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モチベーション3.0とは(Part2)

前回は、人間を動かす「やる気の素(DRIVE)」をコンピューターのOSに例え、より高次な段階に入った現在では、管理や強制といったマネジメントベースのOSは機能不全に陥りつつあり、個人の自主性を尊重するOSにバージョンアップが不可欠と説明されていました。


また、過去のOSであるモチベーション2.0と、その動機づけの方法である「アメとムチ」による「外発的動機づけ」が、実験の結果、本来の意図とは反対の影響を生み出すことについて説明しました。


今回はモチベーション3.0についての説明が中心になります。


アメとムチのような外発的動機ではなく、「自律性」「成長性(マスタリー、熟達)」「目的」の3つ、内発的動機付けで行動するのがモチベーション3.0ということを詳しく説明します。



目次



「タイプ I」と「タイプX」の補足

モチベーション3.0の説明の前に、前回少し説明した「タイプ I」と「タイプX」について、もう少し説明させていただきたいと思います。


タイプX(extrinsic)の人の行動は、内発的な欲求よりも、外発的な欲求をエネルギー源とする行動で、活動によって生まれる満足感よりも、その活動によって得られる外的な報酬と結びついています。モチベーション2.0は、タイプX の行動パターンを前提として発展してきました。


タイプI (intrinsic)の人の行動は、外発的動機づけではなく、内発的動機づけを中心にした考え方と人生に対するアプローチをします。自分の人生を自ら監督したい、新しいことを学び創造したい、世界に貢献したいという人間に本来備わる欲求が力の源になっています。活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろ活動そのものから生じる満足感と結びついています。したがって、モチベーション3.0は、タイプIの行動パターンを前提にしています。


もちろん人はどちらかにはっきり分かれるものではないので、タイプ別の行動パターンは、固定的な特徴ではなく、状況や経験、背景から現れる傾向と見ます。しかし、あなたの組織が、過去10年の実績に満足していなかったり、2.0的マネジメントが「どうも違う」と考えるのであれば、社員にタイプXからタイプIの行動に移行することを考えるべきでしょう。


そこで、タイプXの人材をタイプIにすることは可能かという疑問ですが、それは可能だと言われています。


なぜなら、タイプIの特徴は生まれながらに備わっているのではなく、後天的に作ることができるからです。タイプIの行動は、人間の普遍的な要求から生じる部分があるので、基本的な特徴を学び、実践を繰り返すことによって、実力もモチベーションも格段に向上します。タイプXからタイプIに変化することも可能なのです。


タイプIは長期的には、ほとんどの場合タイプXをしのぐ成果を上げると言われています。内発的に動機づけられた人は、報酬を求めて行動する人よりも目的を達することが多いと調査結果に出ています。ただし、短期的には必ずしもそうではありません。 しかし、外的な報酬を求める行動パターンは結局は「長続きしない」のです。さらにマスタリーの面でも役立ちません。「マスタリー(熟達)」とは長期にわたって成果を生み出す力の源です。内発的な動機、つまり「自分の人生をコントロールしたい」、「世界を知りたい」、「試練に耐えることを成し遂げたい」という、自らの内側から湧き上がる欲求を満たすために猛烈に取り組むから、困難を乗り切れるからです。


誤解して欲しくないのですが、タイプIが金銭や他社からの評価を軽視しているというわけではありません。タイプXもIも、基本的な報酬ラインに満たなければ、モチベーションは著しく低下するのは一緒です。ところが、基本レベルに達していれば、タイプIは金銭をフィードバックの1つとして喜びますが、決してタイプXのような行動の動機づけではなく、それ自体が目的でもないということです。


 

基本的な報酬ライン

給与、給付金などを含め、基本報酬ラインが不適切だったり、公平でなかったりすると、非雇用者は自分の置かれた状況の不公平さや不安にばかり気を取られるので、意欲の喚起が極めて難しくなります。

しかし、一度この基本的な報酬ラインが満たされてくると、アメとムチは意図した目的と反対の効果を生み出す場合が多く、これがモチベーション2.0のバグなのです

 

ダニエル・ピンクは、「タイプXの行動は石炭で、タイプIの行動は太陽だといえる」と表現しています。石炭は安く簡単に入手できる効率的な資源ですが、欠点が2つあります。 1つは大気汚染など環境への悪影響、もう1つは埋蔵量に限りがあり、少なくなれば値段が上がるということです。タイプXの行動はこれと同じで、報酬と罰は思わぬ悪影響を生み出し、交換条件付きの報酬による動機づけは間違いなく徐々に高くつくようなります。 対して、タイプIの行動は内発的に動機づけに基づいて行われるので、容易に補充できて無害、安価、安全で無限に再生できます。


タイプI型の自律性や内発的動機づけを重視する人は、外発的に動機づけられた人よりも自尊心が高く、良好な人間関係を築き、総じて大きな幸福感をいだいています。 一方タイプXは、金銭や名声・美などが欲求の中心になり、比較して心的健康状態が良好ではないようです。これはタイプIの行動が、根本的に「自律性」「マスタリー」「目的」という三つの要素をよりどころとしてるので、自らの意思で行動を決めたり、熟達に打ち込んだりするので、幸福感を抱けるからだと言われています。


このようなタイプIを伸ばして、自律性・成長性・目的性を伴う「モチベーション3.0」を実現するには、どういったことに気を配るべきなのでしょうか。 1つ1つ見ていきたいと思います。



1.モチベーション3.0 3つの要素「自律性(オートノミー)」

「自律性(オートノミー)」とは、「自ら方向を決定したいという欲求」です。 対して組織では、マネジメントの概念があります。マネジメントの中心となるものは、以前として「コントロール」で、主な手段は相変わらず外発的動機づけです。つまり、現在の先進国経済で主となる非ルーチンの右脳的能力が必要な環境とズレが生じています。


さらに、このマネージメントは人間の本性と一致していません。なぜなら、マネジメントは前提として「人は報酬や罰がなければ働かないし、都度指示しなければ間違ったことをする可能性がある」という仮定の下に成り立つからです。 しかし、その姿は人のデフォルトではないはずです。人は誕生してから、受動的で自力で行動できないようにプログラミングされているわけではなく、人の基本的な性質は、好奇心に満ちて自発的であるはずです。もしそうでない人がいるのであれば、それは本質のせいではなく、何かが原因で後天的に設定が変わっただけです。そうなってしまったのは、学校や職場のマネジメントのせいかもしれません。そうした「他人を管理する」という状況に屈せず、自主決定性という人間に備わった生来の能力が、3.0とタイプIの行動の中心となっています。


この「自律性(オートノミー)」の事例として、いくつかご紹介します。



事例① メディウス社、ジェフ・ガンサーCEOの自律性を重視する試み “ROWE(ロウ)”



メディウス社は、病院の情報システム統合のためのソフト&ハードウェアを開発する会社です。CEOのジェフ・ガンサーはその会社に「ROWE」※という就業ルールを取り入れました。


「ROWE(Results Only Work Environment」とは、米家電量販店大手ベスト・バイの人事部門で役員を務めていた、カーリー・レスラーとジョディ・トンプソンによって考えられた就業ルールです。「完全結果指向の職場環境」とでも言いましょうか。 従業員には出勤時間など時間的スケジュールはありません。好きな時間に出社でき、完全に自由に自分の時間の使い方を選べるのです。極端なことを言えば、会社に行かなくてもいいのです。ただ仕事をしっかり成し遂げればいいのです。どのように仕事をするかは、社員の自主性に完全に任せるというシステムです。


「どのようにやろうと、いつやろうと、どこでやろうと自由」


結果は、ほとんどの場合生産性は上がり、社員満足度が上がり、離職率が下がって雇用期間も長くなったそうです。

話をメディウス社に戻します。


ガンサーCEOは、当初90日間を試行期間としてROWEを導入しました。当初はみんな慣れず、9時には社員の大半が今まで通り出勤し、夕方に退社していました。しかし、それから数週間もすると、ほとんどの者が自分なりのやり方を見つけるようになっていたそうです。ROWE導入後は、生産性は向上し、ストレスが軽減されました。どうしてもなじめずに辞めた人は二人だったそうです(当時全部で22人の会社です)。


ジェフ・ガンサーはこう言っています、「マネジメントとは、オフィスを歩き回って、社員の出社や仕事しているかのチェックをすることではない。社員が最高の仕事をできる状況を作り出すことが、マネジメントの本質である」と。


ROWEの導入で効率が上がった理由の1つは、仕事そのものに集中できるようになった点でしょう。 例えば、娘のサッカーの試合の応援のために午後3時に職場を離れても、周りの同僚に後ろめたくならず、その分仕事に集中できます。

自由ばかりが目立ちますが、達成すべき目標はもちろんあり、これをクリアするのが条件です。ただガンサーは、こうした目標を報酬と結びつけないことに決めていました。「それではとにかくお金が重要で、仕事は二の次という風土を生み出してしまう」からです。 金銭は「発端となる動機づけ」に過ぎず、基本的な報酬ラインを満たしていれば、金銭は業績やモチベーションにそれほど影響を与えないのです。たとえ他社から良いお金で誘われても、ROWEの環境下で、自分の好きなように仕事をする自由のほうが、昇給より価値があり、得がたいものだとみなしている人が多いからです。何よりも、社員のパートナーや家族がROWEを何よりも喜ぶとガンサーは言っています。

また、「私と同じ世代の若い経営者が増えれば、多くの企業がこの方法を取り入れると思う。父の世代は、人を資源と見ている。つまり、従業員は家を建築するときに必要なtwo-by-four(一律の規格材)なのだ。私にとっては、人はパートナーであって経営資源ではない」と。 パートナーなら、誰も皆自律的に人生を管理する必要があるのです。



事例② アトラシアンの「EedexDay」



アトラシアン (Atlassian)は、オーストラリアのシドニーに本社を置く企業で、法人向けソフトウェアを開発している会社です。


エンジニア達がモチベーションを持って新しいことにチャレンジできるように、1年に何回かこう言います。


「今から24時間何をやってもいい。普段の仕事の一部でさえなければ何でもいい。何でも好きなことをやれ」


この通常勤務と無関係でかまわないので、「何かを解決したい問題があれば、一日中自発的に取り組んでも良い」という特別な日「Eedex Days」を設けました。


その日各社員は自分のアイディアを実現するために熱中し、夜が明けて朝の4時になると、ビールとケーキが用意された全員参加のミーティングで、その成果を披露するのです。 お察しのとおり、「Eedex Days」の意味は「翌日に持ってくる」からきているのですね。


その結果ですが、その日にはたくさんの新製品のアイデアが生まれ、既存のプロダクトの新機能や改修、不具合の解消などが効率的にできたそうです。しかも、普段は見つからないような欠陥が数多く修正される傾向にあったそうです。これこそモチベーション3.0の効果と言えると思います。


社長のマイク・キャノンブルックスは、「お金はいくらかかっても惜しくない。十分な給与を払わなければ、社員は会社から離れていきます。しかし、それにもまして金銭は人に意欲を与える要因ではないのです。お金よりも重要なのは、クリエイティブな人を引きつける仕組みなのです。」と言っています。



事例③「20%ルール」の先駆け アメリカのスリーエム社

1930年から40年代にかけて、スリーエム社の社長兼会長だったウィリアム・マックナイトは、「優秀な人を雇ったら、後は好きにさせること」と自律性を重視していました。


「我々が権限と責任を委ねる人たちが優秀なら、彼らは自分のやり方で仕事をしたいと望むだろう」として、勤務時間の15%を自由に新しいことについて当てても良いとしました。 このことは、モチベーション2.0の道徳観と相反し、一見違法行為だとさえ思われたので、社内では「密造酒作り」と言われたそうです。しかし、結果これが正規のイノベーション「ポストイット」を生むことになります。同社の発明した主力商品の大半は、この15%の時間から生まれています。



事例④ Googleの「20 Percent Time」

スリーエム社の事例だけでなく、Googleの「勤務時間の20%を自分のやりたいプロジェクトに当てていい」という制度は有名なので、ご存知の方も多いかもしれません。


この制度では、時間、タスク、チーム、使う技術などすごく大きな裁量が認められています。そしてこの20%の時間から、新製品の半分近くが生み出されたのです。我々が使っているGmail、Google Map、Slackなどのメジャーなプロダクトもモチベーション3.0の効果の結果として世に送り出されてます。


では、自律性はどのように伸ばせばよいのでしょうか? ダニエル・ピンク氏はザッポスの例を出して説明しています。



事例⑤ザッポスの「モチベーション3.0のスタイルに合わない人を排除する方法」

コールセンターでは、離職率100%なんてところもあようですが、Amazonに買収されたザッポスはちょっと違いました。 新卒は、まず会社を知るための研修を一週間受けます。この研修終了後に、CEOのトニー・シェイは彼らにある提案をすのです。


「ザッポスが自分に合わないと感じ、入社を思いとどまりたい(退社したい)と考えている人には、200ドルを支払います」


「交換条件付き」報酬を利用して、フィルターを掛けることで、ザッポスが信じるモチベーション3.0のスタイルに合わない人を早期に排除することができます。


また、ザッポスではカスタマーサービスをモニタリングして監視するようなことはなく、担当者は各自のやり方で対応させます。これも「自律性(オートノミー)」を大切にしているからです。 自律性で言えば、オフィスでなく、ホームで電話の応対をする「ホームショアリング」という仕事の仕方も認めています。子育て中であったり、学生であったり、身体にハンデのある人でも働くことができ、快適な家での仕事はモチベーション3.0的効果を発揮できるといいます。


こうした自律性を信じて任せるのは心配だという経営者もいるかもしれません。


モチベーション2.0では、自由を与えてしまうと人間は怠けるものだ。だから、自律的にやらせれば責任回避をしてしまうと考えました。 しかし、モチベーション3.0では、「人は本来責任を果たすことを望んでいる」と考えます。つまり、課題も含め、働き方、やり方などを確実に任せることが、効率よく目的に達する早道であると考えるのです。


ザッポスのトニー・シェイCEOはこう言ってます。


「人の幸福にとって、認知制御は重要な要素であると、複数の研究から明らかにされています。しかし、ひとが何をコントロールしたいと感じるのかは、本当に人それぞれです。ですから、自律の中で一番重要な側面は、誰にとっても同じではないということです。 人によって異なる欲求があるので、雇用主にとって最も有効な戦略は、従業員一人ひとりにとって何が大切なのかを理解することなのではないでしょうか。」


人はそれぞれ大切なポイントが違い、自由を使って成し遂げたいと思っているはず。それを尊重して働いてもらうのがベストという考えはモチベーション3.0の根幹にあたる思想でもあります。


ザッポスの離職は極めて低く、設立間もないにもかかわらず、CSに優れた会社だと評価されています。具体的にはキャデラック、BMW、アップルなどより上位で、ジャガーやリッツカールトンと同じ順位になっているそうです。


いくつか事例を見ていただきましたが、どれも従業員を尊重し、理想的な成果を出しているように見えます。はたして、自律的な就業ルールを作っただけで、ここまでかわるものでしょうか?


私たちは、誰もが自律的に仕事したいと思いますが、責任を持たなくてはいけません。繰り返しになりますが、モチベーション2.0では、自由を与えれば人間は怠ける、だから、自律的にやらせれば責任回避するという仮説を設定していました。

モチベーション3.0では、それと異なり、人は本来責任を果たすことを望んでいると仮定しています。つまり、課題や時間、方法、チームを確実に任せれば目的に至る仕事をするはずだということです。


確かに、いままでモチベーション2.0環境下で働いていた人を、いきなり3.0のROWE環境で働かせてもすぐには慣れないでしょう。だから、企業は、移行のステップを欠く従業員が見つけられるように、「足場」を組む必要があります。 そして、人によって「何を自律的にやりたいか」という重んじる面は異なります。あるものは課題設定についての自律を願い、あるものはチーム編成に対する自律を望むかもしれません。


ザッポスのシェイが言うように、「人が何をコントロールしたいと感じるかは、本当に人それぞれ。人によってそれぞれ異なる欲求があるので、雇用主にとって最も有効な戦略は、従業員一人一人にとって何が大切なのかを理解することではないか」ということは大切だと思います。 「私たちはゲームのコマではなく、プレーヤーになるために生まれてきた。本来は自律的な個人であって、機械仕掛けの人形ではない。私たちは生来、タイプIなのだ。ところが管理という外部の圧力によって、タイプXにと変えようとする。」とダニエル・ピンクは言っています。そして、リチャード・ライアンのこの言葉を最後に紹介しています。


「人間の歴史の流れはこれまで、大きな自由を手に入れる方向へと進んできた。それには理由がある。自由の切望は人間の性分だからだ」



2.モチベーション3.0 3つの要素「成長性(マスタリー、熟達)」

前項の「自律(オートノミー)」の反対は「統制(コントロール)」でした。行動という羅針盤において、この2つは対極に位置しており、両者は異なる目的地を指し示します。つまり、コントロールは「従順」へと、自律は「関与(エンゲージメント)・絆」へと導きます。この相違からタイプIの行動の2番目の要素である「マスタリー(熟達)」の概念が出てきます。


「成長性(マスタリー、熟達)」とは、何か価値あることを上達させたいという欲求により発生するモチベーションを意味しています。 現代の職場で最も顕著な特徴は、社員の「エンゲージメントの欠如」と「マスタリーへの無関心である」と言われています。例えば、アメリカの世論調査及びコンサルティングを行うギャラップ社の調査では、アメリカでは、従業員の50%以上が仕事にエンゲージしておらず、約20%が意識的にエンゲージしていないという調査結果が発表されています。これは年間3000億ドル(30兆円)の生産性の喪失に相当(ポルトガル、シンガポール、イスラエルのGDPよりも大きい)するそうです。


ここで、ダニエル・ピンクの考えに大きな影響を与えている、ハンガリー出身のアメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイの「自己目的的経験」と「フロー」についてご紹介します。


 

ミハイ・チクセントミハイの「自己目的的経験」と「フロー」

子供の時、ナチスの残虐行為と、ソビエトによる祖国支配を目の当たりにしたチクセントミハイは、運命に甘んじることに嫌気がさし、積極的に関与する生き方を模索しました。高校を中退し、西ヨーロッパは放浪する中で、スイスでカール・ユングの講義を聞いて心理学に目覚めます。その後アメリカにわたり、高校卒業資格を取得、イリノイ大学シカゴ校に入学、博士号を取得し、本格的に心理学の研究を始めました。 しかしチクセントミハイは、心理学の主流には乗らず、人生に対するポジティブで、革新的、創造的アプローチを探求します。クリエイティビティについて研究するうちに、遊びについて研究し、人は遊びの中で、「自己目的的経験(autotelic)」という心理状態になっていることを発見しました。autoは「自己」、telicのギリシア語telosは「目標や目的」を表す言葉です。 自己目的的経験では、目標は自己充足的、つまりその活動自体が報酬にあたります。 例えば、画家が制作に夢中になるあまり、トランス状態になり、あっという間に時間が過ぎて、自意識も消え去るような状態です。ミハイは他にもさまざまな職業にインタビューし、活動を自己目的的にしているものが何かという本質と突き止めようとししましたが、人の言葉からは中々わかりませんでした。 そこで「経験抽出法」を考え出します。これは1日に8回、無作為の感覚でポケベルを鳴らし、被験者がその時に何をしていたか、誰とどこにいたか、どんな精神状態かを記録してもらうというものでした。 チクセントミハイは、この記録から、この被験者たちの最高の瞬間「autorelic」を「フロー(flow)」と名付けました。フローの状態では、山頂へ到達することや粘土で思うように造形するなど、目標がはっきりしていて、そのフィードバックはすぐに返ってきます。もっとも重要なのは、フローにおいては、やらなくてはならないことと、できる事の相関性がぴったりと一致する点です。課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも1,2段高く、努力という行為がなければとても到達できないレベルのことをほぼ無意識にやっている状態です。これが心身を成長させ、このバランスが、そのほかの月並みな体験とは全く異なるレベルの集中と満足感を生み出すとミハイは説明しています。

 

子供の時、ナチスの残虐行為と、ソビエトによる祖国支配を目の当たりにしたチクセントミハイは、運命に甘んじることに嫌気がさし、積極的に関与する生き方を模索しました。高校を中退し、西ヨーロッパは放浪する中で、スイスでカール・ユングの講義を聞いて心理学に目覚めます。その後アメリカにわたり、高校卒業資格を取得、イリノイ大学シカゴ校に入学、博士号を取得し、本格的に心理学の研究を始めました。


しかしチクセントミハイは、心理学の主流には乗らず、人生に対するポジティブで、革新的、創造的アプローチを探求します。クリエイティビティについて研究するうちに、遊びについて研究し、人は遊びの中で、「自己目的的経験(autotelic)」という心理状態になっていることを発見しました。autoは「自己」、telicのギリシア語telosは「目標や目的」を表す言葉です。


自己目的的経験では、目標は自己充足的、つまりその活動自体が報酬にあたります。 例えば、画家が制作に夢中になるあまり、トランス状態になり、あっという間に時間が過ぎて、自意識も消え去るような状態です。ミハイは他にもさまざまな職業にインタビューし、活動を自己目的的にしているものが何かという本質と突き止めようとししましたが、人の言葉からは中々わかりませんでした。 そこで「経験抽出法」を考え出します。これは1日に8回、無作為の感覚でポケベルを鳴らし、被験者がその時に何をしていたか、誰とどこにいたか、どんな精神状態かを記録してもらうというものでした。


チクセントミハイは、この記録から、この被験者たちの最高の瞬間「autorelic」を「フロー(flow)」と名付けました。フローの状態では、山頂へ到達することや粘土で思うように造形するなど、目標がはっきりしていて、そのフィードバックはすぐに返ってきます。もっとも重要なのは、フローにおいては、やらなくてはならないことと、できる事の相関性がぴったりと一致する点です。課題は簡単すぎず、難しすぎない。しかし現在の能力よりも1,2段高く、努力という行為がなければとても到達できないレベルのことをほぼ無意識にやっている状態です。これが心身を成長させ、このバランスが、そのほかの月並みな体験とは全く異なるレベルの集中と満足感を生み出すとミハイは説明しています。


この「フローの状態」では、その瞬間を極めて深く生きており、完全に思いのままになると感じ、時間や場所、自分自身でさえ存在を忘れるような感覚を抱きます。当然、フロー体験では人は自律的ですが、それすら感じさせないくらい没頭しています。 おそらくこのフローの精神状態こそが、チクセントミハイが求めていたものです。生きている証拠としてフローの状態に達すること、つまりマスタリーを達成するために集中している状態を得る事なのです。 このフローの状態は、ゴルフの石川遼選手が2010年の中日クラウンズで世界最小スコアを叩き出したときに、プレイ中の心理状態を「ゾーンに入ってる」と表現したことを思い出させます。


フローを考慮した環境の創造が、職場の生産性と満足度を上げるという事実は、マイクロソフトやトヨタ、パタゴニアなどの多数の企業が気付いています。アメリカの科学者やエンジニア1000人に行った「フロー体験」調査では、知的挑戦への欲求、つまり、何か新たなことや興味を引かれることをマスターしたいという衝動が、生産性向上を予測する上で、もっとも的確な判断材料だとわかりました。例えそれぞれが費やした労力を考慮に入れたとしても、内発的な欲求に動機づけれた科学者は、金銭が動機の科学者と比べて、驚くほど多くの特許を出願しているそうです。


フローの効果については面白い事例があります


 

ゲームデザイナー、ジェノヴァ・チェンのフローゲーム

“2006年にチクセントミハイの理論に基づいた論文で美術学博士号(MFA)を取得したゲームデザイナー、ジェノヴァ・チェンは、「ビデオゲームは本質的に、典型的なフロー体験をもたらす。だが、一方でそれが行き過ぎているゲームが多い」と懸念しました。 そこで、たまにゲームを楽しむ人のために、フローの感動をもたらすゲーム「フロー(Flow)」を作ろうとします。ゲームの内容はシンプルです。プレーヤーがマウスを使って、現実離れした海を背景に、アメーバのような生物をゴールへ導くゲームです。ゲームのテーマは、次第に難しくなるレベルをクリアしていくことですが、失敗してもゲームオーバーはなく、単に自分の能力に適したレベルへと移るだけです。 話だけ聞くと、いかにも飽きそうに聞こえるゲームですが、これが爆発的に売れ、無料のオンライン版だけで300万ダウンロードされ、有料版はプレステで35万ダウンロードされ、多くの賞を受賞しました。 その後、チェンはフロー理論とゲームのフローを中心としたザットゲームカンパニーを企業し、ソニーなどからゲーム作成の契約を取り付け、大成功しました。”

 

フロー体験はマスタリーに必要不可欠です。しかし、フローがマスタリーを保証するわけではありません。これはこの2つの概念が、影響を与える時間のスパンが異なるからです。フローは一瞬の間に起こり、マスタリーは何カ月、何年もかかって築き上げられるものだからです。


ではマスタリーを目指すために、組織や実生活では何をすれば良いのでしょうか?


スタンフォード大学の心理学教授キャロル・ドゥエックは、マスタリーのために、3つの法則にまとめました。ドゥエックは、子供とヤングアダルトのモチベーションと熟達について研究する行動科学の分野の第1人者です。


 

マスタリーの3つの法則

  1. マスタリーはマインドセット次第である

  2. マスタリーは苦痛でもある

  3. マスタリーは漸近線

 

1. マスタリーはマインドセット次第である

ドゥエックは「人の信念が熟達の内容を決定づける」とし、自分自身と自分の能力に対して抱く私たちの信念(自己理論)が、自らの経験に対する解釈を定め、熟達の限界をも定めてしまう可能性があることを指摘しています。


人には「固定知能感」の人と「拡張知能感」の人がいます。


「固定知能感」とは、「知能は存在する分しかない」と考える人です。もともと限られた量しか備わってないので、増やすことができない、つまり知能を身長のように考えてます。知能が定められた量しかないので、教育や仕事の経験はすべて、自分の知能がどのくらいあるかという測定手段というわけです。こういう人は努力ではなく、容易な正攻法を探ろうとする傾向にあり、困難に直面すると「お手上げ」状態になります。したがって、容易に達成できそうな目標を選ぶようになります。


「拡張知能感」とは、「知能は人により多少の差異はあるが、最終的には努力によって伸ばすことができる」と考える人です。知能を体力のように努力で増やせると考えてますので、教育や仕事上の経験は成長する機会となり、努力を向上の手段とみなして肯定的です。困難に直面すると「さらに熟達」するとポジティブにとらえます。


「固定知能感」の人はタイプXに見られ、「拡張知能感」はタイプIに見れれます。


この2つの説は全く違う道に通じています。「拡張知能感」はマスタリーに通じているますが、「固定知能感」は通じていません。


ここからマスタリーの第1の法則が生まれました。 つまり「マスタリーはマインドセット(心の持ち方次第)である」ということです。


具体的に言えば、「タイプ X」は自分には才能がないと諦めを勝手につけて、学習目標よりも達成目標※を好み、努力をしなくてはいけないのは自分が弱点を持っている証拠として、努力そのものを見下しがちです。 逆に「タイプ I」は、達成目標よりも学習目標を重んじ、人生にとって大切と思われる能力を向上させるためには努力をいとわない傾向にあります。したがって、成長性(マスタリー、熟達)には「タイプ I」が向いていると結論付けます。


※達成目標と学習目標の違い 例えば、達成目標は「フランス語でAを取る」ということで、学習目標は「フランス語を話せるようになる」ということ。つまり、達成目標ではマスタリーには至らない。



2. マスタリーは苦痛でもある

アメリカ陸軍士官学校で行われる「地獄の兵舎」と呼ばれる7週間の基礎訓練では、20人から1人は脱落します。この理由を解明しようとした実験です。 調査の結果、訓練をやり遂げるかどうか予測するもっとも的確な判断材料は、認識力とも身体的特性とも関係ない、「根性」という評価でした。これは言い換えて「長期目標を達成するための忍耐力と情熱」と定義されています。


地獄の兵舎の例が示す通り、「マスタリーは苦痛でもある」と言うのは、修練の辛さを乗り越えられるマインドが必要と言うことです。


熟達するためには一生懸命やっても見える成果は少しづつで、その数少ないフロー体験に励まされて少しづつ前進します。そして少しだけ高くなった新しいプラトー(一時的な停滞の状態)でもめげずに、再び根気よく励むという経験を繰り返さなければいけません。逆に言えば、その経験を繰り返せないとマスタリーの状態にはならないのです



3. マスタリーは漸近線

漸近線(ぜんきんせん)とは、曲線が近づいても決して完全に接することのない直線のことです。

「マスタリーは漸近線(ぜんきんせん)」と言うのは、マスタリーの完全な実現は不可能ということです。したがって欲求不満を引き起こします。なぜ、完全に到達できないものに求めるのか。それは、喜びは実現することよりも追求することにあるからです。

マスタリーはどうしても得られないからこそ、達人にとっては魅力的なのです。




最後に

またまた少し長くなってしまったので、続きは次回に回したいと思います。 次回は、モチベーション3.0の「3つの要素」の最後の一つ「目的」についてご説明します。


最後までお読みいただきありがとうございました。



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