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グリット(Grit)とは

採用をやっている知人から、「これからの時代、採用時に何を重視すべきか」と言う話をされしました。 その人の会社は、業種の人気も少なく、企業規模も小さいため、優秀な大学からの希望者は少なく、その面での初期スペックについては期待せず、入社後の社員教育による成長を期待し、「伸び」のある人材を採用したいという話でした。 「伸び」のある人材の特徴とは何か?何を重視すれば将来成功できる人材を採用できるのかを相談されたというわけです。


個人的にパッと思い付いたのが、以前TEDのプレゼンテーションで見た「グリット」という言葉でした。「グリット」は才能や努力に続く、第3の「人生における究極の成功因子」として注目されています。


今回はこの「グリット」について、簡単にご説明したいと思います。



目次



グリット(Grit)とは

グリット(Grit)」は、成功者に共通の心理特性として近年注目されている言葉です。 Gritは日本語で「勇気」「闘志」「根性」などの意味があります。形容詞の「Gritless」だと「根性なしの」や「度胸のない」です。人材育成を語る中では、「完遂力」や「達成力」「我慢強さ」という意味で使われ、一番多いのは「やり抜く力」でしょうか。


「やり抜く力」とは、どんなに長い時間がかかっても最後までやり抜く力、つまり「1つの物事に継続して向き合い完遂する能力」のことです。 グリットには「歯を食いしばる」 という意味もあるように、「困難な問題や高い壁にぶつかってしまっても諦めない心」というトラブルやリスクを克服する一種のスキルのようなニュアンスが込められています。


人材育成に限らず、世の中では「人が成功するために必要な要素は何か?」という論議が繰り返されてきました。必要なのは「才能」であるという人、いや「努力」だという説もあり、研究者たちは、著名な成功者がもつ能力の共通項を探ることで、成功に必要な要素を探ろうと試みてきました。そして今「グリット」にたどり着いたのです。




グリットが注目されるようになった背景

グリットの詳細に触れる前にまず、「やりぬく力」であるグリットに大きな注目が寄せられるようになった経緯を少しご説明します。


アメリカ社会では、「IQ(知能指数)」のような数字が、進学や就職において日本以上に重視されてきた背景があります。その背景には、多くの企業が「成果主義」という人事評価を取り、「成功者に対する共通項」を探し求めてきたという、アメリカならではの成功への強い想いがあります。 そして長い間、「才能」と「努力」のどちらがより成功への鍵となるのかという議論が行われてきました。結果として、どちらの因子でも評価することのできない成功者の存在があることから結論には至ってません。 そこに第3の成功因子として提唱されたのが、「やりぬく力」である「グリット」なのです。


グリットは、心理学者でペンシルヴァニア大学教授のアンジェラ・リー・ダックワース(Angela Lee Duckworth)氏の研究により有名になりました。 アンジェラ氏は経営コンサルト(マッキンゼー)から教師に転職し、その後心理学者になったという異色の経歴の持ち主です。研究の中で、「社会的に成功するために最も必要な要素は、才能やIQ(知能指数)や学歴ではなく、やり抜く力である」という「グリット」理論を提唱しました。



アンジェラ氏の研究

研究のきっかけは、アンジェラ氏が教師時代、宿題やテストの採点を行う中でIQの高さと成績の高さが比例しない事に気付いたことから始まります。


当時は知能指数が成績に大きく関わっていると考えるのが児童教育の常識でした。「成績上位の生徒が必ずしもIQが高いわけではないこと」「成績が下位の生徒が必ずしもIQが低いわけではないこと」これらの事実から、できるようになる(=成功する)ことにIQ数値は関係がないという仮説を打ち立てます。 授業で扱う内容は決して難しいものではなく、時間をかければ誰でも習得が可能なレベルだったのにも関わらず、成績が低迷している生徒がいるのはなぜか?そして「時間をかけて物事に取り組む」能力の有無が成績に深く関係しているのではないかと考えるようになったのです。


その後心理学者となったアンジェラ氏は、「各分野における1番の成功者は誰?そしてその理由は?」というテーマで研究を始めます。 様々な分野における成功者達の共通項から成功するために必要なものを探るという手法で、才能や努力に加え、グリットという新しい要素を加えて研究を実施しました。その結果、どの分野においてもグリットがその人の成功に大きな影響を与えていることが明らかとなったのです。


 

“(例)ウエスト・ポイント・ミリタリー・アカデミーでの調査”

“ウエスト・ポイント・ミリタリー・アカデミーは、米国陸軍士官学校の中でも特に厳しいトレーニングで有名。その中で、毎年多くの脱落者が出ることで有名な「ビーストバラック」と呼ばれる初年度の夏季基礎訓練を耐え抜くことができる士官候補生の予測を行った。予測を行うにあたり、下記データを使用した。

 
  1. 士官候補生たちの高校時代の成績

  2. SAT(大学進学適性試験)スコア

  3. PAE(体力テスト)

  4. グリット・スケール(アンジェラ氏独自のグリット測定)

 

その結果、SATやPAEなどで高いスコアを出したにも関わらず中途退学してしまった士官候補生が多くいることが判明する 一方、グリット・スコアの高い士官候補生内からの脱落者は少なく、グリットが高いほど精神力を試される厳しいトレーニングにも耐えられることが判明した。

 

また、民間企業におけるトップセールスマンを対象とした調査では、どのセールスマンが生き残り、トップセールスを記録することができるのかという研究を行い、グリット・スコアと営業成績が比例していたことから、グリットが高いほど営業力やコミュニケーション力が高いことを証明しました。


現在では、グリットが様々な能力に大きな影響を及ぼしているということは多くの研究者が認めています。そしてグリットは、意識することで誰でも高めていくことのできる後天性の性質を持つことから、才能や素質と呼ばれる先天性の要素との関連性が低いと判断されています。


おもしろいことに、これらの研究の過程で「悲観主義者」よりも「楽観主義者」の方がグリット・スケールによる値が高いことも判明しました。楽観的に捉える人は、障害があっても「なんとかなるさ」「他にも方法はある」と考えることができ、成し遂げたいことに向かい続けられるのです。 そこから、グリットが高い人物ほど幸福感が強く、健康面においても良好なことから、グリットはメンタルヘルスや自己管理に対しても少なからず影響を与えていることがわかりました。



自分の持つグリットを測る方法「グリット・スケール」

成功するためには、自分のグリット力を把握し、しっかりと育んでいくことが大切です。自分のグリットの度合いを測定するのに使われるのが「グリット・スケール」です。



グリット・スケール(グリット・テスト)のやり方

グリット・スケールは、アンジェラ氏が開発した独自のグリット測定法です。 10個の質問に答えるだけで、自分の持つグリットを簡易測定できます。 合計点を10で割って出た数値が自分の持つグリットのスコアとなり、その最高値は5となっています。

グリットを持つ人は、ものごとに対する情熱があり、粘り強く取り組みます。そこで、やり抜く力を「情熱」と「粘り強さ」という2つの要素から設問を構成し、奇数の問題の合計点を5で割ることで「情熱」のスコアを、偶数の問題の合計点を5で割ることで「粘り強さ」のスコアが算出できるようになっています。


※情熱を測る質問=奇数の質問(1,3,5,7,9)

※粘り強さを測る質問=偶数の質問(2,4,6,8,10)

引用元:「やり抜く力 Grit(グリット)」アンジェラ・ダックワース(著)/神崎 朗子(翻訳)



グリットの高い人の特徴

前述しましたが「悲観主義者よりも、楽観主義者の方がグリット・スケールによる値が高い」という説明をしました。他にもグリットの高い人に見られる特徴がいくつかあり、これらを伸ばすことによってグリットを上げていくこともできると考えています。



特徴1:成長思考である

グリット・スケールによる値が高い人は「グロース・マインドセット(Growth Mindset)」という成長志向の高いマインドセットを持っています。

マインドセット(mindset)とは、その人が持っている「経験や教育、その時代の空気、生まれ持った性質などから形成されるものの見方や考え方」のことです。

教育心理学者のキャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)氏は、マインドセットをその性質から2種類に細分化し、「フィックスド・マインドセット(fixed mindset)」と「グロース・マインドセット(Growth Mindset)」に分けて説明しています。

フィックスド・マインドセット」は名前の通り、固定的な考え方を指し、「固定思考」と訳されてます。 新たな挑戦を恐れ、挫折しやすく、他人の成功を脅威に感じてしまうなど典型的なマイナス思考であり、これ以上の成長は難しいと自分で決め付け、変化を嫌う傾向が強いです。そのため、現状維持を強く求めてしまうため、才能や能力が衰えることはあっても成長することは期待できません。

反対に、「グロース・マインドセット」は「Growth(成長)」の言葉が示す通り、「成長思考」で変化や課題を喜んで受け入れ、何かを得るための代償であれば障害や努力にも真正面から向き合い、「やればできる」という前向きでしなやかな思考です。 この「やればできる」という自分を信じる気持ちこそが、グリットを育むために重要な要素の1つなのです。



特徴2:仕事に強い好奇心や興味を持つ

仕事で成長する人のインタビューでは、「自分はこの仕事が好きなんです」という声がよく聞かれます。「好きこそ物の上手なれ」ということわざもあるように、興味心は成長速度に大きな影響があります。

「新しい技術情報に興味があり、日々チェックするのが好きだ」とか「競合が成功している秘密が知りたいと思う」「ハイパフォーマーのライバルから学ぶべきことがある」など、業務内容に興味心を沸かせることによって仕事に対する責任感がより一層強まり、モチベーションの向上にも繋がります。



特徴3:謙虚な努力家である

調査の中で多くの成功者は、自らが決めた課題や目標を達成するために努力を惜しまないという共通点を持ち合わせていました。「やり抜く力」とは「継続力」が必須であり、継続力はある日突然身に付くものではありません。マラソン選手がスタミナを付けるように、日々を積み重ねていくことで少しずつ継続力は高まっていき、同時にグリットも育っていくのです。

また、慢心することなく常に目標に向かって努力し続ける向上心を持っている人が多いのも特徴です。対して、IQの高い人は、自分を過信し、努力を怠る傾向になりがちです。才能がある人ほど多くの課題を自力で解決できるため、努力を必要としなくなります。そうなってしまうと、やり抜く力を育てる必要性も低くなり、自力ではどうしようもない状況に陥った際に対処できず、そのまま挫折してしまうケースも多いのです。

グリットは、慢心せずコツコツ続けることができる謙虚な努力家になることで伸びていくのです。



特徴4:社会への貢献意識が高い

アンジェラ氏の研究では、グリット・スコアの高い人ほど自分の活動や仕事に対して使命感を持ち「社会にとって有意義なことをしている」という思考を持っていました。それは社会に対する貢献意識が継続力やモチベーションに影響を与えていることを示しており、何も考えずに目の前の業務や作業をこなすだけの人に比べ、グリットの育成にプラスに働いている証拠です。

日々の仕事が誰かの役に立っていると自覚することは、社会の一員としての自分を再認識する行為でもあり、メンタル面の成長を大きく促すきっかけとなるでしょう。



特徴5:楽観的である

障害や困難というものは世の中の様々な場所に存在し、突如襲い掛かってくるものです。 その障害や困難に立ち向かう力となるのがグリットです。

前項で説明した通り、グリットが高い人は「楽観的」なケースが多く、障害を乗り越えれば必ず良い結果が待っていると希望を持って、失敗を疑わないことで、最後までやる抜くことが可能となるのです。



グリットを伸ばすには

グリットは生まれつきではない、鍛えられる資質であると説明しました。このようにグリットのある人物の特徴を踏まえ、どうすればグリットがはぐくまれるかを考えてみます。



①目標を立てる習慣をつける

目標は、何かを成し遂げるために行動していくことのきっかけをもたらす大切な要素です。目標を設定するということは、その目標に向けて努力を行うきっかけとなり、その努力を継続する確かな理由となります。日々の目標を立て、毎日取り組んでいくことでグリットは鍛えられます

グリットはスタミナ的な性質を持つので、数日で達成できるような短期目標ではなく、数ヶ月や数年という単位で向き合う必要のある戦略的な目標を立てた方がより効果的です。しかし、あまりにも難易度が高すぎると挫折してしまうので、初期は現実的な目標を設定し、日々の達成感を味わいながら、習慣化し、徐々に難しいと思える目標を掲げ、それを細分化して日々の目標に落とし込むようにするといいかと思います。



②常に最適のプロセスを考える習慣をつける

ひとつのやり方に固執する思考だと、それが間違ったやり方だった場合、いつまでたっても達成できません。何かを成し遂げたいとき、それを達成するための方法はひとつではないということを理解し、最良のプロセスを考えるようにします。

続けることは大切ですが、グリットを高めるには達成経験を重ねることもとても重要です。他の方法を探ったり、今の方法をより良くしたりといった視点をもち、方法を切り替えることで達成率が高まります。目標を掲げたときに、達成こに至るまでのプロセスにはいくつもの方策があることを認識させましょう。



③物事を楽観的に捉えるマインドを育てる

グリットの高い人は、楽観主義者に多く、素早く行動に移すためにも「やってみよう」「やってみなければわからない」と思えるマインドセットは必須です

また、障害にあった時に、楽観視できるか、悲観視するかで生まれる心理や行動が変わってきます。楽観視するとは、無理にポジティブに考えることではなく、ニュートラルに保つことを指します。やってもうまくいかないこともあるけれど、やってうまくいくこともある。この「やってみたらうまくいった」という経験(成功体験)の頻度がグリットを支え、同時にグリットを鍛えていきます。



採用でも重視されるグリット

アメリカの企業では、採用時にどの大学を出たか、場合によっては大卒かどうかさえ見ない企業も増えているそうです。クリエイティブでやる気があっても、大学教育が合わない人たちも数多くいることに、企業が気づき始めているのでしょう。


その流れもあってか、グリットを採用の基準として明言する企業が増えています。


Googleは人材採用基準として、「強いグリットを持っているか否か」という点を重要視するとコメントし、FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏は、ビジネスにおける成功の鍵について「信念とグリットを持つこと」と語ってます。


自身の成功体験の根拠としてグリットを上げる人物も多く、バラク・オバマ元大統領はスピーチ内でグリットというフレーズを何度も使用してますし、イチローもインタビューの中で同様のことを言っています。


大きな成果を出した人の多くは、必ずしも才能に恵まれていたわけではないのです。成功するために大切なのは、優れた資質よりも「情熱」と「粘り強さ」、すなわち「グリット(やり抜く力)」なのです。



最後に

成功に至る過程において、才能、努力、グリットの関係についてお話してきましたが、「成功に必要なのは、先天的な才能か、それともたゆまぬ努力なのか?」という命題は昔からありました。


トーマス・エジソンは「天才は1%の才能と99%の努力」といいました。「努力に勝る天才なし」という諺もあります。対して脳科学者など「努力できることもまた才能である」と言う人がいます。


個人的には、努力をすればそれなりに成果が出やすくなると思いますが、スポーツなど生まれつきの才能の存在を否定することはできない分野もあると思います。才能は先天的なものであり、その「差」が生まれることは仕方ないことだと思っています。しかし、才能はある程度は固定値であり、対して努力はやればやる程増える流動値です。 かつては、米国でも日本でも努力(≒グリット)が尊重されていました。やがて天賦の才や優れた容姿、富を持った人が称賛され、努力や忍耐は軽んじられる傾向になりました。そして今、グリットの登場で再び努力の成果が注目されています。


しかし、努力も的が外れていたり、途中であきらめてしまえば成功にはたどりつけません。才能があっても、いくら努力しても、成功につながる結果を生むためにはグリットが必要です。才能であれ、努力であれ、ゴールに到達するまで「やり抜く力」であるグリットがなければ成果はわからないままなのです。


そして、この「グリット(やり抜く力)」は「情熱」と「粘り強さ」という要素でできています。目指す目標に対して、変わらない興味を抱きながら粘り強く取り組む「情熱」と、困難や挫折に負けずに努力を続ける「粘り強さ」が揃っていれば、誰もが目標を成し遂げられるとアンジェラ氏は強調します。


 

“参考:アンジェラ・リー・ダックワース氏のTED講演動画-TED.com (6:09)”



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ちなみにアンジェラ・リー・ダックワース氏は「グリット」の研究によってノーベル賞に匹敵するマッカーサー賞(天才賞)を受賞しました。「才能による成功」を否定した氏ですが、努力賞ではなく、天才賞を受賞するというものちょっと面白いですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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