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T型人材とは

時代のニーズに合わせたキャリア形成の重要性が叫ばれています。人材育成をする上で、「こういうタイプの人材が欲しい」というイメージは各社お持ちだと思います。今回はその「理想タイプ」としてよく話題に上げられる「T型人材」と、それ以外の他のタイプについても、簡単ではありますが、ご説明したいと思います。



目次



T型人材とは

かつて日本経済は、専門分野に特化した人材によって支えられていた歴史があります。それら特定の領域に特化するスペシャリストは「I型人材」と呼ばれました。特に研究開発やものづくりの現場を中心に、スペシャリストであるI型人材を重要視する風潮があったと思います。 1970~90年代の欧米追従型の研究開発では、既存の技術の改良や製造手法の高度化、生産管理の洗練といった方向で日本人の良さが発揮されたため、これらの専門性を徹底的に深堀し、突き詰めることができるタイプの人材が求められたのです。


しかし時代は変わり21世紀を迎えると、グローバルな競争を勝ち抜くには、旧来の追従型とは異なる創造性の発揮が必要となります。つまり「自ら新しい価値を生み出す」ことができる人材です。言い換えれば、1つのジャンルの専門家である「I型人材」ではなく、より創造性のある人材が必要とされるようになりました。専門分野を持ちながらもグローバルな視点を持つ人材、その役割を期待して打ち出されたのが、「T型人材」という人材像です。


「T型人材」は、「専門分野 + 幅広い知見」を持ち合わせた人材で、「シングル・メジャー」と呼ばれることもあります。T型人材の前段階は、先ほど説明した専門分野の深い知識を持つ「I型人材」、つまり「スペシャリスト」です。


「I」とか「T」といったタイプのアルファベットは言葉の略称ではありません。I型人材の「I」は、専門性の高さが縦軸で表現されています。T型人材は、I型人材に横棒の「-」をプラスした人材のことです。「T」の形のように、下方向に深く知識を持ちつつ、横方向に広がる幅広い知見を持ち合わせている人材を表しています。つまり何かひとつの専門分野に精通して深い知識を持ちつつ、他の分野に対しても幅広い知識と知見をもつ人材が「T型人材」です。専門分野をひとつ持っているから「シングル・メジャー」なのです。後述しますが、これに対して2つ専門分野を持った「ダブル・メジャー」と呼ばれる人材もタイプもあります。

情報社会への変化とともに価値観が多様化する現代において、モノづくり現場だけでなく、ビジネスにイノベーションを起こすためには、ジャンルの異なる分野との融合によるシナジー効果やクロスファンクショナル、つまり分野横断的な発想が新しいイノベーションを生み出す鍵とされています。だからこそ、専門知識を活かして幅広い分野で活躍するT型人材の能力が、企業の成長に必要不可欠な要素として求められているのです。



T型人材の特徴

専門分野を持たず、幅広く薄い知識しか持たない人材は、ほかの人材との優位性を保つことが難しいのは言うまでもありません。また、いくら深くて膨大な専門知識を持っていても、その分野に固執し過ぎると他の分野に展開することができなくなります。


T型人材は、I型人材が進化した人材と言われます。I型人材は、専門分野に精通したスペシャリストのことでした。I専門分野に対しては高い知識や能力を有しているため、研究開発分野の開発者や技術職、職人などの専門職として活躍してきた人材です。しかし、IT技術やテクノロジーの劇的な進化とともに、専門領域で能力を発揮してきたI型人材の役割が薄れつつあると言われています。


T型人材の特徴は「スペシャリストであり、ゼネラリストでもある」と言うことにつきます。専門分野に特化したスペシャリストと、幅広い知見をもったゼネラリストが融合した人材なので、専門分野に関する知識を基本から応用まで深く理解する能力と、専門外の領域まで視野を拡大して柔軟に活用する能力を持ち合わせています。つまり、物事に対して2つの側面を併せ持った多様性がある人材なのです。


また、このタイプは「アナロジー思考に優れる」という特徴もあります。「アナロジー」とは、「類推」の意味で、「似ている事由を推し量る」ことです。つまり「アナロジー思考」とは、新しいアイディアをゼロから発想するのではなく、すでに存在しているものから発展させてアイディアを生み出すことを意味します。T型人材は、アナロジーな思考能力を有しており、専門知識に裏付けされた客観的な視野で、新しい価値を創造していくことができます。これこそまさにビジネスシーンで必要とされているイノベータータイプなのです。


T型人材の必要性

文部科学省の科学技術・学術審議会が、2002年夏に発表した「世界トップレベルの研究者の養成を目指して」という提言において、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」こそが、これからの時代の研究者に必要とされる「真の専門性」であると述べられています。まさにこれは「I型人材」から「T型人材」への転換が必要だというメッセージです。

世界的に有名なトップ企業でもT型人材が必要とされています。シャープの町田勝彦会長はかねてから「T型人間たれ」と提唱していました。町田氏は、「これからのものづくりに大切なのは技術の融合であり、それを実現するためにはT型人材の育成が不可欠だ」と強調しています。特に「技術者は放っておくと、I型人間の集団になってしまう。会社は意図して、ローテーションや研修制度の導入を行っていく必要がある。Tの横に広がったノリシロの部分が他の人とくっつくことで、化学反応が起こり、新たな製品や技術を生み出せる」と、開発の現場にありがちな狭い視野でもがくI型人材の変化を求めています。

アップルコンピューターのマウスをデザインしたことでも知られるデザインコンサルティングファームIDEOでは、T型人材を育てることでたくさんの革新的なプロダクトを生み出していきました。CEOのティム・ブラウンはT型人材について、「自分の核となる深い専門知識をもつ側面」と「コラボレーションによって専門外の技能を広げられる側面」を併せ持った人材だと評価しています。まさにT型人材を育てることで、IDEOはデザイン思考を可能にし、数々のイノベーションを成功させてきたのです。

特にデザイン思考を推進している企業では、いままでの専門家によるモノづくり手法に捉われずに、技術者も企画者もデザイナーも総出でモノづくりに関わることで、革新的な製品を生み出すことに成功しています。



T型人材を育てていくには

では、T型人材を育てていくにはどういった人材育成をすればよいのでしょうか? 当然ですが、スペシャリストとして専門性をより深く進める教育と、ゼネラリストとして幅広い視野を身に着ける教育が必要です。


具体的に見ていきましょう。

 
  1. 専門性を高める教育 T型人材は、スペシャリストとして自分の専門分野に精通した知識と能力を持つことが必要です。専門性の高い知識やスキルを伸ばすためには、まずは業務に深く携わり仕事を進めます。そのうえで、さらに基礎知識をより深く専門的に学べる研修制度を導入します。 研修を通してT型の基本となる「I」の部分を伸ばす人材育成を行います。

  2. 幅広い視野を身に着ける教育 次に、「T」の「-」横棒の部分、つまり横方向に広がる幅広い知見を身につけるにはどうするかですが、よく使われるのが「ジョブローテーション」を取り入れて、それにより幅広い知見を養う手法です。 一つの分野のみに従事すると、なかなか他分野についての知識や知見を増やせません。ずっと同じ部署だとスペシャリストになることはできても、視野が狭く他の分野との協調性に欠ける存在になる危険性があります。 そこで制度として定期的に他部署へのジョブローテーションを実施し、他の分野で働く経験をすることで、複数の分野にたいする知見を養うことが可能です。固定観念に囚われない柔軟な思考を養う仕組みを整えることで、優秀なT型人材を育成することが出来るのです。 また、部署を横断するようなプロジェクトに参加することも有効です。プロジェクトを通じて他分野の社員と交流し、タッグを組んで進めていくことで、様々な意見を受け止め、固定観念にとらわれず柔軟に対応できる力を養うことができます。

  3. 経営者目線の視点も必要 T型人材にビジネスのイノベーターとしての役割を求めるのであれば、経営者目線で見渡せる視野を持つようにすることも有効です。具体的には、部署の枠を超えた全体会議や経営層に近いメンバーとの企画系会議に出席させます。ビジネスを考える上で、経営者目線から全体を見渡す視野は不可欠です。企画や営業会議に参加して、積極的な問題提起や議論を交わせる場を作ることで、T型人材はさらに成長します。

 


その他の「○型人材」を見てみる

「○型人材」という表現は他にもいくつかあります。最近では、リーダーに求められる理想の人材像として、T型をさらに進化させた「Π(パイ)型人材」にも注目が集まっています。その他の「○型人材」を見てみましょう。

 
  1. 一型人材 一型人材は、専門分野に関する知識は浅いですが、代わりに幅広い分野をこなす能力を有している人材のことを指します。ゼネラリストとも呼ばれ、広い分野にわたる知識やキャリアがあるものの、特定の専門性を持ち合わせていないのです。企業においては、管理職や総合職に多い人材型です。一型人材はどのようなキャリアを積んできたかにより、能力に大きな差が生じます。

  2. I型人材 すでに説明した通り、専門性の高いスペシャリストを指します。かつて日本企業が重用した、1つの専門ジャンルを極めた人材、特に技術職に多く、営業や企画など異動の多い職種では少ないタイプです。

  3. Π(パイ)型人材・π型人材 T型人材が、一つの専門性にたけているのに対し、π型人材はもうひとつ柱、つまり、異なる分野2つ以上の専門的な知識を極めた人材です。Π型人材の「Π」は、「T」に縦棒を一本追加することで、複数の専門性を表現しています。「ダブル・メジャー」とも呼ばれます。 Π型人材は、「T型人材をさらに進化させたタイプ」ともいわれ、複数の専門性の融合による新たな価値観を創造し、他の分野へ視野を拡大しながら能力を発揮するととができることから、ひとりでも独創的な発想をすることができるのが特徴です。まさにイノベータータイプです。

  4. H型人材 「H型人材」は、縦に2本の柱がある点でΠ型と形が似ていますが、横軸の意味が少々異なります。H型人材の「H」は、強い専門性を誇る分野が1つあって、横軸の-で他人の専門性を繋げる能力を持ちます。個人の能力を表現するT型人材やI型人材と比較して、H型人材は人と人を繋ぐコミュニケーションスキルに優れた人材を指しています。まさにビジネスの「架け橋」となる人材です。 このような他者との連携をする力を持つH型人材は、ビジネスに新たな価値観や創造性を生み出す「イノベーション人材」として、T型・Π型人材とは違った形で社会に貢献する存在として期待されています。

 


最後に

最後に色々な「○型人材」を紹介しましたが、果たしでどの人材タイプに焦点を当てて育てるべきでしょうか?専門分野はしっかり押さえなくてはいけませんが、ビジネスをするにあたり、現代の社会では、何よりも幅広い知見をもつことでより柔軟に対応できる強い人材が必要だと思います。実際問題として、人材資源として価値のあるΠ型やH型は育つまでにだいぶ時間がかかると思います。


また、すべての人材がΠ型やH型でもうまくいかないでしょう。なぜなら、これらのタイプは「まとめ役」「リーダー」として、他のタイプの上に立つほうが機能的であり、配下の他の型がある程度数が多いほうがプロジェクトが潤滑に進むかもしれないのです。したがって、人材育成をするにあたりまず育てるべきは、プロフェッショナルたる深い専門知識を持ち、他の幅広い分野でも活躍していける広い視野を持ち合わせた「T型人材」で、その割合を増やすことに注力すべきかと思います。


時代が求める人材像は、「I型人材」から「T型人材」、そして「π型人材」へと、注目が移り変わってきています。しかし、専門性を極めた人材というのは新卒採用で発掘できるわけはなく、計画的なキャリア形成を考え、研修・教育プログラムによって育てるしかありません。つまり「どんな人材を育成したいのか」という、明確な目標を定めた研修プランの立案が求められているのです。


最後までお読みいただきありがとうございました。



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