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ワーク・ライフ・インテグレーションとは

前回、「ワーク・ライフ・バランス」の意味についてご説明しました。今回は関連するキーワードで、「ワーク・ライフ・バランス」と少し違った切り口で提唱されている、「ワーク・ライフ・インテグレーション」についてご説明させていただきます。


「ワーク・ライフ・バランス」では、「仕事(ワーク)」と「人生(ライフ)」はトレードオフの関係でとらえられてました。つまり、相反するものだからこそ、双方の「バランスをとる」必要があるという考え方です。つまり、単なる労働時間削減ではなく、人それぞれの人生のイベントの際に仕事と生活のバランスを取る、例えば、出産時や子供がいる生活では、子供との時間を大事にし、子供の手がかからなくなれば、仕事における責任の度合いを増やして仕事を重んじるといった感じです。 そのために、休暇や時短などの配慮をするといった取り組みが必要でした。


今回の「ワーク・ライフ・インテグレーション」は、個人の意識において大きな変化を必要とし、仕事と人生(私生活)とを統合させて考えていくという思想です。




目次



ワーク・ライフ・インテグレーション(Work Life Integration)とは

「ワーク・ライフ・インテグレーション」は、Work(仕事)、Life(生活)、Integration(統合)、つまり、「仕事と生活の統合」という言葉です。

「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」を一歩進めた発想で考えようというもので、ワークライフバランスの「仕事と生活のバランスをとる」という考えから「仕事も生活も人生の一部」であると発展させた考え方です。


2008年に経済同友会が発表した提言書『21世紀の新しい働き方―「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して』では、ワーク・ライフ・バランスの運用の難しさを指摘しています。


「バランス論の限界は、職場復帰後に現われる。現在の就社的な制度や慣行では、職場に復帰しても居場所が見つからず、心ならずも退社し、結局はパートとして仕事を見つけてゆかざるを得なくなるのが大勢であり、量的なバランスを変えるだけでは完全な解にはならない」とワーク・ライフ・バランスの限界が説明されています。


なぜバランスをとるだけでは不十分だったのでしょうか? 具体的な例の前に、まず「ワーク・ライフ・インテグレーション」と「ワーク・ライフ・バランス」との発想の違いからご説明します。



「ワーク・ライフ・インテグレーション」と「ワーク・ライフ・バランス」の違い

「ワーク・ライフ・バランス」という用語の一般的なイメージは、仕事にかかりっきりの生活改め、家族との生活の時間を作る、つまり残業をなくし、その分プライベートな時間を取り戻そうというイメージです。

いわば、仕事と生活を「対立的」にとらえて、「その量的バランスの調整・回復を目指す」というものでした。仕事と生活を両輪にたとえれば、双方がうまくバランスを取っていればいいのですが、どちらか片方に偏りすぎた場合は、もう片方が犠牲になってしまう不安定な構図です。先の経済同友会の提言書にもある通り、現実的にバランスをとることは非常に難しいという実情がありました。



そこで、そもそも仕事と生活、社会生活と私生活、職場と家庭は本当に「二者択一」なのか、区別したり、優先順位をつけたりすべきものなのかという疑問を投げかけた人がいます。 慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の高橋俊介教授は、ワークとライフの“統合”(インテグレーション)をいちはやく唱えたキャリア論の権威的人物です。教授は「家庭と仕事を分業してしまうから、相手への感受性が鈍化して、相互不信が募る。家庭と仕事のどちらかに優先順位をつけようとするから、ストレスが生まれる。二つを同時にやるから、得られるものもある」と説いています。


「ワーク・ライフ・インテグレーション」の主たる意味は、自らの人生観を軸に、ワーク(仕事)とライフ(生活)を柔軟、かつ高い次元で統合し、双方の充実を求めることにあります。 ちょっとわかりにくいのですが、この2つを別々に考えるのではなく、仕事と家庭(そのほか個人の生き方そのもの)を一つのものとして捉え、敢えてそれぞれの要素の線引きしないということです。そうすれば、抵抗なく仕事においても生産性や成長拡大を実現できますし、それによって生活の質を高め、充実感と幸福感を得るなどの相乗効果を得られるではないかということです。


仕事にやりがいをもって取り組むことで個人の生活の質を高め、幸福感を得ることができます。企業や社会全体もそれによって生産性向上や成長拡大できるので、個人と企業(社会)がWin-Winの関係を目指せるという考え方です。 大切なポイントとして、単に「仕事」と「私生活」の2点だけでなく、人生を充足させる要素である「生きがい」や「コミュニティ(社会)」との関係などにも注目し、仕事とそれ以外の人間の活動すべてをインテグレート(統合)させることで、それぞれを充実させて、個人の人生を幸福に過ごせるようとしている点があります。



ワーク・ライフ・インテグレーションのメリット

ワーク・ライフ・インテグレーションが定着すれば、個人と企業だけでなく社会全体にも様々な効果が期待できるとされています。

いくつかワーク・ライフ・インテグレーションのメリットの例を挙げてみます。



1. 個人がより幸福感を感じる

「幸福感」と書くと、何やら怪しい感じがしますが、シンプルに表現するなら「楽しく暮らす」ということでしょう。

ワーク・ライフ・インテグレーションの考え方は、企業の経営者や個人事業主にはなじみやすい考え方だと思いますが、仕事にやりがいを感じている時は私生活も楽しいじゃないかということです。

自分の中で仕事と生活の壁をなくせば、優先順位をつけるストレスもなくなるので、結果的にどちらも充実感を持ちながら毎日を過ごすことができるでしょう。




2. 柔軟な働き方の実現

「ワーク・ライフ・インテグレーション」を実現するためには、企業側が裁量労働・時短勤務・在宅ワーク・フレックスなど、柔軟な働き方を採用する必要があります。その結果、自分の生活にあった働き方を選択していくことが可能になります。

育児や介護の時間を会社のスケジュールに合わせようとするから、時間に追われ、無駄な通勤などでストレスをため込んで疲弊します。1日の使い方を自分で決め、在宅でもちゃんと結果が出せれば理想的です。




3. 個人能力の向上

かつて第1次産業、第2次産業がメインだった時代はさておき、現代の日本の産業構造では、長時間労働によるメリットは少なくなっています。


第三次産業の従事者が7割近い今の日本に必要な「ソフト力」を引き出すためには、従業員にアイディアやコミュニケーションの能力を備え伸ばす必要があるのです。


ワーク・ライフ・インテグレーションにより、あえて仕事と生活を線引きしないことで、仕事を意識しながら、プライベートの時間で得た新しい知識や体験、出会いを仕事に活かしていくことができるといわれています。仕事が忙しいと、そういったチャンスに気が付かなくなります。 もちろん、私生活で充実感を感じリフレッシュした社員から、新しいアイデアが生まれることもあるでしょう。


柔軟な働き方はアイディアだけでなく、他の能力も上がるといわれています。 時短やフレックスの運用時には、業務の調整能力やコミュニケーション力も必要とされるので、必然的にこれらの能力がスキルアップするといわれてます。


例えば、時短などでいざとなったら人に仕事を頼まなければいけないので、自分だけで抱え込まずに、他の人でもいつでも作業できるように情報を共有化・見える化する仕組みや習慣化ができます。 仕事だけでなく、育児や介護をサポートしてもらうために、多様な人たちとの良好な人間関係構築の能力が鍛えられたりします。 結果、企業としての生産性向上も期待できるのです。



4. ダイバーシティの向上

「ワーク・ライフ・インテグレーション」を実現させるためには、必然的に様々な働き方に対応できる人事制度の見直しなどが必要になります。従業員のより働きやすい環境を企業が積極的に整えることで、有能な人材の確保や多様性のある働き方の推進にもつながります。有能な人材なのに、就業体系が合わず、活かせる仕事ができていなかった人を自社に取り込むチャンスとも言えます。



5. 社会的にも良い効果

「ワーク・ライフ・インテグレーション」が普及することにより、個人の幸福感や企業収益の向上などが実現し、結果として社会に活力が生じます。新しい生き方が生まれれば、それに合わせた消費パターンが生まれます。また、少子化にも効果がありそうです。有給消化率が上がれば、趣味やレジャー、観光産業などに好循環が生まれます。日本では大学を出て働き始めると、企業の研修以外に学びの場を持つ機会がほとんどありませんが、自己啓発のために、資格取得の学校、大学院やセミナーなど共通の目的を持った新たなコミュニティに属して、人間としての成長にもつながります。


ワーク・ライフ・インテグレーションが休暇の使い方の幅が広げ、社会・コミュニティとのつながりのためのライフスタイル変更が休暇取得意欲につながります。



ワーク・ライフ・インテグレーションを推進するには

「ワーク・ライフ・インテグレーション」の一般的なイメージは、仕事も生活も一体に考え、常に仕事を意識することが人生みたいな解釈をされている傾向があり、若干敬遠されてしまうことがあります。仕事と生活の統合といわれると、さらに働かされるようなイメージですね(笑)。 誤解を生みやすい一面があるが故、制度の本質を理解してもらうことが大切です。


企業は、ワーク・ライフ・インテグレーションとは、仕事と生活の双方の充実を目的とし、すべてを仕事につなげる考えではないという意思表示をしっかりする必要があります。例えば、評価方法が「労働時間」を重視していると、従業員は間違った解釈をしてしまうので、人事制度を見直して「成果」による評価に切り替えなくてはいけません。

また、ワーク・ライフ・インテグレーションには、経営者従業員全ての人の思考の転換が必要です。しかし、立場的に従業員から行うのは難しいと思われます。したがって、まずリーダーが率先してワーク・ライフ・インテグレーションを成し遂げるようにしましょう。上の立場の人間が正しく示すことで、後に続く社員の理解につながります。



ワーク・ライフ・インテグレーションの企業の事例

ダイバシティや女性活用で先進的な日本アイ・ビー・エム株式会社は、ワーク・ライフ・インテグレーションにも積極的です。トップの意識も高く、介護や育児など、働く場所や時間に制約がある社員には、かなり柔軟な働き方を認めています。採用労働やモバイルオフィスなども早くから採用しています。


オリンパス株式会社では、ワーク・ライフ・インテグレーション施策として「在宅勤務制度」「労働時間短縮制度」「役割フレックス制度」「リエントリー制度」をさいようしています。「リエントリー制度」とは、配偶者の転勤や育児・介護を理由としてやむを得ず退職した元従業員が、再入社を希望する場合に正社員として再登録できる制度です。オリンパスでは全社的に、ワーク・ライフ・インテグレーション推進体制と啓発活動の促進を進めています。2016年3月には、「くるみん認定企業(後述)」として厚生労働大臣から認定もされました。


ワーク・ライフ・インテグレーションを実現するための施策は、基本的にワーク・ライフ・バランスと同じものが使われます。それに加えて、ワーク・ライフ・インテグレーションを推進するキーワードとして、「場所」「時間の柔軟性」があります。


「場所」は会社以外の場所、例えば自宅での勤務を可能にするシステムを提供したり、安全に社内ネットワークへのアクセスを可能にするVPNを引いてあげたりすることです。 「時間の柔軟性」は、社員の判断により時間が使える制度を導入したり、裁量労働制を取り入れます。


以下は様々な企業で実施されているワーク・ライフ・インテグレーションのための制度例です。



1. 子育て支援

育児休業、育児時間、子供の看護休暇、育児短時間勤務制度、保育料補助、ホームヘルプ補助



2. 介護支援

介護休業、介護休暇、介護短時間勤務制度、介護サービス補助金、介護休業給付金、高額療養費、高額介護合算療養費



3. 地域活動支援

ボランティア休暇



4. 裁量労働

フレックスタイム制度の導入、勤務時間中での私用への柔軟な対応


こうした制度の整備だけでなく、個人がワーク・ライフ・インテグレーションを実践していこうとする心構えが大切です。 例えば、休暇もただ月曜に仕事に戻るための充電時間と考えてしまうと、インテグレーションの意味が薄れてしまいます。土日にあえて仕事に役に立つ講演会やセミナーに出てみたり、ビジネス書を読んだり、資格取得のために使えるとより休暇の意義があります。また企業側は、そのために費用をサポートしてあげるのもよいでしょう。


ワーク・ライフ・インテグレーションの意義をしっかり理解させて、これらの制度を導入する必要があります。


 

「子育てサポート企業」の認定 -くるみんマーク認定の取得-

次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき、行動計画を策定した企業のうち、行動計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。多くの企業がくるみんマーク取得に向けて、社内の制度や行動計画を整備しています。今後は、くるみんマーク取得企業が、人材確保に有利になると言われています。


 

ワーク・ライフ・インテグレーションを体現した社宅


同じ会社の社員が居住する一般的な「社宅」とは異なり、業種・職種の異なる多種多様な企業の社員が入居する「シェアする社宅」があります。この社宅は「月島荘」といい、「ワーク・ライフ・インテグレーションを体現した社宅」としてちょっと話題になりました。 「月島荘」は、その名の通り、勝どき・月島にある地上8階建の3棟構成、敷地面積2011坪のマンションです。荘とついてますが、モダンで立派なマンションです。

月島荘は、月島荘の事業主である企業「乾汽船」の倉庫跡地の土地の再開発プロジェクトから生まれました。 「忙しい社会人が、呼吸するように「交流」できる場所を」と、シェアすることで生まれる社宅の新たな価値をコンセプトに建てられています。

具体的には「普段仕事で会えないような人たちと会うきっかけが、日常の中に自然とちりばめられている」点や、住民同士だけではなく、月島荘を使ったイベントなどで「外部の人との交流」を生み出すことなどです。月島荘は、居住者に「交流」という価値を提供します。 様々なイベントが企画され、ライブラリースペースなども用意されていて、さまざまなセグメントの人と交流できます。

入居者は主に2パターンの背景があり、会社が設定した枠に自ら志願して入居される人と、企業研修のような形で自分の意思とは関係なしに入居される人がいます。この「シェア社宅」には、ワーク・ライフ・インテグレーションの実現環境としての目的だけでなく、従業員の柔軟な発想力の育成や、ダイバーシティ(多様性)が必要とされる時代の人材育成、人材投資に近い意味合いが含まれているようです。



 

最後に

「仕事か生活か」ではなく「仕事も生活も」優先順位をつけず、前向きに、どちらも充実させることを目指すからこそ得られる相乗効果が、ワーク・ライフ・インテグレーションの真髄といえそうです。


私の周りでも、フリーランスで働いている人はワーク・ライフ・インテグレーションを実現できていると思います。企業で働いている人はなかなか見当たりませんが、いくつかのネット関連企業には似たようなスタイルで働いている人がいました。彼らには、仕事はどこにいても、どこでもやれる、自分のやりたいときにやりたいだけやる、休日で仕事に役立ちそうなセミナーがあれば、積極的に参加する、日常生活の中で、仕事のヒントがあれば、すぐメモって仕事に活かす、そういう意識を感じました。このスタイルと企業とがマッチすると、本当の意味でワークとライフのインテグレートがなしえるんじゃないかと思います。


ワーク・ライフ・インテグレーションとは個人の人生観を軸に仕事とプライベートを統合させ、双方の充実感を高めることとも言えると思います。


人生の大半を費やす仕事が、ストレスと同義になってしまわないためにも、正しい認知やマインド・チェンジをしっかり行ってほしいと思います。

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