前回(その2)ではコンプライアンス教育の進め方のざっくりとした流れについてお話しいたしました。今回は個々の具体的な教育方法についてご説明したいと思います。
目次
具体的な教育方法について
コンプライアンス教育の具体的な教育方法としては、以下のような取り組みがあります。
マニュアル・社内行動規範・ハンドブック等の配布
イントラネット等での情報発信
社内講師による研修・説明会
社外講師による研修・説明会
法令研修会・勉強会などの定期的な実施
ケーススタディー、ケースメソッド式の研修
ビデオ・DVDなど視聴教材の活用
eラーニングによる一斉教育
外部のビジネススクールに通って学ぶ
コンプライアンス検定を受ける
職場での周知・討論の日常的な実施
テストの実施
具体的にいくつか見てみたいと思います。
マニュアル・社内行動規範・ハンドブック等の配布
マニュアルは、「何かあったときに、すぐ参照できること」が大切という話をしましたが、手に取ってわかりにくいものでは意味がありません。身近な事例を使ってマニュアルを作ることも、興味を持たせるという意味では非常に効果的です。したがって、外部のマニュアルを利用してもよいのですが、自社向けにマニュアルの内容をアレンジした方が、社員の意欲向上に繋がると思います。
基本的には、文献で作っておく必要はありますが、それらをもとに別途動画などで見やすくするなど工夫するのも手です。活字で読むのは大変ですが、イントラなどでマニュアルの内容を映像化して見せたいというご相談は弊社にも多く、たくさんの作例があります。具体的には、実際の現場を撮影しながら、行動の正解・不正解をいくつかのケースでドラマ形式にするスタイルが好評です。
社内・社外の講師による研修
コンプライアンス教育の内容は、事業や対象者によってかなり異なります。経営者・取締役クラスの研修は、外部から専門の講師を招いて行うことが多いかもしれませんが、一般的にはコンプライアンス担当(コンプライアンス専任部署)が事務局となって教育をおこないます。講師とは別に、コンプライアンス推進委員を置いて、普段から教育することも大切です。
仕事がら、他業種より重点的に教えたい内容もあるでしょうし、企業の社風や風土なども考慮しなければいけません。なので、本当はその企業の人が、自分たちにあった内容を考えて教育するのが理想です。 しかし、コンプライアンスについてきちんと学んだ人間が教えなければ意味がありません。そうした人材が社内にいない場合は、外注するのが1番手軽です。外注先としては、コンサルティング会社や弁護士事務所などです。
法律などの座学の研修に関しては、コンサルタント会社や研修会社に依頼して行い、仕事がら具体的な事例や経験談をベースに討論するような場合には、自社の従業員自身が講師として行うほうが、ケースが適切で効果的があります。 なので、スタートは社外の研修会社を使ってもよいですが、数年すれば「社内講師」が育つので、自社ケースにあった「社内のオリジナル研修」をメインにするのが良いのではないかと思います。
ビデオ・DVD教材の活用 ~ビデオ教材で行うコンプライアンス研修~
集合研修などで、人を集めるのは結構大変です。業務の都合でどうしても参加できない人は出てくるかと思います。 その場合は、実際に実施された研修を録画し、そのビデオを使って参加できなかった人に学ばせるのも手です。ビデオならば、社員の予定の調整もしやすく、一斉に集める必要もなく、時間の削減になります。また、繰り返し使えるので、講師や会場のコストも節約できます(ただし、講師の方には許可をもらう必要はありますが)。
もう1歩進んだビデオの使い方としては、ケースドラマなどを作り、視覚的にわかりやすく教育するという手法もあります。弊社でもドラマ仕立てで、抵抗なく見れる形のケースドラマ教材の作成オーダーは多く、会社規模の大きいところほど費用対効果が大きいため、問い合わせが多くなっております。
また、こうしたドラマ映像の教材は、アルバイトやパートのスタッフの教育でも人気があり、「マニュアルだと読んでもらえなかったが、ビデオなら見てくれた」という担当者の声も聞かれます。コンプライアンスのドラマは市販もされていますが、自社の業務にそってドラマ化したほうが、見る側もわかりやすく、真剣に見てくれるというメリットがあります。最近は通勤途中なのでもスマホで見れるものが好評です。担当の方は、一度検討してみてはいかがでしょうか。
eラーニングによる一斉教育 ~e-ラーニングを使うメリット~
最近では、e-ラーニングを利用したコンプライアンス教育の引き合いが多くなっております。講師を雇うと人件費や会場費もかかりますし、集合研修というシステム自体が、仕事への負荷が高いと言えます。そのため、e-ラーニングを利用したコンプライアンス教育には、時間やコストを削減できるというメリットがあります。
e-ラーニングを使う場合は、Webベースドトレーニングがメインになると思います。読み物の教材はHTMLでWebページとして表示するほか、PDFやWord、PowerPointなどで配布します。社員がちゃんと書類をダウンロードしたかはログでわかりますので、チェックは便利です。
しかし、こうした読み物中心のe-ラーニングは飽きやすく、なかなか続かないのがデメリットでしょう。そういった場合は、映像教材を使うのも効果的です。前項のドラマ仕立てなどのビデオ教材をストリーミングで視聴できるようにすることがe-ラーニングでは簡単にできます。遠隔地など、ビデオDVDの配布コストも節約できます。MP4形式などスマートフォンやタブレットで視聴できるようにすれば、場所を選ばず勉強できるのも大きなメリットです。
さらに、視聴させるだけでなく、ドラマを見た後にテストをすることで、内容が正しく理解できたかがチェックできます。テストの結果を見て、わかりにくくなかったか?内容のアップデートが追いついているか?など、定期的にドラマの内容を調整すると良いでしょう。
遠隔地の支店などでは、e-ラーニングを使ったライブミーティングによるバーチャルな集合研修・ディスカッションなども導入されています。特に社員数が多い企業ではe-ラーニングを使ったコンプライアンス教育は、効率的な方法として、多くの企業が採用しています。
ビジネススクールで学ぶ/コンプライアンス検定を受ける
企業以外で行われているコンプライアンス教育としては、ビジネススクールで行われているセミナーなどがあり、セミナーは定期的に行われています。受講料は大体1万~3万くらいが相場です。
こうしたコンプライアンス教育への関心の高まりを受け、2005年には、ビジネスコンプライアンス検定が設置されました。まだまだ歴史は浅いですが、累計受験者数は1万人を突破していて、近年の事件などの影響もあり、大企業を中心に受験者数は増加傾向にあるようです。企業のコンプライアンス教育や研修の一環として、検定に取り組むという方法も、効果的と言えるでしょう。
評価としてコンプライアンス検定を「資格」として評価してあげれば、社員のやる気もでます。初級と上級では難易度が大きく異なるので、上級を取得した社員には、それなりの評価をし、コンプライアンス体制の向上に貢献できる役回りをお願いするのがいいと思います。
職場での周知・討論/テストの実施 ~認識差を埋める取り組み~
ある程度教育が進んでも、コンプライアンス意識は各人によってまちまちな状態です。新人や中途採用などでも差が出てきます。定期的に社員のコンプライアンス意識をチェックし、意識が足りない社員を見つけて意識を上げるようにしなくてはいけません。鉢に穴が開いていては、いつまでたっても水が溜まらないように、会社のコンプライアンスも、たった一人の意識欠如が大事故につながるのです。
意識の低い社員を見つけるのには、テストが手っ取り早いチェック方法です。問題を解くタイプのテストはどちらかというと、知識レベルのチェックになるので、実務のチェックにはロープレなどを行う必要があります。どちらも、コンプライアンス意識を継続的にキープするために、定期的にやりたいところです。
コンプライアンス教育の実施間隔
コンプライアンスの意識は話題にならなくなると軽視してしまう傾向があるので、基本的には定期的に行うのが望ましいです。現実問題として頻繁に行うのは支障がある場合は、その間隔が大きくなるのはやむを得ないですが、イレギュラーでも、効果的なタイミングで行うことができれば効果は高いです。
効果的なタイミングとは例えば、同業他社の事件などでニュースとして関心がある時や、業界で大きな規制緩和、法律やルール変更などがあり、今後は認識を強める必要がある場合などです。このような場合、社員の関心も高く、教育効果が高いので、ぜひ行うべきです。
長期的な目線でコンプライアンス教育を考える
どんなに良い教育をしても急激には浸透しないものです。社員がしっかりと行動できるまでには、大体5年~10年かかると言われています。それだけ、社内全体に浸透させる事は、難しいと言えるでしょう。
また、社員にもいろいろなタイプがいますから、いろいろなやり方を試してみるのが大切だと思います。忙しい人を無理矢理集合研修に呼ぶのではなく、自分の時間でできるように、e-ラーニングでも同程度の内容が習得できるようにしてあげるなどです。 人事評価に組み込んでも効果があります。
コンプライアンス教育のチェック
行動指針やコンプライアンス・マニュアルなどに示された指針が日常的に守られているかどうかをチェックすることも大切です。 こうしたチェックは一般的には、職場ごとにチェックリストやアンケートを配布して、気がついたことなどを記入してもらうやり方が多いです。こうしたアンケートについては、内容を精査し、相談やモニタリングなどをしてサポートし、記録に残すことが重要です。万が一何かあった場合に、ここをちゃんとやっているかどうかで、組織の対応の評価が変わってきます。
コンプライアンス体制を構築した後、そのシステムが機能しているかどうかを定期的にチェックする必要があります。こうしたモニタリングや監査のポイントとしては、
就業規則や行動指針、問題が起こった際のマニュアルなどがすぐに見れるかどうか?場所を知っているか?
組織として用意した「相談窓口」がきちんと利用されているかどうか、その際に相談者のプライバシーが守られているか?
相談が記録され、保管されているか?
現場スタッフから身近のコンプライアンス委員への報告がスムーズにできるか?
「上司に法令違反の行為を命じられた」といったケースはないか?
相談者への報復行為などを禁じ、それに違反した場合の処罰ができる体制があるか?
などをチェックされます。
こうした相談窓口の健全な機能を維持するために、「外部の弁護士事務所などと提携して相談窓口業務を委託する」、または「専門の通報バイパスサービスと契約して相談窓口とする」などがあります。
最後に
コンプライアンス教育には、多大な時間とコストが必要です。コンプライアンス教育は投資として考え、必要であれば、それなりに費用をかけることを経営者・トップの方には意識していただきたいと思います。コンプライアンス教育を全社で行うことにより、危機管理能力が身に付き、業務管理能力の意識の醸成、実践遂行能力の向上が見込まれます。つまり、事故などのリスク回避の意味だけでなく、自社社員の質の向上、結果として会社ブランドの向上へとつながるのであれば、かかったコストは惜しくはないですよね?
最後までお読みいただきありがとうございました。
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