2018.07.26

インストラクショナルデザインとは

我々がeラーニングの学習教材の制作をする上で、意識している概念として「インストラクショナル・デザイン」があります。

インストラクショナルデザイン(ID:Instructional Design)は、直訳すると「教育設計」ですが、単なるカリキュラム設計ではなく、様々なプロセスやロジックに基づいて、その環境で最適な教育効果をあげる設計方法です。

インストラクショナル・デザインは学校教育の現場だけではなく企業教育の分野でも、研修企画や人材育成プログラムの設計に使われたりします。特に企業における研修の動機付けや、人が知識やスキルを習得するプロセスに則った研修設計方法など、IDを使って行われるのが今やスタンダードになりつつあります。

今回はこの「インストラクショナル・デザイン」について、かなり大まかではありますが、ご説明したいと思います。

インストラクショナルデザインとは

前述のとおり、「ID:Instructional Design」は、「Instructional」が「教育・教えること」、「Design」が「設計」という意味なので、「教育設計」と訳されてます。

定義としては決まった文言はありませんが、「学習者に対してより効果的・効率的で魅力的な学習環境を設計・開発するための、システム的な教授方法・ガイドライン」という感じでしょうか。細かく区切られた学習・教育の単位が「インストラクション」と呼ばれ、それを目標を実現するために効果的にデザインするのがインストラクショナルデザインです。

インストラクショナルデザインでは、「学習理論(心理学)」「コミュニケーション学」「情報学」「メディア技術」などを利用した「インストラクショナルデザインの理論・モデル」に基づいて行われます。

このデザインを行う人を「インストラクショナルデザイナー」といい、学習ニーズを分析し、それに合わせてシステマティックな授業の設計を行います。インストラクショナルデザイナーは、専門職として大学などの教育機関で育成が進められています。

ID

インストラクショナルデザインの歴史

アメリカ軍の訓練

インストラクショナルデザインの考え方は、第二次世界大戦中の軍事訓練から生まれました。
第1次大戦開戦当初中立の立場を取っていたアメリカは、戦争のダメージが少なかった為、兵士の育成システムは旧態依然としたままでした。ところが第二次大戦がはじまると、戦争の規模がさらに大きくなり、軍のダメージも拡大していきます。そのため大勢の兵士や技術者の育成に早急に取り組まざるを得なくなりました。そこで、学習者である兵士の行動やニーズを細かく分析、訓練を効果的に行うための設計が考え出されました。この設計方法は、新兵の練度を短期間で高めるための効率的な教育技法として成功し、戦争が終わってからも生産現場や企業の人材教育などにそのメソッドが持ち込まれていきます。

このように、米国では1980年代から企業研修にインストラクショナルデザインが導入され始めました。

日本では2000年ぐらいから、企業教育の現場でもインストラクショナルデザインが取り入れられ始めます。これは「eラーニング」が人材教育の手段として普及し始め、それに伴い、海外のeラーニングシステムに付随する形でインストラクショナルデザインの概念が普及したようです。

「eラーニング」は学習者の自由度が高い反面、「やる気喚起」や「学習習慣」、そして「行動変容」などの面で、対面式の研修より不安が残ります。そこで、eラーニングで効率的に学習効果を上げるために、早くからインストラクショナルデザインが採用されたのです。

インストラクショナルデザインの設計モデル

従来の研修は、学校の試験と同じように、学習者の「理解度」に目標設定されていました。そのため、教材のわかりやすさや、講師の教授スキルばかりに関心が集中していました。そのため、学習者自身に対する評価や、研修自体の効果測定の基準があいまいで済まされてしまうという状態でした。

そこで、インストラクショナルデザインでは、学習者の「行動変容」を最終的な学習の目標として、効果測定を「学習後に学習者の行動がどのように変わったか」というポイントで評価します。そして、学習後の学習者のゴールイメージを明確にして、そこにたどり着くためのプロセスを分析・研究して設計します。

その推進の際に用いる理論は大きく2つに分けられます。

1つ目は、全体の流れを設計する「IDプロセスモデル」で、有名な「ADDIEモデル」を使われることが多いようです。

ADDIEモデル

ADDIEモデル(ADDIEプロセス)」は5つの基本モデルから形成されます。

1.分析(Analysis)」のフェーズでは、組織が抱える問題や課題を分析し、解決策として研修や教材をどう使えばいいか、またどのような人材を対象者として選べばよいかなどを考えます。

2.設計(Design)」のフェーズでは、まず対象者は何ができず、受講後は何ができるようになっているべきかの具体的なゴールを設定します。そして、それを実現するために業績や成果に結びつく学習目標の設計や、eラーニングや研修参加など「手段」を決めるなど、内容をデザインしていきます。そして、効果の測定法や評価指標などを明確化します。

3.開発(Develop)」フェーズは、教材、ツールの開発、教授プランの作成などです。自分たちで作るのか、業者に委託するのか判断し、開発します。

4.実施(Implement)」フェーズでは、開発した教材を実施し、都度テストや履歴などのデータ収集し、アンケートなどで学習者からのフィードバックをもらいます。

5.評価(Evaluate)」フェーズは実施後の評価のフェーズです。目標通りにできるようになったか、研修全体の方向性チェック、実施してみてわかった問題点の洗い出し、次の実施への解決策提示を行います。これを繰り返しながら、効果の高いインタラクションのシステムをデザインしていきます。

この「ADDIEモデル」については、次のキーワードの回にもう少し詳しくご説明いたします。

ADDIEモデル

「ADDIEモデル」はインストラクショナルデザインのプロセス面のフレームワークですが、詳細な研修の内容や学習方法を具体的に検討する際に使われる「IDモデル」というのもあります。こちらは「ARCSモデル」が有名です。「ARCSモデル」はこのコラムの既出キーワードですので、こちらをご参照ください。

そして、IDモデルの特徴としてモチベーションに対する対策が組み込まれているのもポイントです。つまり、研修中や研修終了後もモチベーションが維持できるような研修を設計しなくてはいけません。学習者のモチベーションを常に喚起する「仕掛け」をデザインを施すことで、学習中のモチベーション維持だけでなく、そのコースが終わってから、さらに「もっと学びたい」という学習意欲を醸成する事も可能となります。

このようにインストラクショナルデザインは、「IDプロセスモデル」と「IDモデル」を用いながら、システマチックに段階を追って研修を設計します。そして、各ステップで研修を実践・評価する事で、より効率的な学びが実現できるのです。

以上がインストラクショナルデザインの特徴です。次は、このインストラクショナルデザインをデザインするキーマン、「インストラクショナル・デザイナー」についてです。

インストラクショナル・デザイナー

インストラクショナル・デザイナー

米国では1980年代からインストラクショナルデザインが企業研修に導入され、大手企業では専属のインストラクショナル・デザイナーを抱え、独自の研修デザインが行われていました。

インストラクショナルデザインでは、「学習目標」「教育内容」「評価方法」を首尾一貫したものとして計画し、成果の見える学習環境をデザインする必要があります。インストラクショナルデザインの理論・モデルを駆使して、学習環境の分析・評価・設計・開発などを行う専門職を「インストラクショナル・デザイナー(IDer)」と呼びます。

インストラクショナルデザインの概念を生み出したアメリカでは、 インストラクショナル・デザイナーが専門職としてしっかりした地位が確立されています。大学や大学院の教育分野を専攻することでインストラクショナルデザインを学ぶことができます。また、IDerの資格認定制度も存在します。教育機関だけでなく、企業のコンサルや企業内の教育担当者もこの資格を取得して、企業教育のインストラクショナルデザインに従事するようになりました。

日本においても、2005年に青山学院大学のeラーニング人材育成研究センター(eLPCO)で専門職養成課程を設置されました。
2006年には、熊本大学大学院に「教授システム学専攻」という専門課程が設置され、フロリダ州立大学でインストラクショナルデザインを研究した鈴木克明教授によるインストラクショナルデザインの理論・モデルを適用したeラーニング設計・開発専門家の養成が行われています。

★青山学院大学 eラーニング人材育成研究センター(eLPCO)
https://www.aoyama.ac.jp/research/effort/education_reform/backward/e-learning.html

★熊本大学大学院 教授システム学専攻
https://www.kumamoto-u.ac.jp/kyouiku/curriculum/syabunken/kyoujyusisutemugaku

最後に

インストラクショナルデザインは、頭で理解したかどうかではなく、行動できるかどうかを目標にしていると説明しました。
「知る」「理解する」といった「頭で理解したかどうか」より、「行動できるかどうか」という目標が良い点は、「具体的に○○することができる」といった評価者が見て観察可能な評価方法であるという点です。目標を「理解」ではなく「行動」に設定することで、確実にスキルを評価できます。

また、デザイン時にプロセスの中にあらかじめ分析方法を決めて、それに必要なデータを取るので、次にIDをする際により精度の高い改良が可能になります。こうしたサイクルを繰り返して、より効果的な研修・学習システムを作り上げることができます。

これらインストラクショナルデザインの特徴は、eラーニングを使った企業教育、特に研修とミックスしたブレンデッド・ラーニングにマッチしています。

企業戦略を着実に遂行するには適切な能力を持った人材が必要です。インストラクショナルデザインを活用し、最適にデザインされた研修・学習システムを作成していくことで、将来の業績や成果に結びつく学習の効果と効率を最大限に伸ばすことができるのです。

次回は今回触れた「IDプロセスモデル」で有名な「ADDIEモデル」についてもう少し詳しくご説明する予定です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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