既存事業の強化に重きを置く場合は、専門知識やオペレーション能力を備えた人材が不可欠です。
人材ポートフォリオは単なる人材リストではなく、経営戦略を支える人材戦略の可視化ツールです。
経営陣と人事部門がこの戦略を共有し、合意の上、「どこを目指すのか」を最初に定義することが、精度の高いポートフォリオ作成の土台となります。
STEP2. 必要な人材タイプと人数を定義

経営戦略を描いた後は、それを実現するために「どのような人材が、どの部署・ポジションに、何人必要か」を具体的に定義します。
ここで重要なのは、スキルや特性を言語化し、人材を分類する軸を明確にすることです。
例えば、業務の性質での分類方法としては「個人・組織」と「創造・運用」といった4象限で整理する方法が基本です。
DXを推進したい企業であればデータ分析人材やエンジニアを、既存顧客基盤の強化を目指すなら営業力に優れた人材を重点的に配置するなど、戦略ごとに求めるタイプは変わります。
また、人数の設定は「3年後の事業目標を達成するには何人必要か」といった将来像から逆算することが効果的です。
人材ポートフォリオは組織の設計図であり、この段階の精度がその後の分析や施策の成果を大きく左右します。
■人材タイプの分類方法
必要な人材タイプと人数を定義する際、分類方法を明確にすることで分析がしやすくなります。
代表的な切り口をご紹介しますので、ぜひご活用ください。
①スキル・専門性ベース
・デジタル人材(データ分析、AI、DX推進など)
・技術人材(研究開発、エンジニアリングなど)
・営業・マーケティング人材
・管理・バックオフィス人材(人事、経理、法務など)
・グローバル人材(語学力、海外経験など)
②役割・ポジションベース
・経営層(CxO、事業責任者)
・管理職(部長・課長クラス)
・プロフェッショナル(専門職)
・若手人材(将来のリーダー候補)
③キャリアステージ/経験年数ベース
・ジュニア層(新卒~入社3年目程度)
・ミドル層(5〜10年程度の経験)
・シニア層(管理職・専門職として成熟した層)
④スキルの汎用性・希少性ベース
・コア人材(事業の中核を担う人材)
・サポート人材(業務遂行を支える人材)
・ハイポテンシャル人材(将来の幹部候補)
・レアスキル人材(特定の領域で代替困難なスキル保持者)
⑤行動特性や志向性ベース
・挑戦志向型(新規事業や改革に強い)
・安定志向型(既存業務を着実に遂行できる)
・協調型(チームワークや調整役に長ける)
・専門追求型(専門領域で深く成果を出すタイプ)
STEP3. 現状の人材を当てはめる
次に、自社に在籍する従業員をポートフォリオにマッピングします。
役職や部署だけでなく、スキルセット、経験、キャリア志向なども含めて可視化することが大切です。
例えば「Aさんは管理職経験が豊富だが、デジタルスキルは弱い」「Bさんは若手ながら語学力に優れ、グローバル業務に適性がある」といった具合に整理します。
ここで重要なのは、人材を単なる「頭数」として捉えず、一人ひとりの強みや可能性を浮き彫りにすることです。
タレントマネジメントシステムや人事システム等を活用しスキルマップを作成すれば、視覚的にも把握しやすくなります。
現状を正確に把握することで、次のステップで理想像とのギャップを具体的に洗い出せるようになります。
■スキルや経験の可視化には「SmartSkill HCE」がおすすめ
人的資本経営を推進するタレントマネジメントシステム「SmartSkill HCE」は、動的な人材ポートフォリオ作成と継続的な更新を強力に支援します。
1. 従業員のスキルや経験を一元管理・可視化できる
SmartSkill HCEでは、従業員一人ひとりのスキル、資格、コンピテンシー、キャリア情報を一元管理できるため、組織全体のスキルマップを簡単に可視化し、偏りや不足を把握することが可能です。
人的資本の現状を正確に分析できるため、課題発掘やデータに基づいた人材戦略の立案に役立ちます。
2. 個人のキャリア志向や目標を反映できる
SmartSkill HCEでは、従業員のキャリア志向や目標、希望するキャリアパスを記録できるため、個々の成長意欲や方向性を把握し、適切なキャリア支援を実施することが可能です。
キャリア管理機能を活用することで従業員一人ひとりのキャリア形成を後押しし、結果として組織全体の成長につながります。
3. 足りないスキルをすぐに学習できる
SmartSkill HCEは、多機能型LMS「SmartSkill Campus」と連携しています。
スキルチェックの結果、足りないスキルが見つかった場合には、すぐに学習コンテンツを受講して能力を高めることができます。また、学習の進捗や成果を継続的に可視化することで、成長度合いや潜在能力をより正確に評価することが可能です。
従業員の学習履歴やスキル習得状況はLMSだけでなくSmartSkill HCEにも反映され、リアルタイムで追跡できます。
LMS連携により、個人の成長と組織全体の人材ポートフォリオを効率的に強化することができます。
STEP4. 理想と現状のギャップを分析
理想像と現状を照らし合わせると、人材面でのギャップが明らかになります。
例えば「将来的にデータ分析人材が20名必要だが、現在は5名しかいない」「次期マネージャー候補となる30代人材が不足している」といった課題が浮かび上がります。
こうしたギャップを可視化することで、採用計画や育成方針に優先順位をつけることができます。
また、過剰に偏っている領域を発見できるのも大きなメリットです。
例えば「管理部門の人員が多く、営業部門は不足している」といった場合は、配置転換や採用戦略の見直しが必要です。
ギャップ分析は単なる現状把握にとどまらず、将来の成長戦略と直結する重要な工程です。
STEP5. ギャップを埋める解決策を検討
最後に、洗い出したギャップをどう埋めるかを具体的に検討します。
大きく分けると「採用」「育成」「配置転換」の3つの方法があります。
新たに必要なスキルを持つ人材を採用するのか、既存社員をリスキリングや育成するのか、それとも既存リソースを配置換えして対応するのかを判断します。
例えば、デジタル人材の不足が顕著であれば、中途採用と並行して社内研修を強化する戦略が有効です。
また、後継者不足の課題に対しては、サクセッションプランを策定し、候補者の早期育成を進めることが求められます。
解決策を具体的に示すことで、人材ポートフォリオは実行可能なアクションプランへと進化し、経営と人事の両面を支える強力なツールとなります。
人事マネジメントだけでは解決が難しい場合は、事業モデルの転換や仕組みづくりなど、より根本的な対応も視野に入れる必要があります。
これらの施策は、短期的なものだけでなく、中長期的な視点を持って計画的に実施することが重要です。
■人材育成やリスキリングには、多機能型LMS「SmartSkill Campus」がおすすめ
人材ポートフォリオのギャップを埋めるためには、従業員の継続的な育成やリスキリングが欠かせません。
そこで有効なのが、多機能型LMS「SmartSkill Campus」です。
SmartSkill Campusは、学びの機会を最適化し、従業員一人ひとりの成長を支援する仕組みを備えています。
1.タレントマネジメントシステムとの連携
SmartSkill Campusは、カオナビやCYDASなど主要なタレントマネジメントシステムと連携しています。従業員のスキル情報や人材データを活用して、個々に最適化された学習を自動的に提供。API連携にも対応しており、既存の人事システムとスムーズに統合できるため、人材育成をより戦略的に進められます。
2.幅広い学習コンテンツを提供
SmartSkill Campusでは、コンプライアンスや情報セキュリティといった必須教育から、ビジネススキル・語学・リベラルアーツまで、多彩な学習コンテンツを取り揃えています。社員の役割やキャリアに応じて最適な学びを提供できるため、組織全体のスキルアップを効果的に支援します。
3. AIを活用した先進的な学び
SmartSkill Campusには、AIを活用したレコメンド機能やトレーニング機能が搭載されています。
従業員の受講履歴や習熟度を分析し、必要な学習コンテンツを自動提案。
さらにAIによるフィードバックを通じて理解度を高め、個人に最適化された学習体験を実現します。
AIを活用し、効率的かつ継続的なリスキリングが可能となります。
人材ポートフォリオ作成のポイント
人材ポートフォリオ作成時に気をつけなければならないポイントや注意点を解説します。
データの正確性を確保する
人材ポートフォリオで最も重要な要素の一つが、データの正確性です。
スキルや経験、キャリア志向などの情報が正確でなければ、適切な人材配置や育成計画を立てることが難しくなります。
誤ったデータに基づく意思決定は、人材のミスマッチや組織全体の生産性低下を招く可能性があります。
社員の情報を把握する際には、自己申告だけでなく、評価面談やアセスメント、実績データなど複数の情報源を組み合わせることが重要です。
こうすることで偏りや抜け漏れを防げます。さらに、定期的な見直しや更新により、常に最新の状態を保つことも欠かせません。
加えて、タレントマネジメントシステムなどのツールを活用すれば、入力漏れや重複を防ぎ、データの正確性をさらに高めることが可能です。
データ収集の負担を減らす
人材ポートフォリオの作成においてデータ収集は不可欠ですが、過度な負担は継続的な運用を妨げる要因となります。
そのため、既存の人事プロセスやシステムを活用し、効率的にデータを収集する仕組みを構築することが重要です。
例えば、評価面談や研修記録など、既存の活動と連携させることで、重複作業を減らし、担当者の負担を軽減できます。
タレントマネジメントシステムやLMSを導入すれば、スキル情報や研修履歴、配置状況などを自動で集約・管理できるため、手作業による負担が大幅に軽減されます。
負担を減らすことで、データの鮮度を保ち、人材ポートフォリオを継続的に活用できる基盤が築けます。
優劣をつけない
人材ポートフォリオは、組織全体の人材構成を客観的に把握し、最適な人材戦略を立てるためのツールです。
しかし、このツールが個々の従業員に優劣をつけるためのものではないことを理解しておく必要があります。
ポートフォリオはあくまで「現在の状態」を示すものであり、特定のスキルが不足している場合でも、それが個人の能力や価値の低さを示すものではありません。
それぞれの社員の強みや潜在能力を見出し、組織全体のバランスを考慮しながら、適切な配置や育成、キャリア支援につなげることが目的です。
人材ポートフォリオの導入においては、公平性を保ちながら、すべての社員が成長できる機会を提供することが重要です。
人材ポートフォリオのよくある課題と解決策
人材ポートフォリオ作成の、よくある課題と解決策をご紹介します。
データが揃わない
人材ポートフォリオの作成において、データの収集は非常に重要ですが、この段階でつまずくケースが少なくありません。
必要なデータが網羅されていない、あるいはデータが散在していて整理に手間がかかるといった課題が挙げられます。
特に、社員のスキルや経験、キャリア志向といった定性的な情報を客観的なデータとして収集するには、明確な基準と効率的な仕組みが求められます。
この課題を解決するためには、タレントマネジメントシステムやLMS、人事システムの導入を検討し、データの収集・管理を自動化・一元化することが有効です。
また、アンケート調査や面談などを通じて、定性的な情報も定期的に収集し、データとして蓄積していくことで、人材ポートフォリオの精度を高めることができます。
現場マネージャーが非協力
人材ポートフォリオの活用は人事部だけでは完結せず、現場マネージャーの協力が不可欠です。
しかし、「忙しくて協力できない」「評価につながるのでは」と警戒され、情報提供が進まないケースもあります。
この課題に対しては、まず「現場にとってのメリット」を明確に伝えることが大切です。
例えば、ポートフォリオがあれば部下の強みや弱みを把握しやすく、配置や育成方針の検討に役立つことを具体的に示すと納得感が高まります。
成功事例を共有する機会を設け、現場マネージャーの当事者意識を高めながら段階的に導入を進めることで、協力体制を築いていきましょう。
また、入力や更新作業をできるだけ簡単にすることも重要です。
システムで直感的に操作できる仕組みを整え、マネージャーの工数を最小限にすることで協力を得やすくなります。
更新が続かない
人材ポートフォリオの作成は、一度行えば終わりではありません。
ビジネス環境や経営戦略は常に変化するため、ポートフォリオも定期的に更新し、最新の状態を維持することが重要です。
ところが実際には、導入直後は盛り上がっても、1年も経つと更新が滞り、形骸化してしまう企業も少なくありません。
主な要因は、情報収集の負担、担当者異動による引き継ぎ不足、更新の必要性への理解不足などにあります。
この課題を解決するには、評価面談や年度計画など既存の人事イベントと連動させて更新をルーティン化することが有効です。
タレントマネジメントシステムを活用してデータ収集や管理を効率化すれば、担当者の負担を軽減し、継続的な運用が可能になります。
また、経営層や現場マネージャーが会議資料や人材配置検討の場でポートフォリオを実際に活用することで、更新の意義が現場に浸透しやすくなります。
データ活用を組織文化として根付かせることが、「動的な」人材ポートフォリオを機能させる鍵です。
人材ポートフォリオ実践チェックリスト
人材ポートフォリオを効果的に活用するには、作成時に押さえるべきポイントを漏れなく確認することが重要です。
データ収集から分類、更新まで、実務担当者が確認すべき項目をチェックリスト形式で整理しました。
1.必要な人材データは揃っているか
・社員ごとのスキル、経験、役職、キャリア志向、資格・研修履歴が揃っているか
・自己申告だけでなく、評価シートやLMS、実績データも参照しているか
<ポイント>複数情報源を組み合わせ、更新日・担当者を明記すると管理がスムーズ。
2.分類基準は明確か
・ハイパフォーマー/育成対象/リスク人材などの分類基準が文書化されているか
・数値や行動指標で定量化してわかりやすくなっているか
<ポイント>優劣をつけず、組織課題の把握が目的であることを共有する。
3.経営戦略との整合性は取れているか
・配置・育成計画が中長期の事業戦略や部門目標とリンクしているか確認
<ポイント>戦略とズレがあれば、必要スキルや人数を再定義。
戦略変更時には更新すること。
4.現場マネージャーが参画しているか
・データ確認や分類にマネージャーが関与しているか
・面談やワークショップで意見を反映
<ポイント>現場理解と協力が精度と活用効果を高める。
現場マネージャーにメリットを共有する。
5.定期的に更新できているか
・評価面談や研修計画、人事異動など既存イベントに合わせて更新されているか
<ポイント>更新担当者を明確化し、定期的に情報を見直すルールを定める。
以前の状態と比較できるように、更新履歴を残す。
人材ポートフォリオの活用事例
人材ポートフォリオを実際に活用し、成果を上げている企業は数多く存在します。
ここでは、その中でも代表的な企業事例をいくつかご紹介します。
日揮ホールディングス株式会社
日揮ホールディングス株式会社では、事業戦略を実現するために専門性とイノベーションを担う人材の強化が不可欠と捉え、人材ポートフォリオ改革を経営の最重要課題に位置付けています。
具体的には、①ポートフォリオのモニタリングとローリング、②人材の採用・育成、③エンゲージメント向上を柱とした施策を展開。
その中でも特に特徴的なのが、人材を「変革・創造志向か/着実運用志向か」「組織管理型か/専門技術型か」という2軸で分類し、経営・マネジメント人材、イノベーション人材、高度専門人材、遂行人材の4タイプに整理するアプローチです。
これにより、中長期的に必要な人材像と現状とのギャップを明確化し、採用や育成方針を具体的に検討しています。
このように、人材ポートフォリオを経営戦略と一体で運用している点は、他社の参考となる実践事例です。
富士通株式会社
富士通株式会社は、事業戦略の実現に向けて、人材ポートフォリオの転換を積極的に進めています。
成長領域と効率化領域を明確に分け、事業領域・職種・等級別に必要人員を試算。
現状との比較を通じて、採用・配置・リスキリング・アップスキリングの重点分野を可視化しています。
特に注力しているのが、DXを担う人材の育成です。
営業職8,000名を対象に、業種の枠を越えた「ビジネスプロデューサー」への転換を進め、段階的なリスキリング研修やスキルの見える化を実施。
また、社内公募制度や副業・社内インターンなどを通じて、社員のキャリア自律を前提とした成長機会を提供しています。
さらに「FUJITSU Career Ownership Program」やLinkedInラーニングなどを活用し、自律的な学びを支援。
これらの施策は、人材ポートフォリオを経営と結びつけつつ、社員の主体的な成長を後押しする先進的な取り組みといえるでしょう。
SCSK株式会社
SCSK株式会社は、人材を最大の財産かつ価値創造の源泉と捉え、中期経営計画の中で事業戦略と連動した「人材ポートフォリオ」の充実を重視しています。
具体的には、成長領域や高付加価値分野へシフトする経営戦略に基づき、必要となるスキルや人材像を明確化。
そのギャップを埋めるために、人材育成や処遇制度を強化し、プロフェッショナル人材の確保・育成を推進しています。
さらに「働きやすさ」と「働きがい」を両立させるWell-Being経営と組み合わせ、社員の多様性を尊重しつつエンゲージメント向上を図っています。
人材ポートフォリオに基づく施策は、報酬水準引き上げや大規模な人的資本投資(100~200億円規模)とも連動しており、経営指標(KPI)を通じて進捗を可視化。
その結果、戦略的人材配置と社員の成長支援を両立し、持続的な企業価値向上につなげるモデルケースとなっています。
※事例の出典:人的資本経営コンソーシアム、「人的資本経営の現状・課題とトップランナーたちの取組」、https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/toprunners.pdf
まとめ:人材ポートフォリオで人事が変わる
人材ポートフォリオを活用することで、社員のスキルや経験、潜在能力を整理・可視化し、経営戦略と連動した人材マネジメントが可能になります。
適材適所の人材配置や育成・採用計画の明確化、人材リスクの早期把握など、組織の成長に直結するメリットも大きいのが特徴です。
タレントマネジメントシステムやLMSを活用すれば、スキルや研修履歴の管理・更新も効率的に行え、担当者の負担を軽減し継続的な運用が可能になります。
人材ポートフォリオを取り入れることで、人事の意思決定をよりデータドリブンにし、人的資本経営の基盤を作る第一歩とすることができます。
人的資本を最大化するため、人材ポートフォリオの活用をしてみてはいかがでしょうか。