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  • コンプライアンス教育とは(その1)

    「コンプライアンス」についての社会的認識は、年々高まっています。そのため多くの企業や団体で、就業規則や規定などの整備が急ピッチで行われました。しかし、就業規則や規定の整備を行っただけでは意味がないのがコンプライアンスの難しいところです。 コンプライアンスを徹底するために必要なのは、「コンプライアンス教育」です。しかしコンプライアンス教育のシステムについては、なかなか軌道に乗っていないというのが現状のようです。予算も限界がありますし、管理部署も仕事がいっぱいで全社員に徹底した教育ができません。今回は当社でも引き合いの多い、コンプライアンス教育の方法について取り上げてみたいと思います。 「コンプライアンス教育」は「コンプライアンス意識」を高めるための教育と言えます。「コンプライアンス意識」とは、問題に対してどのような事を行うべきかを意識し、行動することになります。したがって、「コンプライアンス意識」が向上すれば、企業の持つ社会的責任に対する意識も自然と向上するはずです。 社員に対する「コンプライアンス教育」を徹底するには、まず企業(特に経営陣や管理者)がコンプライアンスを守るために、省くことのできない必須の教育であるという意識を強く持っていただくことが大切です。 今回は第一弾段階として、まずコンプライアンスを知るために、コンプライアンスの重要性と実例について説明し、次回その2ではコンプライアンス教育の具体的な進め方について詳しくご説明させていただこうかと思います。 目次 コンプライアンスってそもそも何? コンプライアンス違反の例 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 コンプライアンスってそもそも何? 英語の「Compliance」を直訳すると、「従う事、従順、遵守、準拠」といった意味になります。日本のビジネスシーンで使われると「法令遵守」と訳されています。 「コンプライアンス」とは、元々は「何かを遵守する」という事を指しています。 1960年代のアメリカでは、高い経済成長の裏で、企業、団体、組織が独占禁止法の違反など様々な法令違反を犯していました。つまり「つかまらなければ利益のためにズルをする」という風潮です。その時代の国(政府)もそれを取り締まるだけのパワーはありませんでした。 こうした氾濫する法令違反への、社会規範上の対策として生まれたのが、コンプライアンスの概念です。法令違反を良しとしないまともな企業、団体、組織は、独自に対策プログラムを作成し、実践するようになりました。こうした健全化の動きは、国民に支持され、徐々に法令順守の動きは広がり始めます。 しかし、遵守する対象を法令だけにすると、法律を守れば何をやっても構わない、法律を守る事が全てという事になりかねません。もっと言えば、出し抜きたければ法律の隙間を探せば問題ないという解釈をされるかもしれないのです。 そこで、法令の遵守だけでなく、社会や顧客の信頼に応える企業になろうという風潮が高まり、現代では、世の中の常識や良識といった社会的な規範も守る事が含まれるようになりました。 具体的には、下記のような項目が企業コンプライアンスの内容になります。 企業倫理 社内規定の整備(マニュアル化)、運用 企業の社会貢献 企業のグローバル化による世界基準の対応 リスクマネジメント(ルールの設定や運用、環境整備) このように、現在のコンプライアンスには、法律を越えた高い企業理念や、厳しい倫理規定の実践が求められています。また、企業の社会的責任も、企業コンプライアンスの重要な要素となっています。社会的責任を果たし、社会的に企業が高評価であればあるほど、企業のブランド力を向上させ、企業を拡大させる助力となるのです。 コンプライアンス違反の例 「コンプライアンス」の言葉の意味するところはなんとなくわかっていただけたかと思いますが、実際にどんなことがコンプライアンス的にアウトなのかを、事例を絡めて簡単に上げてみたいと思います。 顧客から集めたアンケート情報の取り扱い アンケート情報の取り扱いはコンプライアンス違反として問題に上がりやす事例です。 目的を明示して、顧客の了解の上アンケートを取ること自体は問題ありません。しかし、後日別件でそのアンケート情報を他の部署で利用するとなると話がことなります。同じ社内で利用するのであれば、問題はないと考える人は多いようですが、事前に説明した目的以外のケースでの利用に関しては「承諾していない」とみなされ、コンプライアンス違反となります。 下請法に抵触する問題 取引の一環とは言え、仕事の委託先に対してコストダウンを強要したり、スケジュール的に無理な作業の依頼などは下請法に抵触するコンプライアンス違反になります。それがもとで品質低下や事故なども起こりうるので、しっかり考えるべきことです。 有給休暇の取得拒否 有給休暇は、法律で認められている権利なので、取得を上司が拒否することはコンプライアンス違反となります。ただし、業務の状況によっては、管理者が変更を求める事が可能であると法律上定められています。つまり、業務上、休まれると支障が出るようなケースでは、上司が拒否をしてもコンプライアンス違反にはなりません。 勝手に残業するとコンプライアンス違反 知らないと、意外なことでコンプライアンス違反となります。その顕著な例が、日々の残業です。 忙しいとき、残業するのは当たり前と思っている社員の方も多いかと思います。各企業とも就業規則によって、残業に関して定めているはずですが、法的には残業は上司の命令によって行うものと決められています。その為、上司の了承を得ずに行うと就業規則を守っていない事となり、コンプライアンス違反となってしまいます。 この場合の違反者は、勝手に残業を行った本人だけでなく、監督できなかった上司も違反となります。日々の残業ですらこうなので、休日出勤も同様になります。 残業や休日出勤などの、不当な長時間労働やサービス残業は、労働基準法に違反する行為ですので、たびたび問題になります。企業はコンプライアンス制度に関する窓口を設けておく必要があります。 昼休みを多く取ったので、その分サービス残業を行うと2つの点で法令違反 昼休みを多くとってしまった場合、その分の差をサービス残業で埋めると、実質的な労働時間に変わりは無いので問題ないように思えるかもしれませんが、これは2つの点でコンプライアンス違反になります。 一つ目は、「昼休みの取り方が就業規則通りでない」という点で違反。 もう一つは労働に専念するという義務を意味する、「労働契約」に対する違反。つまり、専念していませんし、上司から指示されるべき残業を勝手に決めたという点でも違反です。 お中元やお歳暮にも気をつける 取引先から物品を渡される場合は、コンプライアンスに違反しないような対応をする必要があります。就業規則によって、贈答が禁止されている場合は、理由を話して丁寧にお断りします。就業規則で禁止されていない場合は、上司に報告し、管理部などで処理してもらい、自分で全部着服しないようにします。逆に取引先に対して贈答を求めるような行為もコンプライアンスに違反してます。 副業のコンプライアンス違反は就業規則による 就業時間外は、その名の通り就業規則の枠組みの外という意味なので、企業が行動を制限する事はなく、自由に行動して構わないはずです。 しかし、就業時間外であっても副業については注意すべき問題がいくつかあります。例えば、公務員の場合は、副業は公務員の法律で禁止されているので、完全に違反です。 では、民間企業の場合はどうなるかというと、就業規則によります。就業規則で制限されているのに副業を行うと、コンプライアンス違反になります。副業禁止については、就業契約の問題になります。なので、契約時の合意があれば制限されることは違法ではありません。 社員の住所を勝手に教える 社員名簿には、名前、住所、生年月日などの個人情報が多数掲載されています。社員は、これらの個人情報を企業に提供しています。これらを社外に口外したり、社員名簿を業者に渡すことは、個人情報保護法に違反した行為として、コンプライアンス違反になります。クレジット会社などを名乗る会社宛の電話に、うっかり教えてしまわないように注意しましょう。 退職先企業の機密情報の漏洩 転職理由が、退職先企業に対する不満の場合、腹いせに機密情報を漏洩させる事件は後を絶ちません。転職先の企業で早く成果を上げたいと思う気持ちもあるかもしれませんが、機密情報は、その企業が持つ資産や財産なので、完全にアウトです。つまり退職先企業から契約違反、著作権の侵害、営業機密の不正使用などで訴えられます。 転職先で自分自身が持つスキルや経験、ノウハウを生かすことは何ら問題はありません。なので、この手の訴訟では「機密情報であるかどうか?」が争点となります。 インサイダー取引 例えば友人からの情報によって、値上がりの予想される株式を購入すると、インサイダー取引になります。インサイダー取引は、重要な情報を公開する前に、社員や関係者がその会社の株式の売買取引を行うという事を禁止した金融商品取引法上で禁止された行為です。つまり、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反実例となります。 友人なので、社員でも関係者でも無いからセーフとはなりません。重要な情報を公開前に知らされた時点で、社員や関係者と同等の立場として考えられるからです。家族や出入りの関係者なども同様です。 ソフトウエアの使いまわし ソフトウエアのライセンス形態はさまざまですが、中には1本だけ購入して複製し、社内で使いまわしてコストを節約しようとする企業があります。例え最初の1本分の代金を払っていてもライセンス条項にそぐわないソフトウエアの社内流用は、著作権侵害なので、法令遵守を意味するコンプライアンスの違反しています。実際に、企業が損害賠償請求を受けるケースが多いです。 選挙に関することは企業内に持ち込まないことが基本 就業規則では、勤務時間中の政治活動や宗教活動を禁止しているケースがほとんどです。一般的にも、日本の企業風土として定着しているので、OKと書かれていなければ、アウトと判断されます。知人からポスターを貼らせて欲しいといった選挙活動は断りましょう。企業全体で選挙活動を後押しするのも公職選挙法や憲法違反として、コンプライアンス違反です。 コンプライアンスは企業全員が取り組むべき問題 このようにコンプライアンスは、経営者のみが意識すれば良いルールではなく、働く社員全てが、その意識を持ち合わせる必要があります。なぜなら一人の社員が、上記のようなコンプライアンス違反を起こすだけで、企業全体の信用を失墜してしまうことは少なくありません。信用低下の度合いによっては、倒産という事態を招くこともあります。 雇用形態も関係ありません、アルバイト、パート、誰であっても、コンプライアンスは遵守しなければならないのです。最近では、派遣やアルバイトといった、「人材の流動化」がもたらすコンプライアンス問題が発生しております。 かつて終身雇用が中心の時代では、「会社 = 自分の人生の一部」という意識が強かったので、会社に対する高い忠誠心を社員が持ち合わせていました。そのため、社内情報も漏れる事はあまり無かったので、企業コンプライアンスを整備する必要が無かったとも言えます。人材の流動化が進行が、会社に対する責任感や忠誠心の薄れにつながり、社員同士の仲間意識も薄れてきたので、ルール違反があればすぐに表面化するようになりました。 さらに、TwitterやFacebookなどのSNSが、個人のコンプライアンスを簡単に世間に広めてしまうという要因も大きいです。このように雇用形態の変化や、ネット社会の進行が企業コンプライアンスに強い影響を与え、企業コンプライアンスの整備は急務となっています。 次回その2では、コンプライアンス教育について、そのやり方についてご説明する予定です。 最後までお読みいただきありがとうございました。

  • 反転授業とは

    最近はデジタル教材やツールの進化により、自己学習の効率が上がりました。その影響からか、日本でも反転授業に重きを置く学校が増えています。そしてビジネス教育の現場でも反転授業形式のプログラムを組む企業が増えています。 今回は「反転授業」についてご紹介します。 目次 自己学習を先に、授業は後に 動画による事前授業のメリット 反転授業の効果 今後の授業の中心となる反転授業 人材教育における反転授業 自己学習を先に、授業は後に 学校の授業や企業研修は、「授業(講義)」を受けることが学習の中心です。つまり、講義を受けて、家に帰って復習や宿題で知識と理解を確実なものとするという流れです。 これに対して、『講義を宿題としてオンラインで視聴させ、教室では演習を行う授業をする』のが反転授業です。『教室で講義し、演習を宿題にする』という従来の授業形態を『反転』させたので、「反転授業」と言われます。 反転授業では、講師が予め自分の講義を動画として用意し、それを宿題として生徒側に予め見せておきます。つまり「講義を受けること」は「宿題」となるのです。 そして、集まって行われる講義(演習)では、討論したり、わからない点を質問したり、プレゼンテーション、グループワークなどその場で問題を解いて理解を深めたりします。この「同じ時間、同じ空間」に集う教室に生徒の表現活動を集約し、学習意欲を高めるのが狙いです。 このように、限りがあった授業時間から、講師が一方的にしゃべっていた説明時間を取り除いて、授業時間をフルに使って、知識を実際に自分の力で活用することを学び、より生徒に対して深く教えることができるのが「反転授業(反転学習)」の最大のメリットです。 反転授業のメインは実際の授業(演習)中の内容ですが、その前の動画による「事前授業」だけを見ても、生徒にとってメリットが大きいと言えます。 動画による事前授業のメリット 授業ビデオによる事前学習のメリットとデメリットを上げてみたいと思います。 メリット 1度きりの講義と異なり、何度でも繰り返し見れるので理解が深まる 席などの不利な条件での聞き漏らしがない 時間的な制約が緩和されるので、欠席などによる、機会ロスがない 講師もリハーサルができるので、伝え忘れがなく、正しい順序で説明できる デメリット 質問できない 動画配信システムや再生ハードウェアが必要 飽きとの戦い(集中力の問題) メリットについては動画教材のメリットとしては定番のものが並びますが、実際の「授業」と比較して、「講師側のメリット」もあります。 デメリットですが、「質問できない」というのは、反転授業の場合、実際の授業時間中に質問ができるので、反転授業が動画教材のデメリットをカバーしていると言えます。 「動画配信システム」はYouTubeなど、無料の動画配信サービスにより、解決されています。「再生ハードウェア」の問題は、コストは致し方ありませんが、学校側のタブレットの配布などが進んでいるので、今後は問題とならなくなると思います。 「飽き」については、生徒の問題でもありますが、先生の動画作成時の工夫などでいくぶんカバーできるかもしれません。まあ、生の授業でも寝る人は寝ますし。同じカットが続くと空きやすくなるので、板書のアップと切り替えたりできると多少改善されます。 反転授業の効果 反転授業の有効な効果として、『相乗的な学習の動機づけ』が注目されています。今までは、授業の主役は「先生(講師)」でした。しかし、授業の中心を「演習」に置く反転授業では、ハイパフォーマンスの生徒が活躍し、他の生徒を教える側に回ったりすることで、刺激され全体の学力向上に貢献する効果があります。 また、演習授業にはコミュニケーションが存在するので、学習がコミュニケーションの中心になります。このコミュニケーション能力の育成が、社会に出てから役に立ちます。 今後の授業の中心となる反転授業 反転授業は米国では「Flipped Classroom」と呼ばれています。「貴重な教室での授業時間を、説明だけに費やすのはもったいない。もっと知識を実際に自分の力で活用する手法を学ぶべき」というのが、アメリカで反転授業を奨励している教師たちの発想です。実際にアメリカの高校では、反転授業の導入が急ピッチで行われています。これは安価な動画再生ツールとなったタブレットの普及によるところが多いと言われています。反転授業は、10年後は主流となるとアメリカでは言われてます。 日本ではもともと演習部分のメソッドが不得意なこともあり、中々教員側も苦労しているようですが、文部科学省も「教育の情報ビジョン化」の中で、ICTを使った反転授業を含むBlended Learningを進めると言っています。 人材教育における反転授業 最後に、企業における反転授業の導入ですが、企業研修にも反転授業のメソッドが取り入れられてきています。例えば研修の大部分が講義形式で行われている場合、それが研修日程の長期化の原因だったりします。そこで、講義部分は予め録画したものを事前に各自見ておき、研修日程中は、質問やグループ討議、事前課題のプレゼンテーションなどに多くの時間を割くのです。 実際に反転授業を取り入れている弊社のお客様からは、「映像だと繰り返し見れるので、講義部分の理解度が高くなっている」とか「アンケートを取るとグループワークの方が好評」「研修日程が短くなって、参加しやすくなった」など、おおむね肯定意見が多かったようです。 教える側の講師派遣会社の方も、「講義部分は毎度の内容なので、講師としても割愛できると助かる」「説明忘れがなくて良い」などの意見があるようです。 弊社でも企業教育における反転授業の導入には注目しており、昨年末に、反転授業などを収録するのに適したバーチャルスタジオが完成しました。稼働率は中々好調で、ほぼ毎日収録が行われています。 このように、反転授業の普及には「講義の映像化」が欠かせません。自社で反転授導入をご予定でしたら、ぜひお声をおかけください(笑)。 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

  • エルダー制度とは

    前回はOJTについてご説明しましたが、今回は関連のキーワードとして、「エルダー制度」について少し説明させていただきます。 私見ですが、最近は先輩が後輩の面倒を見るのは当たり前だという「慣習」が薄れつつあるように思えます。この「先輩・後輩」の師弟関係を、教育システム化したのがエルダー制度です。 最近では販売や介護などの「新人の離職率の高い現場」で、高い効果があると見直されてきています。 目次 エルダー制度とは エルダー制度のメリット エルダー制度のデメリット エルダー制度を活用するポイント エルダー制度とは エルダーとは英語で「先輩」や「年長者」を意味します。 エルダー制度とは、OJT型教育制度の1タイプで、新入社員ひとりひとりに、先輩社員を教育担当としてつけ、業務や社内ルールなどを担当者制度のもとで面倒をみる制度のことです。 他にも「OJTリーダー制度」「ブラザー制度」「シスター制度」など現場によりいろいろ呼び方があり、「エルダー(先輩)」を「バディ(仲間)」と呼びかえることもあります。 一般的なOJTと違うところは、通常のOJTトレーナーが業務中心の指導を行うのに対し、エルダーは、実務の指導を始め、職場生活上の相談役も担う点にあります。 エルダー制度のメリット もともと所属長が特定の社員(新人)にかかりきりになる状態を回避する意味で、若手に指導を指せることはよくありました。エルダー制度としては、さらに、中堅クラスの社員に指導経験を積ませることで成長を促すことなども目的とされています。 指導をする側のエルダーも、指導してスタッフ同士の仲間意識を向上することが出来ますし、指導の際に疑問に思ったり、問題になったことを共有し合うと問題解決能力の向上が見込めます。 何よりも、「新入社員に教えることで(エルダー自身の)技能の定着を図る」、「管理職になる前に管理業務を学べる」といったメリットがあります。 また、エルダーが職場生活上の相談役も担う点は、年齢が近い人が指導することで相談しやすい環境を作り、新入社員や転属などで業務が変わってストレスにさらされる社員を安定させる効果を期待しています。 特に、新人の離職を防ぐのに企業として取り組んでいるところが多く、これを実施することで会社への定着率を上げる効果があると言われています。 エルダー制度のデメリット デメリットとして問題になっているのが「エルダーが燃え尽きてしまう」という問題です。新人は辞めなくなったが、エルダーとなる中堅が業務過多で退職してしまう例があります。 また、当然ですが、エルダーと新人の相性が悪いと上手くいきません。 エルダー同士でも問題は発生します。教え方の違いによる衝突や、エルダー同士の指導の温度差などがあります。こういった場合、トレーナー研修などを導入して、エルダー同士のスキルと意識を統一する必要があります。 エルダー制度を活用するポイント エルダー制度は、業務時間の全てにおいて、「人の面倒を見る」ことを明文化した教育システムです。なので、普通のOJTより、トレーナー(エルダー)への負荷は高いと言えます。 正常な運用のポイントは、全員で新人を育てるんだと意識づけることと、的確な評価・アドバイスを管理者が行うことで、エルダーの育成を同時に行うということです。 エルダー制度は、エルダーも新人も参加しているスタッフ全員が成長していくシステムなのです。 お読みいただきありがとうございました。

  • 経験学習モデルとは

    今回のキーワードは「経験学習モデル」です。 人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという学習法を、人材育成の領域では「経験学習」と呼びます。 経験学習モデルは、この経験学習をモデル化したもので、日本企業の研修などでもよく取り入れられる学習フレームワークで、1度はやったことがあるという方も多いのではないでしょうか。 この経験学習モデルについて、簡単ではありますが説明していきたいと思います。 目次 経験学習モデルとは 1.経験 2.省察 3.概念化 4.試行 振り返りシートを使った経験学習の実践 最後に 経験学習モデルとは よく「経験学習モデル」と言いますが、正しくは「コルブの経験学習モデル」で、アメリカの組織行動学者デービッド・コルブ氏が提唱した、経験を活かした学習モデルのことを指します。 コルブは、一般的な学習モデルが、既に体系化・汎用化された知識を”受動的”に習い覚える「知識付与型」の学習やトレーニングであるのに対し、「経験学習モデル」は、学習者が自らの「経験」から「学び(気づき)」を獲得していくという「プロセス」を体系化した学習モデルとしています。 「コルブの経験学習モデル」では、4つのサイクルを使って、経験を単なる経験に終わらすことなく、自身の学びへと昇華させ、次のアクションへと繋げ、自身で概念化するところまでを定義しています。 以下の4つのサイクルを回すことによって、学習の深化をはかります。 Step1: 経験(Concrete Experience) Step2: 省察(Reflective Observation) Step3: 概念化(Abstract Conceptualization) Step4: 実践(Active Experimentation) まずは、各サイクルの意味を1つづつ見ていきましょう。 1.経験 「経験」のステップは、「Concrete Experienc(具体的経験)」が原文通りです。 学習者である社員の方が、業務や活動の中で具体的な経験をする段階です。 問題などにぶつかると、都度自分で考え、自分で対処し、結果を受け入れます。するとその中で自分で「気づく」ことが多くなるはずです。 その経験した内容を、どんな経験をしたのか、具体的に何を体験したのかを書き出して整理するのが大切なポイントです。 些細なことでもしっかり記録し、次の省察や概念化のヒントになるようにします。 2.省察 「省察」は、「Reflective observation(省察的観察)」が原文通りです。 経験をしたら、多様な観点から自身の行動を「振り返り」、その内容について「質問」しながら、原因を見つけます。振り返るときに、いつもと同じ視点、価値観で考えては、新しい「気づき」は生まれません。いつもは気にしないような多様な観点で振り返ってみることがポイントです。 具体的には、経験した内容を振り返り、良かったこと・悪かったこと、その時々に感じたこと、狙いとのギャップなどについて書き出して整理していきます。そして書き出した内容に対して、何故なのか?とその背景にある原因や理由を探っていきます。 3.概念化 「概念化」ステップは他にも、「持論化」とか「セオリー化」とか訳されますが、原文では「Abstract Conceptualization(抽象概念化)」と書かれています。 前のステップの「省察」で得られた成功・失敗の分析を、自分や自分以外でも、また他の似た状況でも応用できるように、持論化(マイセオリー化)します。良かったポイントや改善が必要な項目を一度抽象化し、その上で他の場面でも、もしくは他の人も活用できるように文言化、体系的に整えます。 概念化化とはいわば「教訓」のような形にすることです。そうはいっても、この「概念化」は研修でも一番の難関で、参加者がみんな悩むポイントでもあります。まずは、書き方にこだわらないことが大切です。概念化とは、本質的な要素を抽出することなので、本質が捕まえられていれば書き方にこだわる必要はありません。 また、他の人の概念化したものを参考に、自身の視点を加える形で整えてもいいです。体系的に整理された既存理論と、経験から気づいた自分の考えとを照らし合わせ、自分の状況に当てはめ、個別具体的に解釈し、発展させ、自分の新しい理論を構築します。 参考例を探しているうちに、新たな視点に気づくこともあります。 4.試行 「試行」ステップは、他にも「アクション」とか「行動」という置き換えをされている場合があります。原文は「Active Experimentation」で、訳としては「能動的実験」です。 「(抽象的)概念化」によって導き出した持論(マイセオリー)を、新しい場面で実際に試してみるステップです。 能動的という言葉が付いているように、自ら仮説を持って試行することが大切です。本格導入は、その結果を踏まえてということですね。 全てにあてはまる完全なセオリーでなくてもいいし、問題を完全解決しなくてはいけないというわけでもないのです。パナソニックの故 松下幸之助氏は、「持論が6割ぐらいいける」と思ったら決定していたそうです。 この能動的実験によって、次なる具体的経験が得られるため、また最初の「経験」へと戻ってサイクルを繰り返されます。 振り返りシートを使った経験学習の実践 研修では、ワークシートを使ってこの学習モデルを習得します。このシートを「振り返りシート」と呼びます。 振り返りシートは、経験学習モデルの4ステップで記入できるようになっています。 「経験:具体的経験の書き出す」⇒「省察:経験の振り返り」⇒「概念化:セオリー化する」⇒「試行:新しく試すことを決める」といった感じです。 各項目のポイントを下記に補足しておきます。 1.経験ステップ:具体的経験のを書き出す POINT:経験した内容を具体的に書き出していく いつどこでどのような経験をしたか? 自身の役割は何だったか? その結果どういった結果を得たか? 2.省察:経験の振り返り POINT:経験を多様な視点から振り返り、新しい発見や意味を見つけ出す なにが印象に残ったか? 良いと思ったことは? 悪い(改善が必要だと)思ったことは? 経験を通して何を感じたか?どんな気持ちになったか? それぞれの経験にはどのような意味があったか? 結果として分かったことは何か? 3.概念化:セオリー化する POINT:学びや気づきをその他の場面でも応用可能なように自論化する ポイントをまとめる 今回の中で最も重要な教訓は何か? 方程式化・定理化するとどうなるか? マニュアル化するとどうなるか? 他の場面でも応用できるようにするにはどうしたらいいか? 4.試行:新しく試すことを決める POINT:考え出した持論を活かし、次にどのような実験・検証を行うかを考えてみる 今回の活動を通して新たに得られた選択肢はあるか? 次回、より良い結果を出すにはどうしたら良いと思うか? 次はどんなことに挑戦するか? その際に、どのような指標を重視するつもりか? 経験学習モデルの研修で行われる際は、ワークシートの記入の仕方を学び、「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」を書いてみて、それをもとに参加者同士でディスカッションします。 自身の経験を紹介したり、他の人からの省察を参考にしたりして、多様な視点を持つヒントを得るのが目的です。 また、一番難しいステップ3:概念化についても、「それで本当に解決できるのか?」「イレギュラーケースの時はどうするか?」など話し合います。 研修によっては、1か月くらい経って、日を改めて「ステップ4:試行」の結果を振り返る研修を行うのも良いでしょう。 また最近では、この「ステップ1:経験」や「ステップ2:省察」をケース映像を使って行うeラーニング型研修も好評です。研修ですと参加者のスケジュール調整に手間取り、コンスタントに行うことができません。eラーニングの映像を使って経験学習モデルのプロセスを学び、オンラインでワークシートを提出するスタイルが、経験学習のとっかかりには便利なのかもしれません。 最後に 「経験から学ぶ」と言うことは、私たちが人生の中でたくさん経験してきたはずです。しかしながら、その「学び方」について気にしてきた方は少ないのではないでしょうか? 実際職場では、「同じ失敗が繰り返される」「プロジェクトがいつもトラブルに見舞われる」「場当たり的な問題解決しかできない」と言った、経験から学んでいれば陥らないはずの問題が繰り返されているのではないでしょうか。 ビジネスの世界では、効率が重視されるため、上記のような問題が起こると上司は、「マニュアル化」「システム化」といった「誰でもできるように手順化する」という処置が取りがちです。しかしそれでは「誰かに教えてもらわないとできない」「誰かに指示されないと動かない」といった問題を引き起こします。 部下が自身で考えて対処し、自身の成長を実感することなく、仕事の手順を覚えるだけになってしまうのです。指導者として必要なのは、部下が自身の判断や仕事の成果について、自ら考え、自ら振り返る機会をいかに与えるかということです。それは「経験から学ぶ」という昔から行われていた学び方を疎かにしないことを含んでいます。 「経験から学ぶ」、この学び方ができる人は同じ失敗を繰り返しませんが、できない人は何度も同じ失敗を繰り返します。 周りにいる「仕事のできる人」を観察すれば、その人が仕事の中で「経験学習」を実行している振る舞いを見るはずです。その人は「同じ失敗を繰り返さない」「トラブルを予見でき回避する」「改善のアイディアを実行している」「失敗しても成功を諦めない」と言ったコンピテンシーが育っているはずです。 誰でも失敗はします。しかし、「転んでもただでは起きない」つまり「失敗から学びとる」ということを行うことで、自身の価値をアップさせてきたのです。 「経験学習モデル」はこうした学びのプロセスを覚えるためのフォーマットの1つなんですね。 最後まで読んでいただきありがとうございます。

  • レジリエンスとは

    新型コロナの大流行を受けて、注目されている心理学の言葉に「レジリエンス」があります この言葉が急に使われるようになってきた背景には、企業が今回の新型コロナ禍で、人と会社の両面で大きな逆境に立たされている状況が垣間見えます。 今回は、この「レジリエンス」について、簡単ではありますが説明したいと思います。 目次 レジリエンスの意味 レジリエンスの研究 レジリエンスという人の能力 レジリエンスがある人の特徴 組織レジリエンス レジリエンスの向上 最後に レジリエンスの意味 もとは心理学用語である「レジリエンス(resilience)」の意味は、困難や障害に直面している人が、それを「上手に適応して乗り越える能力」を意味します。 日本語訳で端的に言うのであれば、「逆境力」「耐久力」「折れない心」「精神的回復力」などと訳されているようです。 似たような言葉が並びますが、私が一番しっくりくるのは「(逆境にあっても)折れない心」でしょうか。ちなみに反対の概念は「脆弱性(vulnerability)」です。 レジリエンス研究の第一人者である米ペンシルベニア大学のカレン・ライビッチ博士は、レジリエンスとは「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」と定義しています。 実際の意味合いとしては、「折れない心」プラス「それをバネにして成長」がセットで考えられているようです。 レジリエンスの研究 「レジリエンス」という能力が研究されだしたのは、1970年代です。きっかけは、第二次世界大戦下でナチスドイツがユダヤ人を捕まえて、強制収容・処刑した「ホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)」の孤児に対する追跡調査からでした。 孤児達は親や周りの同胞が殺されるのを目にし、その後強烈なトラウマを植え付けられます。孤児の中には、そのトラウマに苛まれて生きる気力を持てない孤児がいる一方、トラウマを克服し、その後仕事に前向きに取り組み、成功して幸せな家庭を築き、人生を成功させる孤児もいました。 追跡研究では、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向がある事が分かりました。前向きに生きて成功した人達は、その後の人生において、厳しい状況でもネガティブな面だけではなく、ポジティブな面を見いだす事ができる思考の柔軟性が見られたのです。 彼らはそうした思考を残りの人生に活かすことに成功しました。その後ユダヤ人は学術研究やビジネスで成功を収めていきます。 ユダヤの格言・教え(タルムード学) ビジネス関連書では、ユダヤ人に成功者が多いのは「タルムード」の教えがあったからという内容の記事を目にしたことがあります。 ユダヤ人はアメリカの人口の2パーセント程度ですが、その中の成功者にはそうそうたる顔ぶれが並びます。※亡命者含む。 相対性理論で世界一の頭脳と言わしめたアインシュタインはユダヤ人でした。 実にアメリカのノーベル賞受賞者のなかにユダヤ人が占めている比率は25%です。世界で見ても、歴代ノーベル賞受賞者の約20パーセントは、ユダヤ人です。 Facebookのマーク・ザッカーバーグをはじめ、フォーブスの世界長者番付にはユダヤ人が並びます。スターバックス、リーバイス、フランスの自動車会社「シトロエン」の創立者はユダヤ人です。 メディア界では、音と電波の帝王「RCA」の創立者デイヴィッド・サーノフ、英「ロイター社」創業者T・J・バロン・ロイター、「ニューヨークタイムズ」のザルツバーガー家、映画の巨匠スピルバーグもですね。 私の大好きなアメリカのロックバンド「KISS」のフロントマンのポール・スタンレーとジーン・シモンズは二人ともユダヤ人です。 このように、世界から見れば少数派のユダヤ人が成功している秘訣は、今回のレジリエンスに関わる大きなカギとなる宗教上の教えがあります。 ユダヤ人のほとんどの人が信仰しているユダヤ教には、「タルムード」と呼ばれる聖典(聖書)があります。タルムードとは旧約聖書に出てくるモーゼが伝えたもう一つの律法とされる「口伝律法」を収めた6部構成、63編から成る文書群です。 この文書には、ユダヤ人の僧がまとめた1万数千ページに及ぶユダヤ教5000年のあらゆる知恵が凝縮されていて信仰の基となっています。この中にユダヤ人成功の秘密があるそうです。 タルムードには、ビジネスで成功した人の名言にも酷似した教えがたくさん書いてあります。 “タルムードに書かれている教え” 金は道具であり、道具に支配される者などいない。 だから、道具はできるだけ多く持っている方がいい」 「耳と耳の間に、最大の資産(知識)がある」 「失敗したことよりも、やってみなかったことのほうが後悔は大きいものである」 「あなたが既に持っているものを、必要としている人に売るのはビジネスではない。あなたが持っていないものを、それを必要としない人に売るのがビジネスなのだ」 「成功の半分は忍耐からなる」 「人生にとってもっとも大切なものは、金ではなく時間である」 「あなたが知識を増やさないということは、実は知識を減らしていることになる」 「学んだことを復習するのは、覚えるためではない。何回も復習するうちに、新しい発見があるからだ」 もともとユダヤ人は、ヨーロッパで圧倒的に少数派なので、キリスト教徒でない彼らは歴史的にずっと差別されていました。その為、政治家や官僚などになる道は少なく、成功するためにはビジネスや金融、科学や芸術など自らの才覚で人生を切り拓くしかなかったといわれています。 そうした状況下で、タルムードの格言は、親から子へ、社会を通じて、人間観、社会観、ビジネス観を見つめ直す機会を与え、困難を乗り越えながら彼らに強いレジリエンスを備えさせたと考えられます。 レジリエンスという人の能力 「レジリエンス力」の本質となる能力は大きく2つ、「適応力」と「復活力」と言われています。 レジリエンスの英単語としての一般的な意味は、「復元力」「弾力」、転じて「回復力」です。 では何からの回復というかというと、物理学用語では、「ストレス(stress:外力による歪み)」が一定以上かかることにより、反発してその歪みを撥ね返す力がレジリエンスということになっています。これは人間の置かれる状況に置き換えても同様の作用がイメージできますね。 こう考えると、レジリエンスという言葉が、心理学の言葉としてあてがわれた意味が分かってくるかと思います。 レジリエンスは、ストレスのある状況や逆境でも、うまく適応し、精神的健康を維持し、回復へと導くものですが、「導くもの」としては、「心理的な特性」「能力」「プロセス」など、いろいろな側面が考えられています。 レジリエンスの一部の能力として「ストレス耐性(stress tolerance)」があります。ストレス与えられた人間が耐えられる程度を意味する概念です。また「ハーディネス(hardiness:頑健性)」という言葉は、ストレスを自らの力で撥ね返す精神力特性を示す言葉です。この2つはレジリエンスという能力を強く下支えする役割を持っています。 ストレスから逃れることが不可能である現代社会では、ストレスがかかる状況に正面から向き合い、対処し、乗り越えていくことが成長や成功の鍵となります。自身の特性や問題解決能力だけではなく、何かあったときに支えてくれる人がいるか(ソーシャル・サポート)などの「環境要因」も重要です。 レジリエンスがある人の特徴 レジリエンスがある人の特徴を考える前に、「心が折れやすい人の特性」を考えて見ましょう。 「心が折れやすい人」は感情による波が激しいという特徴があります。 自分が置かれている状況や出来事に一喜一憂しやすく、そこから生じる結果にだけ目を奪われがちなので、「なぜ自分がそのような状況にいるのか」「本来、自分は何をするべきなのか」といった物事の本質を考えない傾向にあります。 周囲の反応や自分の感情、物事の結果に振り回されて、無駄にエネルギーを消耗してしまうのです。 「諦めが早い」のも心が折れやすい人の大きな特徴です。目標があっても、ちょっとした失敗や気分の落ち込み、周囲からの冷ややかな反応などさまざまな理由をつけて早々に諦めてしまいがちです。またそのことに対する自己評価が「やっぱり僕にはできなかった」といったマイナス思考に陥りやすい特徴もあります。こういうことが重なってくると、心はより折れやすくなってしまうでしょう。 「心が折れやすい人」の特徴を考えると、その逆のレジリエンスがある人の特徴がはっきりしてきます。以下はレジリエンスがある人の特徴と捉えられている点です。 思考に柔軟性がある(精神的敏捷性:Mental Agility) 大ピンチな状況下でも、思考の柔軟性があれば、ネガティブな状況の中にもポジティブな側面を見つけ、発想の転換でわずかな光を見出して乗り越えることができます。 感情をコントロールできる(自制心:Self-Regulation) 物事の本質と向き合うことができる人は、いちいち目の前の状況に一喜一憂しません。喜怒哀楽の感情の起伏が激しいと、自らの感情に振り回され、それ自体が大きなストレスとなってパフォーマンスを落とします。 自尊感情が養われている(自己認識(Self-Awareness)と自己効力感(Self-Efficacy)) 自尊感情とは、「自分の力を自分自身が過小評価しない」ということです。自尊感情がしっかりある人は、困難に直面しても、最初から「無理だ」とあきらめず、乗り越えるための手段を考えるステップに入ります。この自尊感情の醸成は、レジリエンスを高める上で非常に大切なポイントです。 楽観的(Optimism)である 過度な不安を持つ人は、それに振り回されてしまいがちです。逆に楽観的過ぎても危険です。ただ、この状態は長く続くものではなく、「そのうちきっと解決できるだろう」と、さまざまな困難を前向きに捉え、不安感に打ち勝って物事を解決していくことができます。 組織レジリエンス 個人がレジリエンスを身に付けると同時に、企業などの組織自体がレジリエンスの考え方を積極的に取り入れようという動きが活発化しています。これは新型コロナウイルスの流行前から活発になっていたのですが、ここにきてビジネス誌の中心記事になるほど盛り上がりを見せています。 ここでの「組織レジリエンス」とは、企業のビジネス環境の変化への適応能力や耐久力、逆境力を意味しています。 21世紀になると、ITOなどのイノベーションにより、従来の産業や企業が陳腐化し、経営危機に立たされることも頻繁に目にするようになりました。そのため、近年投資家が企業に投資する判断基準として、注目しているポイントとなったのが「組織レジリエンス」です。 イノベーションなどでビジネス環境の変化による経営危機が訪れた場合、いかに企業の存在価値を示し、新たな価値を創出できるかをビジョンを持って説明することは、投資家との信頼関係構築にも多大に影響します。組織レジリエンスの強化は投資家の企業評価指標に直結しやすく、企業としても企業価値を示す根拠として活用することができます。 また、BCP(事業継続計画)の面でも組織レジリエンスは非常に大切です。 BCPでは、企業の危機管理のテーマにも「レジリエンス」という言葉を使うことがあります。リスクマネジメントの一種でもあり、危機により業績や企業自体がゼロからマイナスになってしまった場合、どのようにして元通りにいかに戻すかという計画を前もって立てておくのです。 マイナスから回復するだけではなく、以前よりもプラスの高みへと進化するような「超回復力」につなげるという考え方も含みます。 日本政府の政策に「国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)」という取り組みがあります。国家のリスクマネジメントであり、強くてしなやかな国をつくることです。これもコロナ禍以前から政策として活発に協議されていました。 日本はリスクの多い国家と言えます。関東大震災(1924年)以降、日本で100人以上の死者が出た地震は15回起こっており、その発生確率は9年に一度ということになります。 国土交通省は「日本の人口の73.7%が、洪水、土砂災害、地震、液状化、津波のいずれかで大きな被害を受ける危険のある地域に住んでいる」と報告、日本国民はほぼすべての人が、人生の中で大災害に遭遇することが宿命づけられています。 さらに自然災害以外にも、今回の新型コロナのような感染症災害(バイオハザード)、地政学的脅威、テロや紛争の飛び火と言った武力衝突の脅威も、以前より身近に感じられるようになってきました。 こうした自然災害や様々なハザードに対するレジリエンスとは、たとえ被災しても、個人や家庭、企業や組織、地域などが折れてしまうことなく、被災前の状態に戻れる力を意味します。日本人は古来より、このレジリエンスの力が試されてきているといえます。 レジリエンスの向上 レジリエンスには、特別な精神状態に追い込むパワーがあり、「集中力」「パフォーマンス」「創造力」「問題解決力」「対応力」などを高める効果があります。そうした理由からも企業も関心が高いレジリエンスですが、どういった人材教育が行われているかというと、企業向け研修や自己啓発的に行われるトレーニングが主たる施策のようです。 研修のカリキュラムを見ると、「感情のコントロール方法」や「自尊感情、自己効力感の取得方法」に関して、時間を割いている傾向があります。具体的には、仕事でストレスを受けた時の受けとめ方や捉え方、さらにネガティブになった時の切り替え方といった感情のコントロール方法を学びます。そして、自分の強みや弱み、自分はできるという効力感を得る方法などもです。 メンタルケア研修と似てますが、レジリエンス研修の場合は感情の癖や対処法の習得に重きを置く内容です。 また、一部は代理体験ができるのもレジリエンス教育の特徴です。成功体験のエピソードビデオやリアルトークを聴講するという啓発活動も自主的に行うと良いかと思います。 一番大事なのは、こうして学んだことを恐れずに、仕事に使うことです。つまり、ハードルが高そうな仕事も「いっちょやってみるか!きっとできるさ」と思ってチャレンジし、躓きながらも成功させるというその体験が一番成長を促します。 レジリエンスを高めるには 目標に向かえば向かうほど、困難な状況は現れるものです。レジリエンスを高めるには、こうした困難を乗り越えていくという積み重ねが非常に大事です。 アメリカ心理学会は、以下の「レジリエンスを築く10の方法」を提唱しています。 親戚や友人らと良好な関係を維持する 危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする 変えられない状況を受容する 現実的な目標を立て、それに向かって進む 不利な状況であっても、決断し行動する 損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す 自信を深める 長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する 希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する 心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う 最後に 新型コロナウィルス流行の影響は、当初の予想をはるかに超える変化を作り出しました。コロナがこれからの経済に与えた影響はまだ全貌を表さず、かつての金融危機・経済危機以上の規模で大混乱が発生する恐れがあるといわれます。 コロナ以外でも世界では異常気象が続き、日本でも今まで早々お目にかからなかった規模の台風や集中豪雨が頻発しています。世界はますます不安定になり、かつ不確実性が高まってきています。 このような不確実で不安定な今後の世界に生きていく上で、個人の生き方だけでなく、企業、そして社会にとっても、「レジリエンスを高める」ことに取り組んでいくことが大変重要になると思います。 ストレス社会と言われて久しい今日、私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。その中で、生産性を上げて持続的成長を遂げるといった難題に取り組みつつ、心身ともに健康で幸せな人生を歩んでいくには、レジリエンスをいかに高めるかが社会人生命を左右する重要なテーマです。 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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